自民党はなぜ勝利したのか

2012年12月16日に投開票が行われた衆議院議員総選挙は、自民党の圧勝で幕を閉じた。自民党の比例区における得票数は16,624,457票(相対得票率27.6%)と、得票数第2位の日本維新の会(12,262,228票[20.4%])とそれほど大きな差があるわけではなかったが、小選挙区では擁立した候補者288名のうち237名が当選するという、まさに圧勝と呼び得る結果となった。

 

もっとも、この結果について、多少なりとも違和感を覚えた人はそれなりに多くいるのではないだろうか。たしかに自民党が勝利することは、選挙前の報道内容などから十分に予測できることではあった。民主党への支持が選挙直前に急激に回復した兆候は見られなかったし、日本維新の会や日本未来の党など「第3極」と呼ばれる政党も選挙に向けての事前準備が十分整っていたわけではなかったように思われる(*1)。これらの点を勘案すれば、自民党が勝利したことはそれほど不思議な現象ではなく、むしろ当然の出来事だといってもよいだろう。

 

(*1)本稿では以下、第3極を日本維新の会、日本未来の党、みんなの党の3党を総称するものとして、議論を進めていく。

 

しかし他方で、今回の衆院選において、2005年の「郵政選挙」と同様に自民党への「風」が吹いたのかと問われれば、必ずしもそうとはいえないようにも思われる。事実、今回の衆院選における自民党の得票総数は、民主党に大敗を喫することとなった2009年衆院選時のそれと比べてそれほど変わっていない。むしろ、前回と比べて、小選挙区では約165万9千票、比例区では約218万6千票、獲得票数が減少しているのである。

 

ここで1つの疑問が生じることとなる。それは「なぜ自民党は前回の衆院選よりも得票数を減らしたにもかかわらず、多くの(小)選挙区で勝つことができたのか」という問いである。

 

その理由については諸説あるが、主要なものは次の2つではないだろうか。第1の理由は、第3極への票が分散してしまったから、というものである。たとえば、2012年12月17日付の『朝日新聞』では、3党対決型の選挙区で76%、4党対決型で90%、5党対決型で100%、自民党所属の候補者が勝利したことが示されている。これは、4党対決型や5党対決型のように、擁立された候補者数が増え野党間での競合が行われるほど、「漁夫の利」を得るかたちで自民党が勝利したことを示すものだといえる。

 

第2の理由は投票率の低下である。今回の衆院選では、投票率が59.3%と、前回の衆院選の投票率(69.3%)と比較してかなり低い水準となった。多数の政党が乱立したことによる問題や、選挙が行われる時期の問題など、その原因については様々な指摘が見受けられるが、一般に投票率が下がるほど自民党は有利になると指摘される。その背景には、安定した「組織票」あるいは「固定票」を有する自民党は、投票率が下がれば下がるほどそれら「固い票」の重要度が相対的に高まるため、勝利しやすくなる、という想定がある。

 

以上をまとめれば、「なぜ自民党は小選挙区で勝利したのか」という問いに対しては、第1に投票率が低下したことにより安定した票田を保有する自民党が相対的に有利になったこと、第2にくわえて第3極の間での票の「分捕り合戦」が生じてしまったこと、が現時点では有力な答えとして考えられている。しかし、これらの説明は、果たしてどの程度妥当性を有するものなのだろうか。本稿では、これらの点について、今回の衆院選の集計データと、筆者の一人である善教が実施した意識調査(以下、「本調査」と略)をもとに(*2)、実証的に検討していきたい。

 

(*2)意識調査は、2012年12月17日から21日にかけて、(株)楽天リサーチに委託するかたちで実施した。調査対象は全国20歳以上の男女、サンプルサイズは2000である。なお、回答者の性別、地域、年齢に偏りが生じないように調査を実施したことを、ここに記しておく。

 

 

問題提起 ―― 第3極間での票割れ論と固定票論への疑問

 

