2018.11.22

ダイエットしたら太る――最新の医学データが示すダイエットの真実(1)

永田利彦+山田恒 / 精神科医

科学 #ダイエット

はじめに、ダイエットという魔物

ダイエットを成功させると幸せになると思っていませんか。生活が一変し、人生の成功者になれると思っていませんか。多くの人がダイエットの人生一発逆転効果を盲信し、ダイエットに惹きつけられていっています。テレビ、新聞、雑誌、そしてインターネットコマーシャルで、新しいダイエット法が紹介され、人生がどれだけ輝かしいものと変わったかが語られ、人々の自己実現欲を煽り、流行し、廃れ、そしてまた次のダイエットが流行るようになります。

どうして痩せられないのでしょう。意志の問題だと、自分を責めてばかりでは解決になりません。ダイエットってなんでしょう。そもそも、あなたはダイエットする必要があるのでしょうか。もし必要がない人がダイエットをすると何が起こるのでしょうか。

これからのお話の中に出てくるダイエットというのは、体重を低下させようと意識的にカロリー摂取量を減らそうと試みることです (Hill, 2017)。ポイントは、“摂取量を減らそうと試みた”ことだけで、結果的に継続的に摂取量を制限し体重減少できたかは関係ありません。何をどれだけ、どのように食べるかにこだわるのがダイエットです(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)。

ダイエットは目標体重になるのが目的ですので、一時的な体重低下に終わります。多くが美容目的で、痩せすぎの体重が目標なので、不自然、不健康なライフスタイルにならざるを得ません。周囲の驚嘆する表情を思い浮かべながら過激な痩せすぎの目標体重を設定し、人々の賞賛を夢見てダイエットに猛進するというのがよく見られる光景です。

そのような向こう見ずな、痩せすぎを目指したダイエットは、その目標体重に到達した後のことを考えていないので、長期的にはダイエットは必ず失敗します。そして、現実的にはダイエット開始前よりもっと太るという悲惨な結果に終わってしまうことが、医学的な研究によって示されているのです。

それに対して、現在、不健康な体重にある人々が、医学的に正しい健康的なライフスタイルに変更すると、つまりヘルシーなライフスタイルを基本に、日々の生活を地道に営み、その結果として健康的な体重の維持という堅実な結果がやってきます(Wadden, et al., 2012)。ダイエットとは似ていて、全く違うことなのです。

まず類似の言葉を説明しておきます。痩せすぎはBody Mass Index (体重(kg)/身長(m)2、以下BMIと略す)が18.5未満であることです(表1参照)(World Health Organization, 1995)。太りすぎ、肥満もBMIの数値で判定されます。

ダイエットは人が自ら意識的に摂取カロリーを抑えようとすることです。摂食障害研究で登場する言葉に体重抑制(Weight suppression)がありますが、これはダイエットの結果、ある程度の体重減少が継続していることです(Lowe, 1993)。摂食障害研究では、成人になってからの最高体重と現在の体重との差(Lowe, 1993; Stice, et al., 2011)とも、少なくとも6〜12ヶ月間継続する、10ポンド(4.5キロ)の体重減少(Lowe & Kleifield, 1988)とも定義されています。

では、ダイエットとは何かを、最新の医学研究結果に基づいてご紹介していきます。このシリーズの後半には、ダイエットしたいという気持ちの果てに起こる摂食障害という巨大迷路をご紹介します。

*WHO (World Health Organization, 1995)はpre-obese、日本肥満学会(日本肥満学会肥満症診療ガイドライン作成委員会, 2016)は肥満(1度)としています

ダイエットをすると太るという不都合な真実

ダイエットをすると太ります。そんな嘘のような話が実証されているのです。Neumark-Sztainer(Neumark-Sztainer, et al., 2012)という先生たちは、米国ミネアポリス近郊の中高生1902名(うち女子学生1083名、研究開始時の平均12.8歳ですから、平均は、おおよそ日本の中学1年生に当たります)を対象に10年間にわたって追跡調査しました。

これは前向きコホート研究という質の高い研究です。「この1年間にどれぐらいダイエットしましたか」との質問に、「なし」、「1~4回」、「5~10回」、「10回以上」、「常に」のうち、「1~4回」以上を回答した場合にダイエットしているとしました。また、過去1年間に体重を減らすために、①断食、②ほとんど食事をしない、③ダイエット食品、ダイエットドリンクの利用、④食事を抜かす、⑤より多く喫煙する、⑥ダイエットピルの利用、⑦嘔吐する、⑧下剤、⑨利尿剤、すなわち不健康なダイエットについても質問しました。

