2014.11.19

学園祭の「ホモネタ」企画を考える――「芸バー」炎上、何が起こっていたのか

遠藤まめた 「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表

社会 #ホモネタ#学園祭

秋といえば学園祭シーズン。各地では学生たちがさまざまな企画を打ち出す中で、近年いわゆる「ホモネタ」企画がエスカレートしているようだ。「ホモネタ」とは、LGBTなどのセクシュアル・マイノリティを劣ったものとして描き、笑いの「ネタ」として消費することを指す。

学生にお金を払えば「同性から告白される恐怖体験が味わえる」「万が一カップル成立したら景品をプレゼント」、あるいは「オカマ」「ホモ」などといった言葉が、ただ条件反射的な笑いとして消費される――。これまでも女装や男装の企画は、学園祭において人気だったが、事態は単にジェンダーを遊ぶだけではない方向へエスカレートしている。

「ホモネタ」企画に盛り上がる同級生の姿を前に、少なくないLGBT当事者の学生やその友人たちは凍りついている。ある学生は、「どこまでバカにされるんだろう。楽しいはずの学園祭で、自分の学校が嫌いになっちゃうなんて悲しいよね」と、残念そうに話す。彼は、自分がLGBT当事者であることを学校では話していない。現在の日本では、LGBTであることをカミングアウトするのにはリスクが伴うからだ。彼は、「ホモネタ」企画に異論を唱えることで自分が「ノリ」が悪いと思われるのも、空気が読めないと思われるのもいやだけれど、もうこれ以上バカにされたくないと思っている。

2014年秋は、筑波大学の「芸バー」がインターネット上で物議を醸し、大学側が介入して企画中止となる事態となった。大学側から企画中止に至る経過がまったく公開されない中で、憶測が憶測をよび、学内外に混乱が生じた。

これらの事態から、11月8日(土)午後に緊急集会「STOP!学園祭でのホモネタ~現場の声から対話を探る」が都内で開催され、著者も主催者の一人として関わることになった。集会では、今回「ホモネタ」に揺れた筑波大や早稲田大の学生が発言した(たいへん勇気のいることだった)。また、大学職員の発言もあった。本稿はその報告と、そこから見えてきた対話についての考察である。

※LGBTについて詳しく知りたい方は「セクシュアルマイノリティ/LGBT基礎知識編」(https://synodos.jp/faq/346)を是非ご参照ください。

「芸バー」炎上とは何だったのか――筑波大学の事例から

筑波大学からは、同大LGBT系サークル「にじひろ」代表Kさん、副代表Aさんの2名から報告があった。

「にじひろ」は今春に創設されたばかりの新しい団体で、メンバーは10名。とても小規模な集まりだ。セクシュアリティに関わらず、より良い学生生活を送れるような学内環境を作りたいと活動している。11月2日(日)・3日(月・祝)に開かれた学園祭では「にじひろ」独自で部屋を借り、多様な性についてのパネル展示やトークイベントなどを行った。なにしろ初の試みで、学園祭の前週には、自分たちの企画の準備だけで手いっぱいだった。そんな最中、「にじひろ」メンバーが「芸バー」企画の炎上について知ったのは10月28日(火)。実に、学園祭当日まで1週間足らずの時期だった。

「芸バーは、筑波大では20年以上も続く伝統ある企画。誰もが知っていて、それだけを楽しみに学外からもお客さんがやってくることもあるくらいなんです。芸術専門学群の1年男子が代々やるもので、上級生からのプレッシャーも大きいらしく、筑波大卒業の先生たちも『ぼくも昔やったよ~』なんて懐かしんでいるそうです。」(Aさん)。

■ネット炎上のはじまり

その「伝統的な企画」の内容はエスカレートしていた。男子学生が女装で「ゲイに扮し」、下ネタ全開の「源氏名」を名乗って接客をする。おまけに「ハグ」「ラップ越しキス」「ポッキーゲーム(ポッキーの両端を二人で咥え、食べ進めるゲーム)」などの同性間の性的サービスと思しきメニューも「シャレ」として掲載されていた。これらがネット上で拡散され、「さすがにやりすぎ」「いや、面白い」などと物議を醸しはじめたのだ(http://togetter.com/li/738883)。

炎上初期の段階で、「にじひろ」は今年の「芸バー」企画についてまったく情報を持っていなかった。しかしネット上での問い合わせを受けてはじめて「なにかが起きている」と気が付き、議論を知ることになる。以後、「にじひろ」はネット以外に情報収集のすべがない環境に置かれ続けながら、炎上に巻き込まれていく――「にじひろ」は「芸バー」潰しの犯人だと目されてしまったのだ!

■学内LGBT系サークルがやり玉に

大学側からの公式なアナウンスが一切ない中で「芸バー」批判が面白くない学内外の人々は「あいつらは過激な団体」「大学側にチクったんだろう」「いつからLGBTサークルは思想警察になったんだ」などと、「にじひろ」に対する誹謗中傷を行った。

OBから忠告を受け、twitterで「にじひろの学園祭ブースに突撃してやろうぜ」というような内容の書き込みを見つけたときには、かれらは恐怖を感じ、ブース展示中止も真剣に考えたという。

「筑波大学全体は一つの街のよう。どこに誰が住んでいるのか、バイト先がどこなのかも、すぐに特定できてしまう。学内のLGBT当事者のことが心配だった。」(Kさん)

自分たちが楽しみだと思った企画が「差別的だ」と指摘されたとき、なにがどう問題だったのか/なぜ誰もがこの表現に笑えなかったのかを立ち止まって考えるよりも、「差別だと反応するほうが悪い」と反発する声のほうが大きかった。

