電力自由化で、私たちの生活はどう変わる?

今年4月に解禁される、電力の小売自由化。様々な業種の新規参入によって電気料金は値下がりするのか、どのような料金プランが登場するのか、本当に電力が安定供給されるのか……。電力取引監視等委員会委員長の八田達夫氏と、調達コンサルタントの坂口孝則氏が解説する。TBSラジオ荻上チキSession-22 2016年01月13日放送「電力の小売り自由化が解禁へ。私たちの生活はどうなるのか?」より抄録。(構成/大谷佳名)

 

■ 荻上チキ・Session22とは
TBSラジオほか各局で平日22時〜生放送の番組。様々な形でのリスナーの皆さんとコラボレーションしながら、ポジティブな提案につなげる「ポジ出し」の精神を大事に、テーマやニュースに合わせて「探究モード」、「バトルモード」、「わいわいモード」などなど柔軟に形式を変化させながら、番組を作って行きます。あなたもぜひこのセッションに参加してください。番組ホームページはこちら → http://www.tbsradio.jp/ss954/

 

 

自由化で電力は安定供給されるのか

 

荻上 今日のゲストは、電力取引監視等委員会委員長の八田達夫さん、そして調達コンサルタントの坂口孝則さんです。よろしくお願いします。

 

八田坂口 よろしくお願いします。

 

荻上 まず、八田さんが委員長を務められている電力取引委員会とはどういった組織なのでしょうか。

 

八田 「電力取引監視等委員会」は、まず、電力供給業者間の競争を促進し、公正な取引が行われるよう市場を監視する役割を担っています。具体的には、今まで圧倒的な地位を占めていた電力会社による独占的な行為を防止し、同時に新規参入の業者による誇大宣伝や消費者トラブルなどの問題を防ぎます。

 

また、競争促進のための制度の改革案を経済産業大臣に建議する役割もあります。要するに、決められたルールに照らして市場を監視する「市場の番人」的な役割と、「市場ルール自体を作る」という役割とを持っているのです。

 

荻上 監視とルールの設定という二つの役割があり、第三者性、透明性が確保された議論を行えるような場になっているわけですね。電力取引監視等委員会の目指すところはどこですか。

 

八田 一番の目的は、競争をきちんと機能させてコストを削減することです。そしてもう一つは、停電の防止です。家庭の電力の契約は、最初に決めた価格でいくらでも電気を使っていい、というやり方ですが、大口の需要家に関しても同じです。需要家がどれだけ使っても、電力会社はそれを賄うだけ供給しますというのが、今までの体制でした。

 

電力会社は、そのため大量の予備電力を持っていたのです。通常の水準の需要増や発電減には、この体制で十分対応できました。しかし、3.11のような本当に逼迫した状況には、この体制では対応できませんでした。逼迫時に需要量を減らす術がなかったからです。

 

このため、今度の自由化では、「計画値同時同量制度」を導入し、逼迫時には需要家が大きく節電する動機を作り出します。この制度の下では、全ての小売供給会社はあらかじめ電力消費の計画値を提出するよう義務づけられます。その上で、計画値と同量の供給力を用意する義務を果たすことになるのです。

 

この仕組みの下では、もし計画値を超えて電力が必要となれば、全体の電力需給バランスを調整する「給電指令所」という機関から超過分を時価で買うことになります。逼迫時には時価が上がりますから、最終的な買い手にとって計画値を超えて消費することは不利になるわけです。さらに、計画値よりも節電した分は発電とみなされて、給電指令所が高い値段で買い取ってくれます。ですから、大きな工場などは逼迫時に節電するとかなりな費用削減になります。

 

このように、計画値同時同量制度は、すべての大口需要家が逼迫時に強力な節電をする動機を与えます。さらに、この制度の下では、自家発電機を持っている工場も、持っている発電機をフル動員して追加発電すれば、その分を買い取ってもらえるわけです。

 

したがって、自由化に伴って導入される計画値同時同量制度は、停電の防止に大変役に立ちます。従来の方式では、膨大なお金をかけて備えていても、本当の危機になると対応ができない仕組みでした。でもこれからは、きちんと最後まで対応できるようになります。

 

坂口 これまでは自家発電するよりも電力会社から買ったほうが得する仕組みでしたから、その部分が自由化を妨げていた側面はありましたよね。

 

荻上 そうした仕組みを変えていくことによって自由化を促進させ、結果として電力の安定供給度合いを高める狙いがあるわけですね。一般的にこの二つはトレードオフだと思われてしまっていて、自由化すると不安定供給になるのでは、という反対派の意見もありましたが、むしろ逆であると。

 

 

停電時はどうなる?

 

荻上 今年の4月1日から電力自由化が始まるわけですが、大きく何が変わるのでしょうか。

 

八田 送電線はこれまで通り、東京電力や東北電力のような地域の電力会社のものを使いますが、発電して送電線を利用させてもらって消費者に売るというビジネスに関しては、様々な業者が自由に参入できるようになります。

 

実はこれまでも、大口の工場や企業のビルなどに限って電力自由化は行われていました。それが4月からは、家庭や小規模な店舗にまで広がります。具体的には、ガスや携帯電話との組み合わせプランなど、新規参入の業者による様々な料金メニューから好みのものを選べるようになるわけです。

 

坂口 補足しますと、私たちが使っている電力は「発電→送電→配電」という経路で届いています。今回、自由化するのは発電の部分であって、送電と配電自体は変わりません。

 

荻上 今日はリスナーからたくさん質問を頂いています。まずはこちらから。

 

「停電する時はどこを使っていても一緒なのですか。 A会社は停電したけど、B会社は停電しなかった、なんてことは起きるのでしょうか。」

 