最初の研究は1998年~1999年に、2回目の追跡調査は2003年~2004年に、3回目は2008年~2009年に行われ、対象者の平均年齢は12.8歳から23.2歳に成長していました。38%の女子学生が、研究開始時点と2回目調査の両方で、ダイエットを継続して行っていました(表2参照)。そしてダイエットを継続していた群は、Body Mass Indexが4.3上昇していました。BMIは表1に説明したとおりです。

たとえば体重50キロ、身長160センチなら、50÷1.6÷1.6=19.5で19.5です。これが4.3上昇して23.8になったとすると、体重が60.9と10キロも増えてしまったことになります。このBMI上昇値は、開始時点でのBMIや年齢、人種、経済状況によって統計学的に補正した値です。ですので、開始時点で太りすぎであったかどうかと、ダイエットの10年後の影響は関係ありません。

さらに、衝撃なのは、図1に示したとおり、研究開始時で過体重(BMIが85パーセンタイル以上)の女子学生が不健康なダイエットを継続したばあい、10年後にBMIが5.19上昇していたのです。たとえば155センチ60キロから、72.5キロに12.5キロアップしたことになります。そのような不健康なダイエットを行わなかった場合、BMIの上昇がわずか0.15であることと対照的です。体重が重めの女子学生が焦って、不健康なダイエットを行い、その結果、成長期の10年といった大事な時期にドンドンと体重が増えていく現実が顕わになったのです。

図1、女子学生の10年後のBMI(研究開始時点で過体重、BMIが85パーセンタイル以上であった場合、不健康な体重コントロール継続の有無で比較)

この研究では実に15年後の調査もされています(Goldschmidt, et al, 2018)。15年後まで体重が増えすぎたことがない(BMIが25を超えていない)人たちは、ダイエットや不健康なダイエットをしていない人が多かったです。その一方で、ダイエットや不健康なダイエットは、15年後の体重増加と関係しており、10代後半にダイエットを続けることが、その後の体重増加と関係していることが示されています。

この衝撃的な研究結果をどのように理解したら良いのでしょうか。この研究を行ったNeumark-Sztainer博士(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)は次の4つの理由をあげています。

①ダイエットはごく短期間の行動であって、ライフスタイルを変更して、運動を続け、規則正しく朝食を摂り、フルーツや野菜を摂ることとは異なる。②ダイエッティングサイクルなどと言われるように、無理なダイエットは饑餓状態によって強い空腹感に苛まれ、耐えきれず、食べ過ぎに陥り、ダイエットに失敗したと意気消沈し、再びダイエットに励む負のサイクルが形成される。③自然な生理的コントロール(空腹と満腹の内部サイン)ではなく、意識的に摂食をコントロールしようとしていると、少し禁止している食物を摂取しただけで食べ過ぎに至るなど、ダイエットによって反対に脱抑制のリスクが増す。④ダイエットにより代謝が下がり、つまり代謝を維持するのに必要なカロリーが少なくてすみ、より太り易くなる体質が獲得される。

この4つ目の、ダイエットによって反対に太り易い体質になることが、もっとも怖いことです。さらに最近の研究では、ダイエットすればするほど脂肪細胞が増えてしまう可能性があると報告されています(Maclean, et al., 2011; MacLean, et al., 2015)。

ダイエットをした全員が摂食障害になるわけではありませんが、ほとんどすべての摂食障害はダイエットを契機として発症しています。そして摂食障害治療では、たとえ過食症の治療であっても、いかにダイエットを止めるかが重要です(Fairburn, 2013)。

結局、肥満も、摂食障害も、ダイエットをすれば改善するのではなく、ダイエットは発症や悪化の糸口なのです。意識を変えないといけません。ここから、「太り易い体質」などを含めて、1つ1つの項目を紹介していきます。

ライフスタイル・生活習慣は簡単には変えられない

ここでは肥満と減量の話をしようと思います。体重が健康な範囲内かどうかは、BMIで判断されます(表1参照)。肥満の方々は、ダイエットでは減量が成功しません。ダイエットの代わりにライフスタイル変更が必要とされています(Lifestyle modification、生活習慣の変容とも翻訳されています)。ダイエットとは、ただ単に、体重を意識的に低下させようとカロリー摂取量を制限しようと試みること(Hill, 2017)です。継続的な変更を意味していません。毎日、適切な運動を行い、毎朝、朝食を食し、果物と野菜を摂るといったライフスタイルの全面的な変更が必要です(Neumark-Sztainer & Loth, 2017)。

糖尿病や高血圧などの慢性疾患を患い、肥満が病状に関連している場合、通院のたびに医師から体重管理が指示されます。ダイエットを何度も試みて失敗を繰り返し、自分の生活全体を変えていくことが必要なことに気づくことになります。試験の前日にならないと勉強ができないのと同じです。追い詰められないと行動できないものなのです。

