メディアから官邸へ ―― 決断の本当の理由と、今だから話せる官邸の第一印象

新人議員から応援した友人でもある議員が、総理大臣になった。自民党から民主党へのはじめての政権交代のあとで、描いていた理想の政治はなかなか実現しない。そのとき、ニュースアンカーとしてメディアでのキャリアを築いていた50歳の男は、総理の招きに呼応して官邸に入ることを決断。民から飛び込んだ公務員の世界はどう見えたのか。批判的に見ていた日本政府を中から見ると、どう見えたのか。10月に2年の任期を終えて、退職した下村健一さんにインタビューした。

 

省庁では、新卒採用のはえ抜き、終身雇用の公務員ばかりではなく、少なからぬ人材がテンポラリーに働いている。政権交代後、これまでとは違う縁で、民間・異分野から省庁に入って働いている人もいる。契約条件はまちまち、それぞれの転職のきっかけも動機もまちまちだろう。インタビューした下村健一さんは、応援していた旧知の議員が総理になったという特殊な事例ではあるが、そんな新しい人材交流のひとつのケースと読むこともできる。

 

任期中に、総理の交代、世界史上でも稀な規模の大地震、原発事故と、激動の2年間を過ごした下村さん。この「メディアから官邸へ【転身編】」では、人生50年目の決断のきっかけから、メディアから官邸へ入った直後の戸惑いについてお話いただいた。駆け抜けた2年間の広報審議官の仕事を伺った、【広報室審議官編】とあわせてお読みいただきたい。(聞き手・構成/難波美帆)

 

 

下村健一氏

下村健一氏


メディアから官邸へ

 

下村 2年前の10月22日、初めて首相官邸の官房長官室に通されて、まず仙谷内閣官房長官から「内閣審議官」着任辞令の紙をもらいました。

 

あらかじめ考えてたわけじゃないんだけど、その紙を受け取った第一声で、「税金泥棒にならないようにがんばります」と言いました。今ふりかえってみて、その約束は守れたかというと、まったく守りきれていません。この2年間にぼくが提供した労力、成果と、いただいた給料とを天秤にかけると、まだ“泥棒”になっている。これから、政府の外に出てから、その分を返していかなきゃ、と思っています。

 

難波 このロング・インタビューを受けていただいたのも、「泥棒が税金を返す」作業のひとつですか?(笑)

 

下村 そうです。まだ全然、期待された働きはできていませんから。最終日まで、課題は残っちゃった。本当に非力で申し訳ありませんでした、とまず、インタビューを読んで下さる方々にお詫びいたします。これからお話しすることは、すべてこのお詫びが前提です。

 

難波 「期待された」というのは、誰かからそう言われたというより、自分の中で、こう期待されているんだろうと考えていたことですか。

 

下村 両方です。入るときにいろんな人から、「お前が政府のわかりにくさをなんとかして来い」と言われました。まず、いきなり去ることになって迷惑をかけた、「みのもんたのサタデーずばッと」(TBS テレビ系の報道番組:下村氏が一コーナーを担当)のスタッフたちから、「送り出してよかったと言える働きをしてくれよ」と送別会で言われました。“働き”とは何かと言えば、もちろん「政府の都合のいいようにメディアをコントロールすること」ではなく、「本当に政治が何を目指してやっているのかをわれわれ国民に届けること」と、「われわれの声を政府の中に届けること」、このふたつです。そのあと、この転身話がオープンになってからは、いろいろな人たちに同じ趣旨のことを言われました。

 

難波 転身について誰かにご相談したりはしなかったんですか。迷いはありませんでしたか。

 

下村 家族とか、当時籍を置いていた友人の会社とか、ごく身の回りの人には言いました。“サタデーずばッと”に対する申し訳なさは、一番悩みました。でも、自分の人生の選択としての迷いはなかったです。あと、期待の声以上によく言われたのが、「今までずっと権力批判の立ち位置でやってきた者が、急に権力側の犬になるのか。がっかりだ」と言う失望の声でした。でも、これもぼくの中では、まったく迷いはありませんでした。むしろ「あちら側に行ってしまうのか」と嘆く人たちに対しては、「“あちら”側じゃないでしょう。政権交代というのは、権力をこちら側に持ってくる作業でしょ。そのこちら側に持ってきたはずの権力が、今どうなってるのかよくわからないから、政権交代を選んだ国民に対して、それを見やすくするために官邸に入るんだ」というのが、当時からのぼくの考えでした。今でもそう思っています。

 

 

 

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