前節で述べたように、第3極と呼ばれる政党間での競合による票の分散が、自民党勝利の一因であったという印象をもつ人は多いのではないかと思われる。図1は、小選挙区での第1位相対得票率を箱ひげ図で整理したものである(*3)。候補者が2人、あるいは3人しか擁立されなかった選挙区での第一位相対得票率は、そのほとんどが50%以上と比較的高い値を示している。しかし、4人以上の選挙区では、第一位相対得票率の中央値が過半数を下回っており、さらに6人以上の選挙区では、すべて過半数を下回っている。候補者が擁立されているほど当選ラインが低くなることを示すこの図は、第3極間での票割れによる自民党の勝利を想起させるものである。

 

(*3)小選挙区の集計データは、すべて選挙情報サイト「ザ選挙(URL: http://go2senkyo.com/ 2013.1.7最終アクセス)」の掲載情報をもとに作成した。箱ひげ図の説明は、ウィキペディアなどにて説明されているので、そちらを参照願いたい。

 

 

図1 擁立された候補者数と第一位相対得票率

図1 擁立された候補者数と第一位相対得票率

 

 

しかしながら、4人以上候補者擁立された選挙区のすべてにおいて、第3極が競合していたわけではない。4人競合区に多く見られるパターンは、「自民vs.民主vs.共産vs.第3極」であり、第3極間の競合が見られるようになるのは5人以上の候補者が擁立されている選挙区がほとんどである。さらに、5人以上であっても「自民vs.民主vs.共産vs.第3極vs.その他政党(社民党、幸福実現党など)」というパターンもある。

 

図2は、全体の選挙区の中で、第3極がどの程度競合していたのかを整理したものである。第3極が競合していた選挙区は、灰色で塗りつぶしている88区(全体の29.3%)だけであることがわかる。つまり、対自民党という構図からいえば、「みんなの党か日本維新の会か、それとも日本未来の党か」というよりも、「民主党か第3極か」という選挙区の方が多い(115区、全体の38.3%)。第3極間での票割れ、という説明にそれほど説得力がないと考える理由はまさにこの点にある。

 

 

 図2 第3極の競合選挙区数


図2 第3極の競合選挙区数

 

 

以上にくわえて、もう1点指摘しておかなければならないことがある。それは、第3極への票が割れたという説明は、いわゆる「浮動層」(あるいは「無党派層」)と呼ばれている人々の多くが第3極へ投票することを前提にしている、ということである(*4)。言い換えれば、浮動層が民主党から自民党へ流れることについては、ほとんど言及されていないのではないだろうか。たしかに自民党は多くの組織票や固定票を保有しているのかもしれないが、自民党への投票のすべてがそのような「固い票」から構成されていると想定するのは、非現実的である。自民党が、浮動層の票の「受け皿」として機能していた点を、多くの論者は見過ごしている。

 

(*4)本稿では「浮動層」を、便宜的に「前回の衆院選で民主党に投票し、今回の衆院選では民主党以外に投票した有権者」と定義する。

 

結論を先取りすれば、筆者らは、自民党の勝利には次の2つの「票割れ」が貢献したのではないかと考えている。1つは、民主党とその他政党の間での票割れである。多くの有権者の心の内には、依然として「選択肢としての民主党」が残存しており、これが民主党と第3極との間での票割れを生じさせることとなった。

 

もう1つは、浮動層の票割れである。今回の衆院選では、民主党だけではなく、自民党も、さらには第3極もそれほど魅力的な政党として有権者の目には映らなかった。そのため浮動層は、第3極だけではなく自民党にも投票した。すなわち民主党と第3極の間で票割れが生じたことで小選挙区での当選ラインが下がったことにくわえて、自民党の保有する組織票・固定票に浮動層の票が積み上げられたことで、自民党は多くの選挙区で勝利することができた。以下では、これらの点について、順に議論を進めていきたい。

 

 

 

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