まちおこしがビジネスだって忘れてない!?

地域活性化業界の風雲児・木下斉氏による『稼ぐまちが地方を変える』(NHK出版)が上梓された。「地方再生」というけれど、本当に稼ぐようにはどうしたらいいの!? 著者の木下氏と経済学者飯田泰之と語り合った。2015年6月11日、八重洲ブックセンターにておこなわれた「「経営」と「経済」から考える利益を生み出す地域ビジネスの極意とは?」より抄録。(構成/山本菜々子)

 

 

役所は役所の仕事、民間は民間の仕事

 

飯田 木下さんの新著大好評のようで何よりです。産業再生、または地域再生という中で、「稼がなければダメだ」と、みんな薄々は感づいているかもしれませんね。

 

木下 そうなんですよね。この本に特段、画期的な話を書いているわけではありません。あくまで当たり前の話、しかし、あえてみんなが触れてこなかったところを書きました。

 

飯田 ぼくは、東日本大震災をきっかけにして地方経済に関心をもつようになったのですが、復興のためのビジネスコンテストなどがあると、なぜか大学教員が名義貸しのような形で呼ばれるんです。そういったコンテストだと儲からなそうなものほど他の審査員の受けが良かったりするんですよね。

 

木下 ああ、「良い話」ってやつですね(笑)。

 

飯田 そうそう。震災後は、とにかくストーリー重視で、儲かるかどうかはどうでもいい。被災地の名産品を紹介するホームページ事業に100万とかつぎ込んだりする。でも、それって誰が見るんだろうとずっと不思議でした。

 

木下 支援する側の被災地像や、復興の美しいストーリーを押し付ける部分があったでしょうね。私のまわりの被災者の知人でも、「変なことに予算がついてしまう」という声は聞かれましたが、被災地だけでなく、全国的な空気でかき消されてしまった印象があります。

 

飯田 より根本的な問題としては県や市の担当者があまりカネの話が好きじゃない。商売人の基本は「お金が好き」ってところだと思うんです。お金が嫌いな人に商売させたら、上手くいかないにきまってるでしょう。

 

木下 よくわかります。そもそも「お金が好き」というモチベーションで役所に働いている人は少ないでしょう。むしろ、少し苦手だから役所で働いている可能性もあります。

 

興味があっても、日常で付加価値を生み出し、稼ぎをつくることをしていないため、やはり実際に人件や原材料費みたいなコストを上回る付加価値をつくるという一般的な金銭原則が養われる環境にありません。

 

そういった方たちに「地域振興」を任せ、無理やり稼ぐことを強要すると、実際には、地域がプラスになることがなく、つかう予算と出てくる効果のプラスマイナスを計算すると、結局マイナスになってしまう。だから衰退しているわけです。

 

通常、行政は予算を清く正しく美しくつかい、再分配を運用するための組織です。だからむしろ、地域活性化や経済活性化などを担わせること自体が酷な話なのです。

 

だから、役所は役所の仕事、民間は民間の仕事をするのが大事だと、この本では強調しています。当たり前の話ですが、地方はなんでもかんでも役所がやることになってしまいがちです。これはなんでもかんでも行政にやらせようとする民間も悪い。

 

なにをやるにしても、役所にお願いをして、設備投資してもらって、事業に失敗しても尻拭いを第三セクターでやってもらうという話が地方ではどんどん進んでいます。冗談で「地方のソ連化」と話していたんですが(笑)。

 

この本を読んだ地方の方からよく連絡をいただきます。多くの方も内心、オカシイなと思っているんだけれど、現実と向きあおうという話をすれば、「お前だけ、金儲け主義か」と批判されるのでいえない。ま、そういう「お金ではない」論で批判をする人が、実は一番補助金などでお金をもらって儲けていたりするんですよね。けっこう闇が深いんです。

 

 

なぜ箱ものを!?

 

飯田 先日、木下さんと四国のある商店街に行ったじゃないですか。そこに、市が借り上げて、地元の大学が管理する学生のコミュニティスペースがありました。そこのオーナーさんは家賃収入が発生しているんですよ。

 

木下 そうですね。もともと空き店舗だったところを、市場ではなく、役所がお金をだして借り手がつくわけですから、オーナーにとってはとんだ儲け話ですね。

 

飯田 でも、そこでは何らの経済活動も行われていないわけじゃないですか。あれが許されちゃっているというのがすごい。

 

木下 そうなんですよね。あの場所では何の経済活動も行われず、何かを喚起しているわけでもなく、単に予算が投下されているだけ。つまり、財政負担が増えるだけで、「地域の活性化」には全く役立っていないんです。

 

そもそも、商店街にある不動産の家賃が、相場より高いことも障壁になっています。空き店舗になっているというのは、需要側だけでなく供給する不動産オーナーの問題も少なくないんですよね。

