2017.07.21

蓮舫氏の『二重国籍』は問題なし。説明責任は法務省にあり

奥田安弘×荻上チキ

政治 #荻上チキ Session-22#蓮舫議員#国籍問題#二重国籍#法務省

民進党・蓮舫代表の国籍をめぐる問題が再び注目を集めている。そもそも「二重国籍」であることは問題なのか? そして、蓮舫代表が国籍資料を公表することにどういった影響があるのか。中央大学法科大学院教授・奥田安弘氏が解説する。2017年7月13日放送TBSラジオ荻上チキ・Session-22「民進党・蓮舫代表の『二重国籍』は問題なし。説明責任は法務省にあり」(構成/大谷佳名)

■ 荻上チキ Session-22とは

TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら →https://www.tbsradio.jp/ss954/

“二重国籍の政治家”は違法?

荻上 ゲストをご紹介します。『家族と国籍――国際化の安定のなかで』(明石書店)の著者で、国際私法がご専門の中央大学法科大学院教授・奥田安弘さんです。よろしくお願いします。

奥田 よろしくお願いします。

荻上 今日は、民進党の蓮舫代表の国籍資料公表をきっかけに「国籍」について改めて考えたいと思います。まず、蓮舫代表の国籍に関するこれまでの説明をまとめます。

蓮舫氏は1967年に台湾籍の父と日本人の母の長女として日本に生まれる。当時の日本の国籍法では父親の国籍しか取得できなかったため、台湾籍として日本で暮らした。日本と台湾が断交した1972年以降は中国籍の表記となり、その後1985年に日本の国籍法が改正され、父親だけでなく母親が日本人の子どもについても日本の国籍を取得することができるようになった。その経過措置として、改正法の施行前に生まれた蓮舫氏も、1985年1月21日、17歳の時に届け出により日本国籍を取得した。蓮舫氏は同じ時期に父親と大使館に相当する台北駐日経済文化代表処を訪れ、台湾籍を放棄する手続きをしたと記憶し、過去にそう説明していたが、昨年9月6日の会見で「代表処での父親の台湾語が分からなかったので、実際にどういう作業が行われていたか分からなかった」と説明を修正。同じ日に、念のため台湾国籍を放棄する書類を提出し同時に国籍について台湾側に問い合わせたところ、9月12日に「戸籍が残っている」との回答があった。その後9月23日の会見で、台湾当局から台湾籍放棄の手続きが完了し、その証明書が届いたと明らかにした。

去年9月に台湾国籍が残っていることが判明して以来、蓮舫代表の国籍を問題視する一部の声はやまず、民進党内においても「二重国籍問題が支持率低迷の原因」と指摘する議員が出てきました。そうした状況の中、おととい開かれた民進党の執行役員会では「蓮舫代表が自身の戸籍謄本を公表する考えを表明した」と、会合に出席した複数の党関係者が明らかにしました。この報道に対してはさまざまな反応があり、蓮舫代表は7月13日の定例会見で次のように述べ、戸籍謄本の全面開示は否定しつつ、7月18日に自身の国籍に関する関連資料を公表する意向を示しました。

「我が国においては、戸籍は優れて個人のプライバシーに属するものであり、“差別主義者”や“排外主義者”の方々に言われて公開するようなことは絶対にあってはいけないと思っています。また、その前例にしてはいけないとも思っています。ただ、野党第1党の党首として安倍総理大臣に強く説明責任を求めている立場から、きわめてレアなケースではありますが、戸籍そのものではなく、すでに私が台湾籍を有していないことが分かる部分をお伝えする準備はしております。

ただ、これは多様性を否定するものでもなく、また、わが党の仲間が私をどうのこうのと言うものでもありません。私は『多様性の象徴』だと思っています。その部分では、共生社会を作りたいという党の理念に一点の曇りもありません。ただそこに対して、若干の曇りが私自身の二転三転した説明にあるという疑念がなお残っているのであれば、それは明確にさせていただきたい。」

これを受けて、Twitterでは多くの民進党議員の方からのコメントがあり、たとえば今井雅人議員は、「都議選の大敗を受けて、何をすべきか。課題は沢山あるが、まずは、蓮舫代表の二重国籍問題を解決することだ。この問題をうやむやにしてきたから、うちの党はピリッとしないのである」と発言。一方で、有田芳生議員は「蓮舫代表が戸籍を公開して何が明らかになるのか。国籍選択日が記入されているというが、それがどんな意味を持つのか。政党の代表が戸籍というもっともプライバシーに属することの公開を強いられて、それが一般人へのさらなる攻撃材料になることは目に見えている」と批判しました。