減量の幅は、そんなに大きくなくとも良いのです。現実的で達成可能な目標が重要です。肥満の人が、体重を5%減少させることができれば、もうそれだけで十分に、健康上の種々のリスクが改善されます(Magkos, et al, 2016)。具体的には、少し難しい話ですが、脂肪細胞、肝臓、筋肉のインシュリン感受性が改善し、膵臓β細胞の機能も改善します(Magkos et al, 2016)。

それでも、減量し、それを維持することはとても難しいことです。もう60年も前に、この分野の権威であるStunkard 先生(Stunkard et al., 1959)が、肥満外来の“悲惨”な結果を報告しています。100例の患者のうち、20ポンド(約9キロ)以上の減量に成功したのはわずか12%で、2年後に、その体重減少を維持できたのはわずか2例(2%)でした。

最近の研究でも、米国で肥満の人たちが減量して、10%の体重減少を1年間維持できた割合は、わずか17.3%でした(Kraschnewski, et al, 2010)。この研究では、「昔より良くなった」と報告されていますが、この数字で「良くなった」数字なのです。なぜなら肥満に対する29もの減量プログラム研究を分析した結果(これをメタアナリシスといいます)、1年で過半数は元の肥満体重に戻り、ほとんどは3~5年のうちに元の体重に戻ってしまっていたのです(Anderson, et al., 2001)。

そこで治療として、ライフスタイル変更療法(Lifestyle modification)(Wadden, et al., 2012)が行われます。研究結果は輝かしいものです。

強力な包括的、集中的なライフスタイル変更療法(Intensive Lifestyle Intervention, ILI)(Look Ahead Research Group, et al, 2013; Wadden, et al., 2012)では、最初の6ヶ月間(24週間)に、月に1回の個人カウンセリングと月に3回の集団カウンセリングを受け、3回の食事のうち2回をスリムファクトという液体補助食品だけにします。体重(米国人です。平均体重101キロです)に応じて、1日1200~1800カロリーの低脂肪食と1週間あたり175分以上の身体的活動(早歩きが一般的です)、行動療法(主に記録による自己監視、セルフモニタリング)により10%の体重低下を目指します。

次の7ヶ月目から12ヶ月目までは、月に1回の個人カウンセリングと2回の集団カウンセリングを受け、液体栄養補助食品は1日1回に減ります。2年目から4年目までは、月に1回の受診と月に1回の電話またはメール連絡を行い、ときにグループセッションを行います。4年目以降も月に1回は連絡を続け、年に2~3回は集団教室や数日の講習会を受け、体重低下の維持を目指します。

その結果、最初の年には8.6%、4年目でも5%近く、研究終了時でも6.0%の体重減少を維持しました(平均9.6年、8.9~10.3年)(Look Ahead Research Group et al, 2013)。

しかし、参加者たちは追い詰められ、覚悟を決めた、ある意味、エリートたちです。II型糖尿病を有し、研究参加時の平均体重が101キロ(標準偏差20)、腹回りが114センチ(標準偏差14)と、まさに主治医から、体重を減らさないと寿命が縮まると警告された人々なのですから。最初の6ヶ月間、仕事を週に1回休んででも、集団カウンセリングや個人カウンセリングに通う決心をして、研究参加承諾書にサインをしても当然です(米国のこの種の承諾書は、分厚く、1センチ位あって、その上、すべてのページにサインを求められます)。

体重100キロの人が、毎日の摂取カロリーを1200~1800カロリーに抑え、週に175分歩いたのです。涙ぐましい努力です。美容目的の場合、週に1日、ジムでカウンセリングを受けるために休みを取ることは許されないばかりか、上司に叱責され、家族に猛反対されるでしょう。

集中的なライフスタイル変更療法を受けた群は約9年後の体重減少は6%でしたが、介入を受けなかった群でも3.5%の体重減少がありました。介入を受けなかった対照者も追い詰められた人々です。女子中学生が美容目的のダイエットしているのとは次元が違うのです。

次回は、ダイエットサイクリング、太り易い体質と話を続けます。

文献

・Anderson, J. W., Konz, E. C., Frederich, R. C. & Wood, C. L. (2001) Long-term weight-loss maintenance: a meta-analysis of US studies. American Journal of Clinical Nutrition, 74, 579-584.

・Fairburn, C. G. (2013) Overcoming binge eating : the proven program to learn why you binge and how you can stop, second edition. (Second Edition. edn). New York: Guilford Press (永田利彦監訳,谷口麻起子,江城望訳,(仮題)過食に打ち勝つ,金剛出版、印刷中).

・Goldschmidt, A. B., Wall, M. M., Choo, T. J., Evans, E. W., Jelalian, E., Larson, N., et al (2018) Fifteen-year Weight and Disordered Eating Patterns Among Community-based Adolescents. American Journal of Preventive Medicine, 54, e21-e29.