 

この物件で、月150万もとるの? みたいな、借りたい人がどう考えても儲からない条件を出している。それなのに「テナント募集」とシャッターに書いてあったりして。

 

ああいうのをベタベタと貼れば貼るほど、その街はダメだということを、みんなに宣言し続けているのと同じなんですよね。

 

飯田 新規参入しようにも、オーナーさんが「150万でしか貸さない」と言い張っているから困り果てている。「自分が安く貸してしまったら、周りの相場も下がってしまう」と決まり文句でいうらしいのですが、そんなに価値があると思っているのはオーナーだけでしょう。だれも借りないということは、ゼロ円の価値しかないことを全然認識していない。

 

木下 拡大経済の時の残像があるんでしょうね。金額うんぬん以前として、供給サイドが偉いといまだ勘違いしている。

 

昔みたいに、土下座をしてでも、大家さんのルールでその物件に入りたい人が来た時代を忘れられないまま、かつ自身もお金があるのでそういう態度を貫いている。何より自分たちの生活に余裕があるので、頭をさげてまで人に貸さなくても良いんですよね。

 

しかし、今は需要サイド、つまり不動産でいえば「テナント」の方が当然優位ですから、不動産オーナーがそんな高慢な交渉を持ち込めば、そもそも郊外や倉庫など、中心部ではない不動産を選択します。家賃は安いし、オーナーはうるさくないですから。中にはネットで十分と思って自宅などで作業して、そのまま発送するという無店舗型の商売をする人もいます。そのうち、誰も中心部に店出したいなんて人もいなくなっていく。

 

つまりシャッター店舗、シャッター商店街は金持ちオーナーたちの象徴でもあります。

 

飯田 さらには、まさに商店会長とかだと、行政とのつながりが非常に強いので、市が借り上げてくれたりするんですよね。しかも、かなり言い値に近い。または、一般の相場より、下手したら高く、学生向けのコミュニティスペースとかに借り上げてくれるわけです。

 

木下 地方はどうしても厳しい立地でどうにもならないと、大前提のようにいわれたりしますが、最近では変わってきている面が大きくあります。

 

先のように補助金依存で空き店舗対策とかやってきているところは未だ多いですが、やる気のない不動産オーナーの物件を税金で借り上げても、税金が切れたらまたもとの空き店舗になってしまいます。

 

しかしながら、地方でも、新たなビジネスのやり方で、しっかり市場の中で競争し、しっかり業績をあげていっている方がいます。ただ自分から「うちは儲かってる」といっても何の得もないですから、声はあげない。静かに地方で結果を出す経営者の方も確実にいます。

 

農業なんかでも農協経由ではなく、取引先を独自に開拓している人などは、従来とは全く違う効率的な方法を確立し、しっかり業績をあげていらっしゃいますしね。

 

飯田 農業で先進的な取り組みをされている方は多くいますよね。自分でブランディングし、販売ルートを確保している。農業は「良質な農作物」がコアですから、自分がやる気になれば出来る。ネットとの親和性も高いですしね。一方で、「場所の力」が重要な商店街は一軒だけだとどうにもならない。このような違いもあるのかもしれませんね。

 

木下 それが、商店街でもUターンして一人二人頑張っている方が出てきて、その一角だけ変わってしまうということもあるんですよね。東京でお店をやっている段階からネットでバリバリ営業をして、売上の半分近くをネットで売っている人が、地方にUターンするケースがあります。

 

これをぼくは「ハイブリッド経営」と読んでいますが、地元商圏に成長力が縛られないのが面白い。東京にいるときから、東京商圏だけでなく国内外にものをネットで売っているから、地方にいっても、地元商圏に縛られない。物理的な範囲だけではない商売チャネルを形成しているわけです。

 

地方にいくと、圧倒的に不動産コストが安いし、人件費も相対的に安い。となると、地元向けの店舗売上は落ちたとしても、ネットでの売上は変わらないと、コスト構造的に有利になるんですよね。

 

さらに、業績があがって、ブランド力を高めていこうと地方から東京に支店を出される方もいます。昔は、東京商圏から出てしまうと、ビジネスの成長力が下がったり、小さくならざるを得なくなりましたが、今は地方でもチャンスがあって伸びているお店もあるんです。

 

飯田 交通とネットの便が良くなったおかげで、そういったハイブリット型のモデルが可能になったのですね。

 

 

「一見さんビジネス」からの脱却

 

飯田 一方、交通とネットが便利になったことによって、かえって苦境に立たされている街も多いですね。奈良と小樽はその典型でしょう。まさに小樽は、札幌から一番速い電車にのると三〇分で着いてしまいます。なので、誰も泊まらなくなってしまいました。

 