それに対して、原口一博議員は、「公職選挙法による立候補の国籍要件は指摘されている通り、偏に日本国籍を有すればいい」と発言する一方で、「戸籍開示は他者から強いられる性質のものでは断じてない」と言いつつ、しかしながら説明することの重要性は指摘されていました。寺田学議員は、「都議選の敗因を代表の二重国籍問題とする意見が党内にあるが、そのピントのずれが根源的な敗因を作り出していると思う。これは我々自身の問題だ」として、そもそもこうした論点になっていること自体が問題だと指摘しています。小西博之議員も、「戸籍の開示ではなく、口頭の説明で十分ではないか。政治的責任から明らかにすべきと考える内容については弁護士に確認してもらい、説明の真性を保証して貰えば十分だ」と述べるなど、さまざまな反応が出ています。

さて、こうした一連の反応も含め、奥田さんはどのようにお感じですか。

奥田 戸籍の開示という話が出てきたこと自体、非常に違和感を覚えます。たとえば、1976年までは、戸籍は「原則公開」でした。しかし、それは誰でも他人の戸籍謄本を取れるという意味であって、全国民に見えるような状態に置くという意味ではありません。仮に他人の戸籍謄本を取った人がそんなことをしたら、当時でも、法的責任を問われたでしょう。また、1976年に戸籍が「原則非公開」となったのは、戸籍謄本によって出自が明らかとなり、就職で不利になるとか、婚約が破談になるというようなことが起きたからです。しかし、今のように、テレビやインターネットで公開されるというのは、同じ「公開」でも意味が全然違います。

戸籍謄本というのは、旅券の発給を受ける際に、日本国民であることを証明するためであったり、本籍地以外の市町村で婚姻届を出す際に、独身であることや婚姻年齢に達していることなどを証明したりするために、役所に提出するものです。それを会社の人事に使ったり、結婚相手の素性を知るために使ったりするのは、プライバシーの侵害であるだけでなく、本来の目的から外れた制度の乱用と言えます。ましてや全国民に公開するのは、他人から強制された場合だけでなく、仮に本人が自発的に行ったとしても、制度の根幹を揺るがす行為だと思います。

荻上 そもそも仮に二重国籍だった場合、政治家、あるいは野党第1党の党首や総理という立場にはなれないのでしょうか?

奥田 いいえ。現在の法律を適用した場合には何の問題もありません。昨年10月に日本維新の会が「国籍選択をしていない者は被選挙権がない」「管理職公務員になれない」といった内容の法案を出しましたが、審議未了で廃案となりました。こうした法案が出されるということからも、現在の法律では日本国籍以外に外国国籍を持っていても、それは政治家や国家公務員の欠格事由にはならないことが分かると思います。ただし、外交官だけは、外交特権との関係で二重国籍が欠格事由とされていますが、それでは外務大臣も、というわけではありません。

荻上 今回、選挙の際に二重国籍であると公職選挙法に違反するのではないかという議論もありましたね。その中で、「これまで二重国籍であることを認識しつつも自分は日本人だと宣伝していたことが、有権者を欺くことになるのではないか」という指摘がありますが、二重国籍であっても日本人ではあるわけですよね。

奥田 公職選挙法では日本国籍のみが要件であり、外国国籍を持っていても問題とはなりません。立候補の際に選挙管理委員会に戸籍謄本を見せる手続きがありますが、その場合の戸籍謄本は日本国籍があることだけの証明なのです。ですから、二重国籍であるかどうかを調べることはありません。ましてや、選挙管理委員会が戸籍謄本を公表するなどということはありえません。

たしかに立候補した人が経歴などを詐称した場合、禁錮・罰金の刑に処せられますが、そこでいう経歴とは、「過去に経験したことで、選挙人の公正な判断に影響を及ぼすおそれのあるもの」とする最高裁判決があります。一般的には、学歴の詐称などがこれに当たるでしょう。しかし、仮に蓮舫氏が二重国籍であったとしても、それを学歴の詐称などと同列に扱えるでしょうか。

投票に影響を与えたという人がいますが、それを言えば、候補者の個人的趣味でさえ投票に影響を与えたという人が出てくるかもしれません。法律がそんなことまで含める趣旨であったとは思えません。また、昨年秋に蓮舫氏に対する告発状を東京地検に出した人がいたようですが、受理されたという話は聞いていません。

そもそも蓮舫代表は二重国籍なのか?

