学園祭の「ホモネタ」企画を考える――「芸バー」炎上、何が起こっていたのか

秋といえば学園祭シーズン。各地では学生たちがさまざまな企画を打ち出す中で、近年いわゆる「ホモネタ」企画がエスカレートしているようだ。「ホモネタ」とは、LGBTなどのセクシュアル・マイノリティを劣ったものとして描き、笑いの「ネタ」として消費することを指す。

 

学生にお金を払えば「同性から告白される恐怖体験が味わえる」「万が一カップル成立したら景品をプレゼント」、あるいは「オカマ」「ホモ」などといった言葉が、ただ条件反射的な笑いとして消費される――。これまでも女装や男装の企画は、学園祭において人気だったが、事態は単にジェンダーを遊ぶだけではない方向へエスカレートしている。

 

「ホモネタ」企画に盛り上がる同級生の姿を前に、少なくないLGBT当事者の学生やその友人たちは凍りついている。ある学生は、「どこまでバカにされるんだろう。楽しいはずの学園祭で、自分の学校が嫌いになっちゃうなんて悲しいよね」と、残念そうに話す。彼は、自分がLGBT当事者であることを学校では話していない。現在の日本では、LGBTであることをカミングアウトするのにはリスクが伴うからだ。彼は、「ホモネタ」企画に異論を唱えることで自分が「ノリ」が悪いと思われるのも、空気が読めないと思われるのもいやだけれど、もうこれ以上バカにされたくないと思っている。

 

2014年秋は、筑波大学の「芸バー」がインターネット上で物議を醸し、大学側が介入して企画中止となる事態となった。大学側から企画中止に至る経過がまったく公開されない中で、憶測が憶測をよび、学内外に混乱が生じた。

 

これらの事態から、11月8日(土)午後に緊急集会「STOP!学園祭でのホモネタ~現場の声から対話を探る」が都内で開催され、著者も主催者の一人として関わることになった。集会では、今回「ホモネタ」に揺れた筑波大や早稲田大の学生が発言した(たいへん勇気のいることだった)。また、大学職員の発言もあった。本稿はその報告と、そこから見えてきた対話についての考察である。

 

 

※LGBTについて詳しく知りたい方は「セクシュアルマイノリティ/LGBT基礎知識編」(https://synodos.jp/faq/346)を是非ご参照ください。

 

 

「芸バー」炎上とは何だったのか――筑波大学の事例から

 

筑波大学からは、同大LGBT系サークル「にじひろ」代表Kさん、副代表Aさんの2名から報告があった。

 

「にじひろ」は今春に創設されたばかりの新しい団体で、メンバーは10名。とても小規模な集まりだ。セクシュアリティに関わらず、より良い学生生活を送れるような学内環境を作りたいと活動している。11月2日(日)・3日(月・祝)に開かれた学園祭では「にじひろ」独自で部屋を借り、多様な性についてのパネル展示やトークイベントなどを行った。なにしろ初の試みで、学園祭の前週には、自分たちの企画の準備だけで手いっぱいだった。そんな最中、「にじひろ」メンバーが「芸バー」企画の炎上について知ったのは10月28日(火)。実に、学園祭当日まで1週間足らずの時期だった。

 

「芸バーは、筑波大では20年以上も続く伝統ある企画。誰もが知っていて、それだけを楽しみに学外からもお客さんがやってくることもあるくらいなんです。芸術専門学群の1年男子が代々やるもので、上級生からのプレッシャーも大きいらしく、筑波大卒業の先生たちも『ぼくも昔やったよ~』なんて懐かしんでいるそうです。」(Aさん)。

 

 

■ネット炎上のはじまり

 

その「伝統的な企画」の内容はエスカレートしていた。男子学生が女装で「ゲイに扮し」、下ネタ全開の「源氏名」を名乗って接客をする。おまけに「ハグ」「ラップ越しキス」「ポッキーゲーム(ポッキーの両端を二人で咥え、食べ進めるゲーム)」などの同性間の性的サービスと思しきメニューも「シャレ」として掲載されていた。これらがネット上で拡散され、「さすがにやりすぎ」「いや、面白い」などと物議を醸しはじめたのだ(http://togetter.com/li/738883)。

 

炎上初期の段階で、「にじひろ」は今年の「芸バー」企画についてまったく情報を持っていなかった。しかしネット上での問い合わせを受けてはじめて「なにかが起きている」と気が付き、議論を知ることになる。以後、「にじひろ」はネット以外に情報収集のすべがない環境に置かれ続けながら、炎上に巻き込まれていく――「にじひろ」は「芸バー」潰しの犯人だと目されてしまったのだ!

 

 

■学内LGBT系サークルがやり玉に

 

大学側からの公式なアナウンスが一切ない中で「芸バー」批判が面白くない学内外の人々は「あいつらは過激な団体」「大学側にチクったんだろう」「いつからLGBTサークルは思想警察になったんだ」などと、「にじひろ」に対する誹謗中傷を行った。

 

OBから忠告を受け、twitterで「にじひろの学園祭ブースに突撃してやろうぜ」というような内容の書き込みを見つけたときには、かれらは恐怖を感じ、ブース展示中止も真剣に考えたという。

 

「筑波大学全体は一つの街のよう。どこに誰が住んでいるのか、バイト先がどこなのかも、すぐに特定できてしまう。学内のLGBT当事者のことが心配だった。」(Kさん)

 

自分たちが楽しみだと思った企画が「差別的だ」と指摘されたとき、なにがどう問題だったのか/なぜ誰もがこの表現に笑えなかったのかを立ち止まって考えるよりも、「差別だと反応するほうが悪い」と反発する声のほうが大きかった。

 

さらにLGBTコミュニティからも「学内にLGBTサークルがありながら、一体何をやっているのか」といった批判がなされた。現在、日本各地の大学にLGBT学内サークルは点在するが、その多くは数人程度で運営をされている小規模なもので、今回のような緊急的な課題にすぐ対応できるキャパシティがあるとは限らない。実態を知らないゆえの過大な要求だった。

 

大学側や「芸バー」主催者に問い合わせをしても返事が来ない。大学側は、11月8日(土)時点においても、公的アナウンスを一切行わず、対話の場を作ろうともしていない。学園祭後の新聞各社の報道では「大学学生支援室と関係教職員、企画側学生の三者が協議し中止に至った」ようだ。このような大学の「臭いものに蓋」的な態度は、今回「にじひろ」や当事者学生たちへの誹謗中傷を加速させてしまった。【次ページにつづく】

 

 

 

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