木下 そうですね。昼間に行って、北一硝子や運河をみたりして写真とって、「びっくりドンキーがこんなところにあるのか!」とびっくりして、それで夕方には札幌に戻ってしまって、札幌で寿司を食べながら一杯、となる。

 

飯田 そういうビジネスモデルになっているので、小樽の有名な寿司屋通りにも人がなかなか来ない。「むしろ札幌にいいネタが集まっていることも多い」と商工会の方がおっしゃっていました。

 

木下 大学の時、初めて小樽に仕事でいったとき、私も言われました。地元の方に、寿司は札幌の店にいったほうがよい、と。

 

飯田 あと、私は奈良の公益社団法人の理事でもあるんですが、奈良もなかなか大変です。修学旅行ビジネスなんですが、今時の、高校の修学旅行は沖縄、北海道、九州が主流になってきていますし。そもそも修学旅行生が主流だから夜のまちも無理ですよね。

 

木下 奈良の講演会で質疑応答の時間にいわれたのですが、奈良には「大仏商法」というのがあるそうです。昔から、大仏を目指して多くの人が訪れるので、その道すがら立ち寄る客を相手に適当に商売をやればどうにか生活していけると。だから、競争力のある商売をやる気にならないと。

 

聞いてびっくりしましたが、実はこれは奈良だけでなく、善光寺がある長野でも似たような話を聞きました。有名な伝統観光拠点を保有する観光地では、よくあることなんですよね。

 

飯田 まさにその大仏ビジネスでなんとかなっていると。でも、奈良の大仏は大きくて有名ですが、ご利益としてはいわれがあるわけではないので、リピーターは少ないと聞きます。

 

一方で、同じような成り立ちの伊勢はちゃんと自立しています。伊勢神宮前にあるおかげ横丁は、まち自体を赤福餅で有名な赤福が運営して、一年間で650万人もの集客があると聞きました。奈良も三輪山、大神神社をもっているのに。参道の入り口に素麺屋がちょろっとあるだけです。

 

木下 ぼくも三輪山は3年ほどの前に行きましたが、何もないですね。本当にないです。

 

飯田 観光資源として、大神様を開発する方法もあったとおもいますが、それをやらずになんとかなってきてしまった。あまり詳しいわけではありませんが、伊勢神宮に次ぐほどの格式高い場所だと聞きました。なのに、何もしていない。

 

大仏だけではなく、奈良には古墳だって沢山あります。一度、みに行ったときも、古墳の周りにはなにもありませんでした。案内板も荒っぽいので、たどり着くのにも一苦労でした。せっかく、いい資源があるのに、もったいない。

 

木下 やはり、一見さんビジネスは地元がもつ成長力を阻害しますね。危ういです。名だたる観光地でも、一見さんしか相手にしないという前提の経営をされていると、宿も食事もすごく雑なサービスをしがちです。正直、二度と来なくていいと考えているんですから。

 

これも、石川県の有名な温泉がある旅館組合の方と意見交換をした際にいわれたのは、参加者の一人が「一度だけ来る人を対象にして、大手の旅行代理店さんにお金をがっぽり払って、送客してもらっているからそれでいいんだ」ということでした。

 

飯田 まさにそれって地域ブランドを食って生きているんですね。自分の一番の競争力を消滅させながら生き延びている。タコが自分の足を食っているのと同じで、一番体力を削いでいるのに、その日はお腹がいっぱいになるという。

 

木下 持続的に事業として改善し、よりよくして稼いでいこうという気がないのにはびっくりしました。割り切りなのでしょう(笑)。 もちろん頑張っている人もいるでしょうが、ひとつの宿でもそういうやり方をしていれば、その地域ブランドはきた人の数だけ毀損していき、結果、通用しなくなってさびれていく。それでダメになった温泉街は全国に山ほどありますよね。でも、自分達で価値を殺してきたことに地元の人達は気が付いていない。

 

飯田 ブランドマネジメントをまじめに考えていないのは致命的ですよね。たとえば、コンビニでは、直営店にするか、FC店にするのかを場所で決めています。一見客が多いエリアは直営店だけしか出店しません。

 

なぜなら、FC店にすると、ブランド価値にただ乗りをして、ひどい店の運営をやってしまう可能性がある。お店としては、チェーンのブランド力のご威光で商売を成り立たせることができますが、一見客ばかりの場所でひどい対応をされてしまうと、コンビニ自体のブランドはどんどん下がっていきます。

 

なので、FC店は基本的に地域密着型にならざるを得ない場所におく。つまりリーピーターばかりのところはFCまかせにする。同じ客が何度も来るならば、FCオーナーも変な扱いはできません。

 

一方で、観光地や、街道沿いの一見中心のところは、できる限り直営で、社員が運営していたりする。ブランドイメージを傷つけて、ただ乗りするインセンティブがないわけです

 