荻上 今回、蓮舫氏はあくまで戸籍の開示は行わないとした上で、台湾籍の消失が証明できる部分のみを提示すると表明しました。また、「これは非常に例外的な対応であり、なおかつ野党の党首としての行動であって、一般人には当てはまらない」と説明していましたが、この辺りはいかがですか。

奥田 蓮舫氏に関しては「二重国籍だ」という決めつけがあると思います。これは世論や民進党の議員だけでなく、蓮舫氏自身もそう思っているのかもしれません。しかし、そもそも二重国籍ということは外国籍を持っているということです。外国国籍を持っているかどうかは、その国の国籍法を適用しなければ判断できません。

ところが中国の場合は、中華人民共和国(大陸)と中華民国(台湾)の二つの政府があり、どちらの政府の国籍法を適用するのかという問題があります。この論点がはっきりしないまま、「二重国籍だ」と決めつけて議論が進んでしまっていることに、私は違和感を覚えます。

もう少し詳しく説明しますと、蓮舫氏は1985年に国籍法改正の経過措置で、届け出によって後から日本国籍を取得しました。たとえば日本人がアメリカに帰化した場合、日本の国籍法によれば、自分の意思で外国国籍を取ったということで日本国籍は自動的に消失します。

しかし台湾の場合は、外国に帰化した人、あるいは届け出によって外国国籍を取った人の場合も、自動的には国籍を失わない。台湾政府の許可を得なければ、国籍を失うことができないのです。当然、政府の判断によっては不許可となる場合もあります。

一方、中華人民共和国の国籍法は日本の国籍法と同じく、自分の意思で外国の国籍を取った場合はその時点で国籍が失われてしまいます。ですから、どちらの政府の国籍法を適用するのかで結論が違ってくる。蓮舫氏が二重国籍になるのは、あくまで台湾の国籍法を適用した場合です。

今回、蓮舫氏の国籍について、「台湾籍」や「台湾国籍」という言い方が広まっていますが、正しくは「中国国籍」があるかどうかを、台湾の国籍法と大陸の国籍法のどちらで判断するのかという問題なのです。

荻上 まず日本政府の外交的立場からして中華人民共和国と中華民国、どちらの法律を適用するのかを考える必要があるわけですね。現在の日本政府の立場としてはどうなのでしょうか。

奥田 従来は、日本が承認した政府の国籍法を適用してきました。ですから、1972年の日中国交回復前は中華民国(台湾)の国籍法しか適用しない、それ以降は中華人民共和国(大陸)の国籍法のみを適用する、という立場でずっと来たはずなのです。ところが今回、国の側は「蓮舫氏の一件は個別の案件なので答えられない」として、新聞報道などで不正確な情報が流れていても放置してますよね。あるいは、法務省自身が不正確な情報を流しているとさえ言えます。

実はこれまで、法務省は国籍や戸籍に関する重要案件については『民事月報』や『戸籍』などの専門誌で公開してきたのです。それは、各市町村での戸籍の取り扱いを統一するために続けてられてきたことです。今回の蓮舫氏の国籍も非常に重要な案件ですので、本当ならば同じように法務省がきちんと国の見解を公表すべきです。

ちなみに、台湾の家族法は、今でも戸籍実務や裁判実務で適用されています。しかし、国籍法は、国民の要件を定めるものであり、主権に関わるものですから、中国の正統政府として承認された中華人民共和国政府の国籍法を適用するというのが、これまでの日本政府の立場であったようです。

また、台湾出身の中国人が日本に帰化する際には、一般に台湾政府の国籍喪失許可証を提出させているようですが、これは、帰化が法務大臣の裁量にかかっていることから説明がつきます。日本の国籍法は、帰化に際して元の国籍を失うことを許可の条件としており、その最低条件は、中華人民共和国の国籍法によりクリアしていますが、さらに裁量の一環として、台湾政府の国籍喪失許可証の提出を求めていると考えられます。

法務省による対応の矛盾

荻上 蓮舫氏は7月18日、戸籍自体を開示するのではなく、台湾籍を離脱していることの証明をすると言っていますが、これはどういった形での証明になると思われますか。

奥田 おそらく、台湾政府から出た「国籍喪失許可証」を見せるだけになるのでしょう。蓮舫氏は昨年9月、この国籍喪失許可証を獲得したと表明していますね。日本の戸籍法では、この証明書とともに「外国国籍喪失届」というものを日本の戸籍に届け出ることで、外国の国籍を離脱したことが戸籍に記載されることになっています。今回、蓮舫氏はこの外国国籍喪失届を法務省に提出しました。しかし、法務省はこれを「不受理」としているのです。

荻上 法務省は受け付けなかったのですか?

