“ひとり親世帯”の貧困緩和策――OECD諸国との比較から特徴を捉える

日本のひとり親世帯の貧困問題への対処策(1)-就労外収入の確保

 

このように、日本のひとり親世帯がワーキングプアー状態に陥っている現状を打破するためには、大きく分けて二つのアプローチが存在する。それは、ひとり親世帯の(1)就労外収入を増加させる、(2)就労収入を向上させる、の二つである。

 

まず就労外収入を増加させる、について考察する。就労外収入には、a)私的な金銭的支援と、b)公的な金銭的支援、の2種類が存在する。前者の代表例は養育費である。「日本における子供の貧困を人的資本投資、共同親権の側面から考察する」(「SYNODOS」2017月3日14日)の中でも議論したように、日本のひとり親世帯の養育費の受け取り率は2割程度と先進諸国の中でも低い値となっており、ひとり親世帯の貧困の一つの原因となっている。このため、共同親権の導入や離婚時の取り決めの制度化などを通じて状況を改善できれば、ひとり親世帯の就労外収入を増加させ貧困状態から抜け出す一つの手立てとなりうる。

 

次に後者のひとり親世帯に対する公的な金銭的支援であるが、これの代表例は児童扶養手当である。児童扶養手当は、ひとり親世帯の所得に応じて、子供が一人いた場合には最大で月に42330円、第二子に対して最大で月に1万円加算、第三子以降は最大で月に6千円加算と金銭的な支援を行う制度である。しかし、ひとり親世帯の非就労収入が平均して年間110万円しかなく、それでいてかつ高い貧困率に直面していることを考えると、この金額が決して十分だとは言えないことが分かる。

 

さらにもう少し視野を広げると、日本はそもそも子供に対する公的資金の投入額が大きくないので、これを拡大させてひとり親世帯を含めた子育て世帯全体の非就労収入を増加させることも重要である。GDP比や政府支出に占める子供に対する公的支出額は、それぞれ国の経済規模や政府規模に対してどれくらい子供に公的支出がなされているのか計るのに適しているが、人口構造の影響を受けやすいという弱点も持つ。そこで今回は0-5歳児一人当たりに対して、購買力平価で公的支出がどれくらい行われているのかの国際比較を見る。

 

 

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上の図が示すように、先進諸国の0-5歳児一人当たりの公的支出額を比較すると、日本は先進諸国の中でもこの金額が少ない方に位置づけられる。この年齢の子供はそれ以降と比べてもケアに必要となるコストが高いだけでなく、親の収入もまだ低い状態にある。このため、税控除や児童手当を積極的に活用して、ひとり親世帯を含めた子育て世帯の非就労所得を支えることで、子育て世帯の若者、特にひとり親が貧困に陥ることを防ぐことが求められる。

 

 

日本のひとり親世帯の貧困問題への対処策(2)-就労収入の向上

 

就労収入を向上させるには、これも大きく分けて二つの方法が存在する。一つは労働の量を増やすことで、もう一つは労働の質を高めることである。

 

前者の労働の量を増やすことについてであるが、前述のとおり日本のひとり親世帯の就労率は先進諸国の中で最も高く、就労支援を通じて貧困緩和を図ることは困難である。しかし、労働市場の整備等を通じてひとり親世帯の労働時間を伸ばすことは可能である。

 

ひとり親世帯と婚姻世帯を比較したときに現れてくる差の一つに、家事・育児による時間の制約を挙げることができる。このため、長時間労働が前提となるような正社員の職には就きづらくなる。事実、母子世帯で就労している母親のうち正規職に就くものは4割にも満たず、時間に融通の利きやすいパート・アルバイトで就労しているものが半数近くにも及んでいる。これを解決するためには、長時間労働の是正や家事・育児の支援を充実させることで、ひとり親世帯が直面する時間の制約を取り除く必要がある。

 

次に労働の質を高めることについてであるが、この方策は大きく就労後研修(就労後研修は、On the Job Trainingや社内研修など職に就いた状態で受けるものと、職業訓練など職についていない状態で受けるものの2種類に分けて議論すべきだが、前者は主に正社員を対象としたものであり、貧困緩和というよりも所得向上が主眼となるため字数の都合で本稿では割愛する)と就労前教育に分けることができる。

 