木下 有名な観光地ほど、みんな先人たちが作り上げてきた歴史資産やブランド力にフリーライドしてしまうのかもしれません。

 

 

ワークショップ、好きですよね

 

飯田 また、まちおこしの主役が見えづらい問題もあると思います。地域でやっている老舗の方が、その地方への愛着をうしなっているというケースも少なくない。地場産業の社長でも、二代目三代目になるにつれ、高校から他県に行ったりしますよね。

 

木下 地元の名士が、東京とか都市部に集中してきてしまう。私の周りにも一定規模の地方企業経営者の方は、週の半分は東京で過ごされている方は多いですね。地方の現状は憂いていますが、地元に戻ってやるのはなかなかね、とみなさん思われている。

 

飯田 地元の名士のような人がまとめ役になって、地域のブランドを守るような方向にいけばよいのですが。

 

木下 私たちのアライアンスパートナーのひとつに、兵庫県の城崎温泉があります。そこは名士が自らまとめ役になられて、一気に動き出した地域ですね。西村さんという町長を歴代されている方が若い人を中心にして任せ、「湯のまち城崎」という会社をつくりました。

 

初発の事業をつくるときにも、賛否両論になりがちなのですが、西村屋さんが賛成し、まわりにも働きかけをしてくださったことで「それでは私たちも」とみんなが賛成して動き出されました。

 

次の一手を打つための意思決定を、名士の人がある程度旗を振ってしっかり地元の方を巻き込んでやるというのは、地方の場合には実はけっこう大切なポイントです。誰が決めるかもよくわからないままダラダラとワークショップをやるよりは、よほど物事が動き、事業が形になります

 

飯田 ワークショップ好きですよね、みんな(笑)。

 

木下 ワークしないワークショップというのは、何のワークをしているのかわからないんですよね。「みんなでがんばろう」といって、誰が何をするかとか迫ると、そういう話でもなかったり。単にポストイットを消耗するというワークをみんなでやるのも・・・・・・。

 

この間もあったんです。とある市の方が、ものすごく立派な、20人ぐらいの参加者の似顔絵を描いた冊子をもって来られて。私は一年でこう変わりました、ああなりましたという冊子。一年間、20人の市民を集めてやったので、報告書をトータルでやって、1500万かかったと。

 

飯田 いやあ。

 

木下 これで、何が変わるんですか?と聞いたら、行政の方も苦笑いで、「みんなやる気になりました」とのことでした。しかも、100人の村ではなく、何十万人も人がいる立派な市です。何十万人分の20人がやる気になるために1500万円つかう。しかも、冊子ができただけです。

 

飯田 企業だと、利益やコストがシビアに評価されます。しかし、行政の場合は「いかにみんな頑張ったか」が目的になる可能性があります。

 

木下 「頑張り」が目的に置き換わってしまうんですよね。それ以外にも、そもそもの目的が置き換わることがあります。

 

たとえば「自分の街を活性化したい」と考えたとします。そこで、住んでいる人を増やそうと考え、補助金を出してマンションを建てた。住む人が増えても活性化しないと意味はありません。でも、「住む人をいかに増やすか」が目標に置き換わる。

 

私が「活性化していないのであれば、住人を増やしても意味はないのでは」と聞くと、メールのやり取りをしている人から連絡がこなくなることもありますね(笑)。あと、よく相談を受けるのですが、資料が有料だとわかると、急に返信が返ってこなくなる。

 

飯田 「カネ取るのかよ」と思われている(笑)。

 

木下 みんな、自分たちでリスクを負って、幾度となく失敗しながら、ようやく形にしている事業ばかりです。それを自分だけは、そういう苦労なしに物事のおいしいところだけをつまみ食いしたい。しかもタダで。ってそれはあまりに都合のよい姿勢です。そんなこといっているから成果が出ない。

 

アリバイ作りのワークショップなどは採算度外視で1000万くらい平気でつかうのに、本当に事業に必要な現場の人たちがつくった資料があっても、1000円、2000円をケチってそのような情報を手に入れない。

 

飯田 そして何といっても、それで今までなんとかなってしまっていたというのは、ある意味日本経済のすごい底力です。

 

木下 これはすごいです。本当にびっくりしますね。先人たちの作られた堅牢なる日本システムに感心します。

 

飯田 いやあ、よくもったなと思うんですよね。【次ページにつづく】

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.220 特集:スティグマと支援

・稲葉剛氏インタビュー「全ての人の『生』を肯定する――生活保護はなぜ必要なのか」

・内田良「児童虐待におけるスティグマ――『2分の1成人式』を手がかりに考える」

・金泰泳(井沢泰樹)「在日コリアンと精神障害」

・加藤武士「アディクション(依存)は孤独の病」

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