奥田 いいえ、受け付けはしたのです。戸籍の手続きには「受け付け」と「受理」の二段階があります。蓮舫氏はこの区別がはっきりとしないので説明が分かりにくくなっているのだと思います。蓮舫氏は「届け出をした」と言いましたが、そこからさらに役所が適法かどうかを判断する手順が残っています。

そこで、仮に二重国籍だったのであれば、「外国籍を失ったことを確認しました」という形で受理するはずです。それを不受理にしたということは、つまり日本政府の立場からして「台湾の国籍法による国籍喪失許可は認めないので、そもそも中国国籍を離脱したことにはならない」という意味になるはずです。不受理になったわけですから、当然、蓮舫氏の戸籍謄本には「中国の国籍を喪失した」というような記載がなされることはありません。

荻上 つまり、仮に蓮舫氏が中国の国籍を持っていたとしても、日本政府の公式な立場からすると「中華人民共和国の法律を適用するので、台湾の国籍なるものは認めていない。よって、二重国籍ではないので何も手続きは必要ないですよ」という意味で外国国籍喪失届を不受理とした、というのが本来あるべき対応である、と。

奥田 その通りです。ところが蓮舫氏によると、法務省は「日本国籍の『国籍選択届』を提出しろ」と行政指導をしたそうです。国籍選択届を求めるということは、蓮舫氏が「二重国籍である」と認めたことになり、政府の立場からして非常に矛盾しています。それも、書面による催告ではなく「行政指導」という非公式な形で求めています。

荻上 「国籍選択届」とはどのようなものなのですか。

奥田 国籍選択届というのは、「日本国籍を選択し、外国国籍を放棄します」という宣言です。単なる宣言であって、実際に外国国籍を離脱するかどうかは外国の国籍法次第です。

というのも、諸外国には、国籍離脱が困難な国はたくさんあります。まったく不可能な国もあったり、手続きが非常に複雑であったり、高額なお金を払わなければ離脱できないなど、さまざまな条件を課す国があります。その場合に、もし外国国籍を離脱しなれば日本国籍は選択できないとなると、「それなら日本国籍を離脱しよう」ということになってしまいますよね。日本国籍の場合は、法務局や領事館に離脱届を出すだけで簡単に離脱できるわけですから。このため1985年の国籍法改正で、宣言だけですませましょうということになったわけです。

荻上 それでは蓮舫氏の場合、その国籍選択届によってどの国の国籍を放棄すると宣言することになるのでしょうか。

奥田 この国籍選択届の用紙には「従来の国籍」を記入する欄があります。しかし、ここに「台湾国籍」と書くわけにはいかないので、「中国国籍」と書くことになります。ということは、中国国籍があると法務省が判断しない限り、国籍選択届は「不受理」となります。しかし、国籍選択届を受理したとすれば、中国国籍の有無について、未承認である台湾の国籍法を適用したことになります。これは、先の外国国籍喪失届を不受理にしたことと矛盾します。

今回、受理となったのか不受理となったのか、今の時点では、蓮舫氏は明らかにしていません。「届け出をした」ということだけを言っています。たとえば自民党の小野田紀美議員は、戸籍を公表して「選択届が受理された」と言っていますが、これは届け出をしただけでなく、それを法務省が適法と判断した、ということなのです。受理となった時にはじめて、戸籍に国籍選択宣言の日が書かれることになります。

いずれにせよ重要なのは、法務省は蓮舫氏の外国国籍喪失届を「不受理」としておきながら、「国籍選択届を出せ」と行政指導をしたという点です。なぜなら、国籍選択を求める時点で、法務省は蓮舫氏が「二重国籍である」と判断してしまっていることになるからです。

さきほど申し上げた通り、台湾の国籍喪失許可証を添付した外国国籍喪失届を「不受理」とするのは、中国の正統政府として中華人民共和国政府を承認し、その国籍法を適用するという立場からの判断であるはずです。ですから、蓮舫氏が日本国籍を得た時点で、中国国籍は失っていることになる。ところが、「二重国籍である」と認めたということは、逆に言えば「台湾の国籍法を適用します」ということを法務省自身が認めてしまったことになるのです。

説明責任は法務省にある

荻上 今回、法務省は蓮舫氏に対して正式な催告ではなく「行政指導」という形で国籍選択を求めたということでした。これについては、どのように捉えれば良いのでしょうか。

奥田 本来、国籍選択は22歳までに行うことが定められており、その期間を過ぎた場合は国側が催告をすることが可能となっています。しかし、すでに国会で法務省民事局長が何度も答弁している通り、これまで法務省が二重国籍と疑われる人たちに対して正式な催告を行ったことは一度もないんです。それにもかかわらず、蓮舫氏に対してだけは、曖昧な行政指導という形で行った。これは不公平ですよね。

二重国籍と疑われる人は国内に大勢いらっしゃると思われますが、その一人一人に対して外国国籍の有無を証明しろと求めることはできません。あくまで国側が一人一人確認するしかないわけです。しかし、そんなことは不可能ですよね。できないからこそ催告していないわけですから、この制度にはもともと致命的な欠陥があると言えます。