一般的に職業訓練は貧困緩和策として好まれる傾向がある。なぜなら、貧困状態にある者は、人的資本投資をするための資本を借り入れることが難しいため(流動性制約)、この制約を取り除くような支援を必要としているが、無償ないしはローンの形での職業教育の提供は、この必要性に応えるものとなるからである。現在日本でも、「自立支援教育訓練給付金」と「高等職業訓練促進給付金等事業」というひとり親世帯を対象とした制度が存在しており、この必要性に応えていると言える。

 

しかし、職業訓練の課題として、資格職を目指す場合を例外として、一般的にそれほど収益率が高くないという点を挙げることができる。これは、それ以前の教育段階で学習の土台が構築されていないとそもそも何かを学ぶということが困難であることや、学習可能性をおざなりにして特定の技術を身に付けるだけではその技術が陳腐化したときに対処が出来ないことなどに由来する。

 

このため、就労前教育、いわゆる学校教育が重要となる。事実、日本ではひとり親世帯の貧困を防ぐ(予防する)ために、学校教育の充実が求められている。以下では、ひとり親世帯の大半が母子世帯であり、ここの貧困問題が最も深刻であることから、対象を母子世帯の母親に絞って議論を進めていく。

 

 

日本の女子教育の課題と母子世帯の貧困

 

最新の全国母子世帯等調査の結果によると、一般的に教育水準が高まるほど離婚率が低くなる傾向が反映され、母子世帯に占める母親の最終学歴が大学以上である世帯の割合はわずか6.9%に留まっている。同時期に実施された国勢調査で、15歳以上の女性人口に占める最終学歴が大学以上の割合が11.9%であったことと比べると、母子世帯の教育水準が全般的に低いことが読み取れる。

 

 

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しかし、問題としたいのは女性の教育水準が上昇することで離婚が減少するということではなく、教育水準の低い母子世帯の貧困である。上の表1が示すように、大卒と高卒の母子世帯を比較すると、年間の世帯収入で163万円もの差が生じている点である。

 

この差を生み出している大きな要因が、128万円にも及ぶ就労収入の差である。ここで注目したいのが、働き方の差である。高卒の母子世帯の母親の半数以上がパート・アルバイトで就労しているのに対し、大卒の母子世帯の母親のそれは約25%と、高卒の母子世帯の半分以下の割合となっている。一部の専門職の働き方を見ると分かるが、高い人的資本を蓄積することは時間や場所に縛られない働き方につながる部分がある。つまり、1人で子供を見るために時間や場所に融通が利きづらい母子世帯の母親にとっては、教育は貧困に陥らないための重要なポイントとなる。

 

 

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そしてもう一つの要因が、非就労収入の差である。女子教育の効果の一つに、女性がエンパワメントされ、男性と対等に交渉が出来るようになるというものがあるが、これは日本においてもあてはまっている。上の表2が示すように、母親の教育水準が上昇するにつれ、養育費(非就労収入)を受け取っている世帯の割合が上昇している。これだけでは「教育水準の高い女性の元夫の所得水準が高いだけではないか?」、という可能性を排除できないが、表3が示すように、教育水準の高い母親ほど離婚時に養育費の取り決めを行い、かつそれが書面として残っており、教育によってエンパワメントされた結果が示唆されている。日本はOECD諸国の中でも最も女子教育が遅れている国の一つであるため、これを改善することでひとり親世帯の貧困を予防することも必要であろう。

 

 

まとめ

 

ひとり親世帯の貧困は、若者の人的資本や社会保障に対する過少投資だったり、長時間労働が要請される正社員制度であったり、離婚と養育費の取り決め対する制度的アプローチの脆弱さであったり、女子教育の軽視といった、現在の日本社会が直面する社会的課題の集合体であると考えられる。このためひとり親世帯の貧困を解消するための特効薬は存在しない。

 

ひとり親世帯の貧困を解消するためには、時代の変化に合わせて包括的に制度や社会が変化する必要がある。日本の際立って高いひとり親世帯の貧困率が示唆するように、自分たちが変化しないということは、周りの国々が変化している分だけ、相対的に後退していく恐れがある。ひとり親世帯の貧困は、即ち子供の貧困であり、次世代の貧困へとつながっていく。前回の記事中でも言及したが、日本を将来より豊かで平等な国にするためには、本稿中で言及した課題一つ一つに対処するために社会と制度が変化し、ひとり親世帯の貧困問題が解消されていく必要があるだろう。

 

 

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