フェイクニュースはなぜ蔓延するのか――加速化するネットメディアに対抗する「スローニュース」とは?

玉石混交の現代の情報社会。ソーシャルメディアを通じたデマや偽情報、いわゆる「フェイクニュース」の蔓延が問題となり、米大統領選にも影響を与えたのではないかと言われている。偽情報はなぜ蔓延するのか。拡散防止への取り組み「スローニュース」とは。朝日新聞IT専門記者の平和博氏に伺った。(聞き手・構成/増田穂)

 

 

真実よりもシェアされる偽情報

 

――米大統領選挙にも影響を与えたのではないかといわれる「フェイクニュース」とは、いったいどのようなものなのでしょうか。

 

オーストラリアのマッコーリー辞典という英語辞典が、2016年の言葉として「フェイクニュース」を選んでいます。それによると、「政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」と定義されています。

 

ご存知のように、昨年の米大統領選では、まさにこのようなフェイクニュースが氾濫し、選挙に影響を与えたのではないか、と指摘されました。

 

事実が軽んじられる状況を示すという点では、英国のオックスフォード辞典が2016年の言葉として選んだ「ポストトゥルース(脱真実)」も、近い意味がありますね。その定義は、「世論の形成において、客観的な事実よりも、感情や個人的信条へのアピールが影響力を持つ状況」というものです。

 

しかし最近では、トランプ大統領が、自身に批判的メディアに対して、「フェイクニュースだ」と連呼するようになっています。これは本来の意味を塗り替えるような使い方で、フェイクニュースの問題をよりわかりにくくしています。

 

 

――実際に、フェイクニュースは大統領選挙の結果にも影響を与えたのでしょうか。

 

昨年の米大統領選では、特に共和党候補のドナルド・トランプ氏を支援し、民主党の対立候補、ヒラリー・クリントン氏を攻撃する内容のものがネットに氾濫しました。有名な「ローマ法王、トランプ氏支持を表明」というフェイクニュースは、フェイスブックを中心に100万回以上拡散しました。

 

事実、フェイクニュースが、それを検証するファクトチェックやリアルのニュースよりも広く拡散してしまう、という傾向はあるようです。

 

ワシントン州立大学の研究者、マイク・コールフィールドさんが、「クリントン氏流出メール担当のFBI捜査官、無理心中」というフェイクニュースと、主要新聞の人気記事の拡散力の比較をしています。それによると、フェイクニュースは57万回も共有されているのに、新聞記事の方は、最も多かったワシントン・ポストでも共有数は3万8000回どまりでした。

 

 

――だいぶ違いますね。

 

ええ。米バズフィードも、昨年2月から11月の投票日までの期間で、フェイクニュースと主要メディアで、共有数上位20本の記事を比較しています。それによると、当初は主要メディアの共有数の方が4倍ほどの差をつけて上回っていたのですが、8月以降はフェイクニュースの共有数の方が逆転しているんです。

 

「ローマ法王、トランプ氏支持を表明」というフェイクニュースは、ネットに流れた当初、ファクトチェックサイトが「フェイク」の認定を公開しています。にもかかわらず、それ以降も別のサイトに転載され、さらに拡散を広げて共有数が100万回を超えるという経過をたどりました。

 

ただ、それが選挙結果まで左右したのかどうかについては、否定的な見方もあります。

 

スタンフォード大学とニューヨーク大学の研究者が今年1月に発表した論文によると、トランプ氏支持のフェイクニュースの共有数が3000万回だったのに対し、クリントン氏支持のものは800万回。

 

トランプ氏支持のフェイクニュースが氾濫していたことは間違いないようですが、それらを目にした人々は、かなり限定的だった、としています。そして、大統領選関連のニュースの情報源として、ソーシャルメディアをあげる人は14%にすぎず、フェイクニュースが選挙結果に影響を与えたとまでは言えない、としています。

 

 

タップ一つで共有できる気軽さが拡散を促進

 

――偽の情報で、しかも限定的なアクセスにも関わらず、こんなにも拡散力があるのはなぜなのでしょうか。

 

フェイクニュースが広がった主な舞台は、ソーシャルメディアだからです。

 

リアルな社会なら、デマの広がりは口から口へ、ある程度その範囲が限定されます。ところが、ソーシャルメディアで火がつけば、あっという間に、何万回、何十万回といった規模で拡散してしまうことがあります。ソーシャルメディアでは、誰でも情報を発信したり、共有したりすることができる。タイムラインに流れてきたフェイクニュースを、タップ一つで共有できてしまう、という手軽さも大きいと思います。

 

フェイスブックの月間利用者が19億人、ツイッターは3億人。それらを通じて、これまでに無かったような規模とスピードで、フェイクニュースが広がってしまいました。

 

拡散の理由の一つに、ソーシャルメディア上のコンテンツに対する編集責任が曖昧だった点があります。フェイスブックのザッカーバーグCEOは「我々はテクノロジー企業だ。メディア企業ではない」と編集責任を否定してきました。

 

ただ、フェイクニュース拡散の責任を追及され、「フェイスブックは新たな種類のプラットフォームだ。伝統的なテクノロジー企業ではなく、伝統的なメディア企業でもない」と、コンテンツに対する責任をある程度認める姿勢に転じています。

 

 

――元記事をみることなく、タイトルだけでリツイートされたりシェアされたりしますよね。

 

そうなんですよね。記事そのものは読まずに共有をしているケースも目につきます。

 

先ほど触れたワシントン州立大学の、マイク・コールフィールドさんが、「反トランプのデモ参加者が3500ドルを受け取っていた」というフェイクニュースを調べたところ、フェイスブックでの共有は42万回だったのに、ページに表示された閲覧数は7万回どまりでした。この閲覧数が正しければ、記事を読まずに共有していた人たちが8割以上にのぼることになります。

 

もう一つ、ソーシャルメディアは、アルゴリズムでユーザーの興味関心に近い内容を選りすぐって表示します。そうすると、それ以外の視点の考え方が排除されてタコツボ化してしまうし、同じような考え方のユーザー同士、どんどん自分たちが正しいんだ、という確信を強め、先鋭化していってしまう傾向があります。

 

このタコツボ化は”フィルターバブル”などと呼ばれています。

 

インターネットは誰とでもつながれるのがメリットと言われてきましたが、この点では、分断を促進してしまう側面を持っていることになります。

 

このようなソーシャルメディアの特徴も、フェイクニュースの拡散の背景にあると思います。

 

 

――根本的な問題に立ち返りますが、そもそも、フェイクニュースはなぜ問題なのでしょうか。

 

民主主義は、多様な立場の人々が、共通の事実に基づいた議論を通じて、意思決定を行っていくシステムです。事実かどうかは二の次、となると、このシステムの前提が崩れてしまいますよね。

 

英国議会は1月末、「拡大しつつあるフェイクニュースの現象は民主主義への脅威であり、メディア全般への信頼を損ねる」として実態調査に乗り出すことを明らかにしました。

 

事実よりも偽情報やデマがネットにあふれ、人々の感情や信条に訴える――そんな状況に多くの人たちが不安を感じていることの表れかと思います。【次ページにつづく】

 

 

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