荻上 まだ蓮舫氏の国籍選択届が受理となったのか不受理となったのかは明かされていないということですが、もし受理となった場合、これはどういった解釈になるのでしょうか。

奥田 もし国籍選択届を受理し、日本国籍取得後も「中国国籍を持っていて、それを放棄します」という国籍選択宣言をした日を戸籍に記載すれば、法務省は台湾の国籍法を適用したことになります。つまり、今度は中華人民共和国政府にどう説明するのかという問題になるわけです。「中国の正統政府は中華人民共和国である」と言って日中国交回復を行ったわけですから、「国と国との約束を守っていないじゃないか」という話になりかねません。

荻上 蓮舫氏の国籍選択の問題に対応しようとすると、台湾を国として認めたことになるわけですね。

奥田 国籍選択届を受理し、戸籍に書いたとすれば、です。家族法は、私人間の問題ですから、未承認政府の法であっても、戸籍実務や裁判実務で適用されています。しかし、国籍法は、国民の要件を定めるものであり、主権に関わるので、承認政府の国籍法を適用するというのが、これまでの日本政府の立場であったはずです。

よく間違えるのは、台湾のパスポートが有効であったり、かつての外国人登録、今の在留カードや特別永住者証明書で「台湾」と記載されたりしているので、台湾は国として認められていると思い込むことです。しかし、入管法上「台湾」というのは、国の名前ではなく、地域の名前にすぎません。その地域の発行したパスポートを、あくまで例外的に認めているのです。

これは、1998年の入管法改正によるものです。それ以前は、台湾のパスポートを日本への入国に使うことはできず、日本政府の発行する渡航証明書によっていました。外国人登録にも「中国」と記載されていました。蓮舫氏は、日本と台湾が断交した1972年から「中国」という表記になったと述べていますが、外国人登録制度が設けられてから1998年まで、ずっとそういう表記だったはずです。また戸籍実務では、今でも「中国」という表記しか使いません。仮に蓮舫氏の外国国籍喪失届が受理されていたとしたら、以前の外国国籍は「中国」と書かれていたはずです。

そもそも問題なのは、蓮舫氏が日本国籍取得後も中国国籍を持っていることを日本政府が認めているのかどうかです。これは国籍に関する重要案件ですから、法務省はきちんと説明し、従来通り公表するべきだと思います。国籍選択届を受理したのであれば受理をした理由を、つまり蓮舫氏をなぜ二重国籍と判断したのかという根拠を示さなければいけません。

それは国の責任であって、蓮舫氏の責任ではありません。なぜ法務省に説明を求めず、蓮舫氏個人に求めるのか。法務省はこれまで重要案件については市町村に向けて公表してきたわけですから、今回の蓮舫氏の件に限って「個別の案件だから」と言って逃げることはできないはずです。

荻上 なるほど。国籍に関する制度上の問題があるということを法務省がきちんと公表すべきだ、ということですね。

戸籍の開示が差別につながる

荻上 そうした中、戸籍の開示を求めることは、差別をさらに助長することにもなるという指摘がありました。おそらく蓮舫氏を批判する人々は戸籍等を公表したとしても「それは捏造ではないか」という議論にスライドしていく可能性もありますし、よりエスカレートして「日本人か否か、DNA鑑定をしろ」という議論に繋がる恐れもあったりします。今回の件が今後どういった形で広がっていくのか。奥田さんはどうお感じですか。

奥田 仮に戸籍を開示しなかったとしても、悪しき前例になってしまうだろうと思います。二重国籍の疑いのある人たちはまずは「戸籍を見せろ」「説明責任がある」と言われてしまう、ということになりかねません。

さきほど触れた自民党の小野田議員の場合は、去年の秋に国籍選択届を提出し「すぐにアメリカ国籍を離脱する」と言っていましたが、離脱するまでの手続きはかなり大変だったようです。領事館に二回訪れ、2350ドルもの手数料を取られ、今年5月にようやく離脱できたわけです。小野田氏のように、父親がアメリカ人でアメリカ生まれという分かりやすいケースでさえ、これだけの時間と手間がかかる。

一方、蓮舫氏の場合は中国ですから、問題は一層複雑です。日本政府は中華人民共和国と中華民国のどちらの国籍法を適用するのか、あるいは大陸出身か台湾出身かで適用される国籍法が異なるのか。これまでお話してきた通り法務省の説明も十分でないので、二重国籍かどうかも分からない。とても素人の手に負えません。一般論としても、親が国際結婚だから、あるいは外国で生まれたから、というような単純な話ではないのです。