八田 それはないです。送電線に物が引っかかったとか、雷が落ちたなどといったことが停電の原因なので、停電するときはみんな一緒です。停電の責任は、基本的には送電部門にあります。

 

荻上 発電の段階で契約している事業者にトラブルがあったとしても、発電されたどこかの電力が送られてくること自体は変わらないわけですね。

 

こんな質問も届いています。

 

「アパートなどの賃貸物件の場合、大家さんが契約会社を変更したら従うしかないのでしょうか。」

 

坂口 これは二つパターンがあって、通信と同じで賃貸でも一世帯扱いであれば好きな契約ができるので、大家さんと相談の上で決めることになります。ただし下宿など、一棟で契約しているところはちょっと例外です。

 

八田 一棟で契約する場合は配電線が高圧なのです。だから、その分安くできるというメリットがあります。

 

 

新規参入の料金プランはどんなもの?

 

荻上 電力自由化に向けて、消費者の立場からはどのようなアクションを取る必要があるのでしょうか。

 

八田 何もしない場合は、これまで契約していた電力会社の規制料金が続きます。何もしなければ4月1日になると電気が止まっちゃう、なんてことはないです。

 

フランスなどでは、元の電力会社から一度解約すると戻れない、という制度があります。しかし日本ではそうした仕組みにはせず、安心して小売業者をスイッチできるようにしています。

 

もし他社に乗り換えた後に「思った通りじゃないな」と感じた場合には、別の会社に移行できますし、元の電力会社に戻ることもできます。そして契約している電力供給会社が破綻したとしても、即座に元の電力会社に切り替われる仕組みになっているんです。さらに、別会社と契約することにした場合には、前の会社が破綻した時点にさかのぼって契約できます。

 

坂口 ただ、他の自由化されている国を見てみても、今まで通りの電力会社を選択している人が多いんですね。例えば英国などは1年間で10〜20%しか電力事業者を変えていないんです。過去10年間で変えたことがある人も半分くらいです。

 

荻上 経済学では「経路依存性」なんて言葉もあって、今まで通りのものを使い続ける人がやはり多い。その意味でいうといきなりシェア率が変わることはあまり想定されていないんですね。

 

さて、今回の自由化で、新しく登場する料金メニューにはどのようなものがあるのでしょうか。

 

八田 海外の例でよく見られるのは、ガスと電気を一緒に販売するプランです。このメリットとしては、請求書が一つにまとめられること、苦情相談の電話窓口も一箇所で済むので無駄が省けるから、費用が節約できる等があります。

 

坂口 最近、「今年は『トリプルセット割』が来る!」と囁かれていますが、電力自由化でも「電力・ガス・通信料」を三つまとめて安くしましょう、というプランが出てきています。例えばauは、通信料金と合わせて電気も加入すれば割引になるプランを発表しました。

 

Softbankの場合は、電気の使用量が規定値以下であれば携帯電話で使えるギガ数(データ容量)を増やします、とか。裏を返せば、今の時点では電力そのものが安くなるわけではないんです。

 

また、ライフスタイルに応じて自分に合った料金プランを選べるようになるんです。例えば土日しか電力を使わない人は土日の電力使用量が安くなるようなプラン、あるいは数世代で暮らしているご家庭はたくさん電力を使うので、その分お得にしようというプランも出てきています。

 

 

八田氏

八田氏

 

 

クリーンエネルギー、『ふるさと送電』

 

荻上 リスナーからのメールをご紹介します。

 

「私は原発に反対なので、4月からは今とは別の電力会社に乗り換えるつもりです。料金が少々高くなっても、自然エネルギーや高効率な火力発電を活用しているなど、発電方法に注目して選べたらいいなと思っています。

 

あるいは、地元企業から電力を買うことで『ふるさと納税』のように地方の経済を支えることに貢献できれば、とも思っています。その企業がやっている別の事業が地域の町おこしにつながるなら、選ばれるだけのブランド力になるはずです。」

 

料金以外の基準で電気を選びたい、というニーズもあるわけですね。

 

坂口 まずクリーンエネルギーについては、料金はやや高めかもしれませんが様々なプランが発表されています。ただ、そのプランに加入したとしても、実際に送られてくる電力がクリーンエネルギーであるとは限りません。電気には色が付いているわけではないので、中身がどの発電方法のものなのかは分からないのです。発電の事業者が増えても送電網はこれまでと同じですから。

 

荻上 そうした企業から電力を買うことは、クリーンエネルギーを応援することに直接繋がるのでしょうか。

 

八田 これについては複雑な状況になっているんです。現在、再生エネルギーに関しては「固定価格買い取り制度(FIT)」があります。これは全ての電気ユーザーが再生エネルギーにお金を払って実際の市場価格との差を埋めてあげるというシステムです。

 

ですから、FITの再生エネルギーはすでに高い値段で売られることになっています。つまり、消費者がそういった事業者と契約しても再生エネルギーの量を増やすことにはなりません。もうすでに増やせるだけ増やしているからです。

 

しかし、あえてFITを活用しない再生エネルギー業者が直接小売りをすれば、こういう業者から電力を買うことは再生エネルギーの発電増大を促します。将来、FITがなくなったり、固定価格が下がってくれば、そのような発電事業者が増えるでしょうから、再生エネルギー促進効果を発揮すると思います。

 

荻上 短期的には「買って応援」にはならないけれど、長期的な投資という意味では応援になる可能性もあるわけですね。

 

八田 そうです。ただし、「地元応援」という意味では即座に効果があります。価格が高い分が一種の寄付になるわけですね。

 

荻上 「ふるさと送電」というのもでるかもしれないですね。【次ページへつづく】

 

 

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