・Hill, A. J. (2017) Prevalence and demographic of dieting. In Eating disorders and obesity : a comprehensive handbook, Third edition (eds K. D. Brownell & B. T. Walsh), pp. 103-108. New York: The Guilford Press.

・Kraschnewski, J. L., Boan, J., Esposito, J., Sherwood, N. E., Lehman, E. B., Kephart, D. K., et al (2010) Long-term weight loss maintenance in the United States. International Journal of Obesity, 34, 1644-1654.

・Look Ahead Research Group, Wing, R. R., Bolin, P., Brancati, F. L., Bray, G. A., Clark, J. M., et al (2013) Cardiovascular effects of intensive lifestyle intervention in type 2 diabetes. New England Journal of Medicine, 369, 145-154.

・Lowe, M. R. (1993) The effects of dieting on eating behavior: a three-factor model. Psychological Bulletin, 114, 100-121.

・Lowe, M. R. & Kleifield, E. I. (1988) Cognitive restraint, weight suppression, and the regulation of eating. Appetite, 10, 159-168.

・Maclean, P. S., Bergouignan, A., Cornier, M. A. & Jackman, M. R. (2011) Biology’s response to dieting: the impetus for weight regain. American Journal of Physiology – Regulatory Integrative and Comparative Physiology, 301, R581-600.

・MacLean, P. S., Higgins, J. A., Giles, E. D., Sherk, V. D. & Jackman, M. R. (2015) The role for adipose tissue in weight regain after weight loss. Obesity Reviews, 16 Suppl 1, 45-54.

・Magkos, F., Fraterrigo, G., Yoshino, J., Luecking, C., Kirbach, K., Kelly, S. C., et al (2016) Effects of Moderate and Subsequent Progressive Weight Loss on Metabolic Function and Adipose Tissue Biology in Humans with Obesity. Cell Metabolism, 23, 591-601.

・Mattison, J. A., Colman, R. J., Beasley, T. M., Allison, D. B., Kemnitz, J. W., Roth, G. S., et al (2017) Caloric restriction improves health and survival of rhesus monkeys. Nature Communications, 8, 14063.

・Neumark-Sztainer, D. & Loth, K. (2017) The impact of dieting. In Eating disorders and obesity : a comprehensive handbook, Third edition (eds K. D. Brownell & B. T. Walsh), pp. 109-115. New York: The Guilford Press.

・Neumark-Sztainer, D., Wall, M., Story, M. & Standish, A. R. (2012) Dieting and unhealthy weight control behaviors during adolescence: associations with 10-year changes in body mass index. Journal of Adolescent Health, 50, 80-86.

・日本肥満学会肥満症診療ガイドライン作成委員会 & 委員長 宮崎滋 (2016) 肥満症診療ガイドライン2016: ライフサイエンス出版

・Stice, E., Durant, S., Burger, K. S. & Schoeller, D. A. (2011) Weight suppression and risk of future increases in body mass: effects of suppressed resting metabolic rate and energy expenditure. American Journal of Clinical Nutrition, 94, 7-11.

・Stunkard, A. & Mc, L.-H. M. (1959) The results of treatment for obesity: a review of the literature and report of a series. AMA Arch Intern Med, 103, 79-85.

・Wadden, T. A., Webb, V. L., Moran, C. H. & Bailer, B. A. (2012) Lifestyle modification for obesity: new developments in diet, physical activity, and behavior therapy. Circulation, 125, 1157-1170.

・World Health Organization (1995) Physical status: the use and interpretation of anthropometry.  Report of a WHO Expert Committee (Technical Report Series No. 854). Geneva: World Health Organization,.

プロフィール

永田利彦精神科医

大阪市立大学大学院を修了後、大阪市立大学大学院医学研究科神経精神医学教室講師、准教授、ピッツバーグ大学客員准教授などを経てH25年なんば・ながたメンタルクリニックを開設。医学博士、精神科専門医、精神保健指定医、精神保健判定医、Academy for Eating Disorders、Research Society for Eating Disorder、日本摂食障害学会理事。日本不安症学会、日本うつ病学会、日本生物学的精神医学会、日本精神科診断学会などの学会の評議員。日本摂食障害学会監修・摂食障害治療ガイドライン(2012)の代表編者の1人。摂食障害、不安障害、パーソナリティ障害、気分障害に関する論文、総説多数。

この執筆者の記事

山田恒精神科医

大阪府出身。大阪市立大学医学部卒。同大学院医学研究科修了。大阪市立大学病院講師を経て、2012年より兵庫医科大学精神科神経科で勤務しており、現在講師として診療、研究に従事。医学博士。日本摂食障害学会評議員、日本不安症学会・社交不安症治療ガイドライン作成委員会など、精神科医療の普及と教育に対するガイドラインの効果に関する研究(EGUIDEプロジェクト)メンバー。

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