私も実際に相談を受ける時には、まずその方の生年月日を聞き、その当時の国籍法を調べる必要があります。たとえばイギリスは、1981年に国籍法を改正し、イギリスで生まれただけではイギリス国籍が取れないことになりました。ご両親がどちらも日本人でたまたまイギリスに滞在中に生まれた子どもの場合、1981年以降の生まれかどうかで変わるわけです。一般の方がそこまで調べることは難しいですよね。

また、親の一方がアメリカ人または南米人の場合は、これらの国が出生地主義をとるので、日本で生まれた子どもが親の国籍を取得するとは限りません。たとえば、アメリカでは、親が一定期間以上の本国居住歴があったことを要件としたり、南米では、子どもを本国に登録することを要件としたりします。またブラジルでは、かつて一時期、子どもが本国に帰国し、裁判所で手続きをするよう求めていたことがあります。これらの要件も、子どもがいつ生まれのか、その当時の外国の国籍法がどうだったのかを調べなければなりません。単に国籍結婚から生まれた子どもだからというだけで、二重国籍者だと決めつけるわけにはいかないのです。

法務省は「100人に1人以上は重国籍」と言って、国籍選択の啓発をしていますが、実はこれは非常に安易な憶測に過ぎません。国際結婚で生まれた子どもの数がだいたい1〜2%ですから、そのように書いたのかもしれませんが、一人一人を調べたわけではないのです。

荻上 実際に国籍取得や国籍離脱、国籍選択の手続きをしたと本人は思っていても、実際には出来ていないという場合が往々にしてあったりする。一方で、政府の担当省庁ですら実態を把握しづらいという状況もあるので、なおかつ混乱してしまう、と。

ところで、さきほどの小野田議員の場合はアメリカとの二重国籍であったということが分かりましたが、議員であることには問題がなかったわけですよね。それでも政治家であり続ける上で二重国籍をやめるというのは、あくまで世論に対して行動を取ったということであって、違法だからアメリカ国籍を離脱したというわけではない、ということでしょうか。

奥田 はい。そもそも二重国籍の人が政治家になることが違法なのであれば、立候補をする時点で二重国籍かどうかを確認する必要がありますよね。日本の公職選挙法ではそのように定められていませんから、後から二重国籍であることが判明したとしても、失職するということにはなりません。

国籍選択制度の致命的な欠陥

荻上 こうした国籍の問題について諸外国の対応はどうなっているのか、リスナーからこんな質問が来ています。

「欧米では二重国籍が容認されているにもかかわらず、どうして日本では認められていないのでしょうか。」

奥田 まず、日本の国籍法はフランスなどヨーロッパの国籍法をモデルにして作られています。フランスを出生地主義の国と思っている人が多いので、「そんな馬鹿な」と言われるかもしれませんが、フランスは、1804年に「外国でフランス人の親から生まれた子どもはフランス人」という規定を置き、血統主義の元祖と言われています。

その後、フランスは、親子二代にわたりフランスで生まれた移民三世にもフランス国籍を与えるようになりました。しかし、これは「加重的出生地主義」と呼ばれるものです。血統主義の基本を維持しながら、部分的に出生地主義を取り入れたにすぎません。日本は、そのような例外を採用しなかったので、今では、まるで違う法律のようになりましたが、根っこのところでは、つながっているということです。

このような歴史的流れでみると、たしかに1985年に日本の国籍法が改正された当時は、まだヨーロッパでも、重国籍防止条約があり、1977年には、国籍選択制度の創設を勧告する決議が閣僚委員会で採択されています。日本はこれを参考にしたようです。しかし、当のヨーロッパでは、1983年にイタリアがこれに従った法律を制定したくらいであり、そのイタリアも10年足らずで廃止しています。

またドイツでは、2000年の法改正により、8年以上ドイツに住んで永住権をもつ外国人の親からドイツで生まれた子どもは、ドイツ国籍を取得するようになりました。これも、一種の加重的出生地主義であり、血統主義に付け加えられたにすぎません。しかも、このような子どもは、一定期間内にドイツ国籍を選択しなかったら、自動的にドイツ国籍を失うという国籍選択義務が課されていました。これは、親の両方が外国人、たとえばトルコ人であるような場合です。

ところが、2014年には、出生後も、一定期間以上ドイツに住み続けるなどの要件を満たした場合は、国籍選択義務が免除されることになったのです。このような要件を満たさない子どもは、おそらくドイツ国籍の選択をしないでしょうから、その場合にのみ二重国籍が解消されます。もちろん親の片方がドイツ人である子どもは、これまで国籍選択義務など課されたことがありません。

二重国籍を禁止しているのか、容認しているのかというのは、十把一絡げで言えるものではありません。たとえば、ヨーロッパでも、自国民と結婚した外国人の帰化については、元の国籍を維持させる例が多いですが、その他の場合は、いわゆる重国籍防止条件として、元の国籍の離脱や喪失を求める例が見られます。