さらにLGBTコミュニティからも「学内にLGBTサークルがありながら、一体何をやっているのか」といった批判がなされた。現在、日本各地の大学にLGBT学内サークルは点在するが、その多くは数人程度で運営をされている小規模なもので、今回のような緊急的な課題にすぐ対応できるキャパシティがあるとは限らない。実態を知らないゆえの過大な要求だった。

大学側や「芸バー」主催者に問い合わせをしても返事が来ない。大学側は、11月8日(土)時点においても、公的アナウンスを一切行わず、対話の場を作ろうともしていない。学園祭後の新聞各社の報道では「大学学生支援室と関係教職員、企画側学生の三者が協議し中止に至った」ようだ。このような大学の「臭いものに蓋」的な態度は、今回「にじひろ」や当事者学生たちへの誹謗中傷を加速させてしまった。

■「芸バー」中止は解決ではない

新聞報道によれば、大学に寄せられた批判は10件程度。ネット上では「寄ってたかっての批判で企画を潰すなんて」「人権団体が圧力をかけたらしい」との声も多かったが「寄ってたかっての批判」も存在しなかったようだ。いまなお不明な点は多い。「にじひろ」は、今後「芸バー」企画者との話し合いや、学校側への経緯説明を求めていく予定だ。

今回の炎上事件をきっかけに、LGBTについて関心を持った人たちとも繋がっていきたいと二人は話す。

「筑波には筑波なりの事情があって、そこに実際にLGBTもそうじゃない人も一緒に生活している。そのことを置き去りにしないでほしい。私たちのことは、私たちが決めたい」(Aさん)

個別に話して、わかってもらえた

さて、集会では「ホモネタ企画」について企画者と話し合えた例も報告された。

早稲田大学4年生の小阪真紀さんは、学園祭の数日前に、知人らが「ホモネタ」企画を準備していることに気が付いた。「100円を払えば同性から告白される恐怖体験が味わえる」「生きて還れよ」「万が一カップル成立したら景品をプレゼント」といった煽り文句を見て、とても胸を痛めた小阪さん。彼女自身はLGBT当事者ではないが、親友からのカミングアウトを受けて、この問題について深く考えるようになった1人だ。いぜんは「ホモネタ」を楽しむ側だったが、それが親友を傷つけていたことを知り、深く悔やんだ経験を持つ。

「LGBTはどこか遠くにいる特別な人ではなく、私たちの身近にいる友人も当事者かもしれない。この企画は、同性愛を侮蔑しているみたいで、人を傷つけるんじゃないか」と、企画者に話に行った。冷静な語り口につとめたが、心中は企画への怒りや悲しさでいっぱいだった。

「学園祭は日常の延長。日常にも、こういう『ホモネタ』は溢れている。だからこそ学園祭を、日常を考え直すきっかけにしたい」(小阪さん)

企画者の学生は「誰かをバカにする意図はなかった。このままでは誰かを傷つけてしまう」と話し、企画の取り下げを決めた。今回のやりとりを今後に活かすべく、早稲田祭運営委員会にも働きかけたいと小阪さんは話す。

一連の「ホモネタ企画」について、国際基督教大学ジェンダー研究センター職員の加藤悠二さんは「大学職員は学生たちの評価や処分ができる権力を持っている。職員が企画学生を呼び出して話を聴くこともなかなか難しい」と語った。

大学の外部からの意見に対しては、内部の人間は反発しやすい。かといって、教員や大学職員が学園祭の企画にコメントするのも難しい部分をはらむ。小阪さんのように学生間で話し合うことができたケースは、ある意味では望ましい例だと思われる。

女装や男装、同性愛のジョークが好きなあなたへ

以上のような学生たちの声を踏まえた上で、私たちは「ホモネタ」企画をどう捉えたらよいのだろうか。

女装・男装での接客やパフォーマンスは、学園祭においては定番のメニューである。ジェンダーを遊び、「当たり前」の枠から外れる体験は一般的には良いことだと筆者は考える。ただし、これらの企画が一歩間違えば、簡単に人を傷つけてしまうものに様変わりしかねないことには、やはり注意が必要だろう。

本稿では「芸バー」や早稲田大学の企画が、なぜ差別的だと問題視されたのかについて、紙面の都合上触れなかった。ある人には楽しい企画が、ときに別の人には苦痛に満ちたものになることがある……それが「ジェンダーや性のあり方を遊ぶ」際に、私たちの社会でたちのぼる現状だ。だからこそ企画者は、誰かが「それってちょっとどうなの?」と声をあげたときに、きちんと考えて応答できるような思慮深さを持ち合わせてほしい、と思う。

「ホモネタ」は日常会話や、テレビのバラエティ番組の中にも溢れている。学園祭で女装や男装、同性愛を扱った企画をやろうと思った人たちは、むしろ企画を「縁」だと捉えて当事者たちとの話し合いの場を持ってほしい。それは大学内外における多様性について考える良いチャンスになるだろう。

「だれもが安心できる環境」とは「不安なときに話し合える環境」のことでもある。せっかくの学園祭、気合いを入れて準備をするからには、だれもが楽しめる日にしたい。その想いがあれば、やれることはきっとあるはずだ。

サムネイル「Univoftsukuba2006.jpg」Kanrika

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Univoftsukuba2006.jpg

プロフィール

遠藤まめた「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに、10代後半よりLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の若者支援をテーマに啓発活動を行っている。全国各地で「多様な性」に関するアクションや展開している「やっぱ愛ダホ!idaho-net」代表。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版)

この執筆者の記事