ただ国籍選択制度は、1985年当時のヨーロッパの制度を参考にしたとはいえ、その後ヨーロッパでは、ほとんど使われていません。日本の立法者は、そのようなフォローアップをしていないという点では、怠慢と言われても仕方ないと思います。

荻上 本来ならば「日本の国籍法は今のままで良いのか」という議論が必要なのに、今は二重国籍かどうかも分からないような状況でなかなか本質に迫れないでいるわけですね。こうした中で、奥田さんは今後どのような議論を期待されていますか。

奥田 注目したいのは、実は今、日本国籍を離脱する人が増えているということです。法務省の統計によれば、日本国籍の離脱者数は、過去5年間をみても、2012年262人、2013年380人、2014年603人、2015年518人、2016年613人と増加傾向にあります。とくに2015年から2016年に100人も増えたのは、去年秋以来の蓮舫氏へのバッシングの影響ではないかと考えられます。こうした不合理な批判によって、今後ますます日本国籍を手放す人が増えたらどうなるのか。こうしたところにも目を向けてほしいです。

また、蓮舫氏の父親は台湾人ですが、母親は日本人です。親の一方が日本人である人が日本の利益を害するようなことをするとは思えません。現に日本に住んでおり、日本の国会議員ですから、なおさらです。今のヨーロッパで子どもの重国籍が広く認められているのも、同じだと思います。基本は血統主義という国が多いので、親の一方は自国民です。外国で生まれ育って、自国との関係が希薄化した人はともかく、たまたま他方の親が外国人であり、同じ血統主義により外国国籍を取得したからといって、いずれかの国籍を選択しろというような残酷なことは言いません。日本はもっと国際化すべきだと言われているわけですから、そのような日本が二重国籍者に国籍選択を迫るのは、まさに「国際化の流れ」に反していると思います。

さらに言えば、現在ヨーロッパで問題となっているのは、主に加重的出生地主義の結果、二重国籍となっている人たちではないかと思います。もちろん情報が少なぎますし、一人一人について調べたわけではありません。しかし、日本は、そのような加重的出生地主義を採用しておらず、親の一方が日本国民である子どもの二重国籍を問題としているわけですから、問題状況は、ヨーロッパ、さらには南北アメリカなどの出生地主義の国とはまったく異なるのだろうと思います(2017年7月24日 加筆)。

荻上 そして国籍法の制度をどうするのか。本質的な議論にも進んでいきたいですね。奥田さん、今日はありがとうございました。

【以下、番組放送後の動向についての奥田氏による補足】

豪州の議員辞職のニュース

番組放送の翌日、オーストラリアの上院議員が10代で帰化した際に、ニュージーランド国籍を失ったと思い込んでいたところ、それが間違いだと判明し、辞任したというニュースが日本でも流れました。また7月18日には、カナダ生まれの上院議員が出生地カナダの国籍を離脱していなかったとして、辞任したことが報じられています。

これは、オーストラリアの憲法が連邦議員の二重国籍を禁止しているからです。しかし、この憲法は、公共事業と関係のある会社の株主であることや、破産宣告を受けたことなども、議員の欠格事由としています。日本の公職選挙法よりも相当厳しいという全体をみるべきであって、二重国籍の禁止だけを取り上げるのはアンフェアです。

そもそも議員の二重国籍禁止は、1701年のイギリスの法律にならったものだそうですが、当のイギリスは、1914年にこれを廃止しています。ところが、オーストラリアは、法律ではなく憲法に規定したので、なかなか改正や廃止ができなかったようです。今ある案としては、現に二重国籍により不都合が生じたときにだけ、外国国籍の離脱を求めるとか、すべての欠格事由を有権者の判断に委ねるべきだ、つまりすべて廃止すべきだと意見があります。

さらに、今回辞任したスコット・ラドラム議員とラリッサ・ウォーターズ議員は、どちらも「緑の党」という少数政党に属しているため、ターゲットにされたという見方もあります。このように政争の具とされることに対しては、現地でも強い批判があるようです。

日本の場合は、先に述べたように、維新の法案が廃案になったので、そもそも国会議員の二重国籍を禁止する法律はありません。仮にこのような法案が成立したとしても、日本では、「法の下の平等」に反するとして、違憲の疑いが生じるでしょう。

(2017/7/26補足)豪州3例目の二重国籍議員のニュース

蓮舫氏の国籍会見

7月18日、蓮舫氏は「二重国籍」の状態を解消したことを証明するため、会見を開き、戸籍謄本の一部などの資料を公表しました。私は、当日会見に出席した知り合いの記者から資料をもらいました。とくに注目するのは、外国国籍喪失届の不受理証明書、国籍選択の宣言日が記載された戸籍、法務省の非公式文書の三点です。

この非公式文書は、「法務省民事局民事第一課」が作成し、蓮舫氏側からの質問に答えるという形をとっています。先に私は、重要案件については、法務省が専門誌に公表していると述べましたが、それとは大きく異なります。普通は、市町村から法務局を経由して、届け出の受理に関する照会があり、それに対し民事局第一課長名で日付を明記した「回答」がなされ、そのうち重要なものが公表されます。しかし、この文書は、課長名ではなく、日付もなく、法務局からの照会に対する回答ではありません。まさに「怪文書」と言うしかありません。

この文書によれば、まず台湾当局が発行した国籍喪失許可証は、戸籍法106条2項にいう「外国の国籍の喪失を証すべき書面」に該当しないから、外国国籍喪失届を受理しないというだけであり、その理由を述べていません。しかし、前述の記者が昨年秋に法務省を取材したところ、「台湾は未承認だから」というのがその理由だそうです。

つぎに、この非公式文書は、台湾出身者については、国籍法14条2項の国籍選択宣言の手続きにより日本国籍を選択することになると述べています。これも理由が書かれていません。ただ、記者に対する会見前の党幹部による事前説明では「法務省によれば、台湾籍を保持している人は、日本の法律上は中華人民共和国の国民として扱われると法務省から説明された」という話があった、とのことです。それなら、台湾人が中国国籍を有するかどうかは、中華人民共和国の国籍法によるべきであり、蓮舫氏は、1985年に届け出により日本国籍を取得した結果、中国国籍を失っているので、国籍法14条1項にいう「外国の国籍を有する日本国民」には該当しないはずです。つまり説明が矛盾しています。

さらに非公式文書によれば、台湾当局から国籍喪失許可証の発行を受けることは、国籍法16条1項の外国国籍離脱の努力義務の履行に当たるとも述べており、疑問は深まるばかりです。これは、国籍選択宣言に対する疑問と同じく、蓮舫氏が中国国籍を自動的に失っているからというだけでなく、努力義務について、具体的なアクションを求めているということでもあります。また、台湾当局の国籍喪失許可証を日本側では受け取れないと言っておきながら、それが日本の国籍法上の努力義務の履行に当たるというのも、法律論として疑問を感じます。

外国国籍喪失届の不受理証明書をみると、喪失した外国籍として「中国」と書かれた届け出を不受理にしたことになっています。台湾が未承認であるから、その国籍法による国籍喪失を認めないということですから、それなら中国国籍の有無は、どの政府の国籍法により判断したのでしょうか。

国籍選択の宣言日が記載された戸籍は、国籍選択届が受理されたことを示しています。しかし、日本が承認した中華人民共和国政府の国籍法によれば、蓮舫氏は、国籍法14条1項にいう「外国の国籍を有する日本国民」に該当しないので、国籍選択届は、本来「不受理」とすべきです。それを受理したということは、違法な行政処分の可能性があります。

いずれにせよ、台湾が未承認だからといって、外国国籍喪失届を不受理としておきながら、その未承認の台湾の国籍法を適用した場合にしか認められない国籍選択届を受理したことは、どのように説明がつくのか、それを明らかにする責任は法務省にあります。

Session-22banner
308358

家族と国籍 国際化の安定のなかで(明石書店)
奥田安弘(著)

プロフィール

奥田安弘国際私法 / 国籍法

中央大学法科大学院教授、北海道大学名誉教授。1953年生まれ。多数の国籍裁判で意見書を提出し、最高裁で三回勝訴。とくに2008年の国籍法違憲判決は有名。番組のテーマに関係する著書として、明石書店から『家族と国籍――国際化の安定のなかで』を7月20日付けで出版し、同じく明石書店から『国際家族法』、『韓国国籍法の逐条解説』(共著)、『外国人の法律相談チェックマニュアル』、『数字でみる子どもの国籍と在留資格』、『市民のための国籍法・戸籍法入門』、有斐閣から『国籍法と国際親子法』、中央大学出版部から『国籍法・国際家族法の裁判意見書集』、『国際私法・国籍法・家族法資料集―外国の立法と条約』(編訳)など多数の著書がある。

この執筆者の記事

荻上チキ評論家

「ブラック校則をなくそう! プロジェクト」スーパーバイザー。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『日本の大問題』(ダイヤモンド社)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『ネットいじめ』『いじめを生む教室』(以上、PHP新書)ほか、共著に『いじめの直し方』(朝日新聞出版)、『夜の経済学』(扶桑社)ほか多数。TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。同番組にて2015年ギャラクシー賞(ラジオ部門DJ賞)、2016年にギャラクシー賞(ラジオ部門大賞)を受賞。

この執筆者の記事