2017.07.19

フェイクニュースが蔓延するメディア構造はいかにして生まれたか

藤代裕之 ジャーナリスト

社会 #メディア#ソーシャルメディア#フェイクニュース#ポスト真実

「ポスト真実」とならび現代の情報社会のトレンドワードとなった「フェイクニュース」。しかし、フェイクニュースが広まる情報産業の構造は、1990年代から構築されていた。ニュースの無料化、個人ブログのニュース化、そしてソーシャルメディアの拡大。その影響と今後とるべき対策について、専門家に伺った。(取材・構成/増田穂)

変わるニュースの概念

――そもそも、「フェイクニュース」とはどのような情報を指すのでしょうか。

オーストラリアのマッコーリー辞典では、「政治目的や、ウェブサイトへのアクセスを増やすために、サイトから配信される偽情報やデマ。ソーシャルメディアによって拡散される間違った情報」とされていますが、定義はとても難しい状況になっています。基本的には、「フェイク」ニュースですから、事実とは異なるニュースということになりますが、私は不確実な情報もフェイクニュースだと考えています。

一方でアメリカのトランプ大統領が、CNNに対して「you are fake news」と叫んだように、最近では自分と異なる意見、権力者にとって都合の悪いニュースも、フェイクニュースと呼ばれるようになっています。何をもってフェイクニュースというのかはかなり恣意的なものがあると思います。

――今や世界中の注目を集める「フェイクニュース」という言葉ですが、藤代先生は特にどういった点からこの問題に対する危機感を持っていらっしゃいますか?

フェイクニュース自体は新しいものではありません。昔からデマはありました。問題は、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアの登場により、拡散のスピードが増し、多くの人々がフェイクニュースに触れるようになり、社会的な混乱が生じているからです。最近のフェイクニュース研究からは、ロシアのプロパガンダの影響も明らかになっています。

混乱の中で、頼るべきマスメディアの信頼度も低下しています。このような状態が続けば、社会的な合意が困難になり、人びとが暮らしていく中で、それなりに信頼できる情報を適切に取得できるという状況が壊され、何もかも信用できない、疑心暗鬼の状況になり、社会の分断が進む可能性があります。

アメリカやフランスの大統領選挙を経て、欧米では問題の深刻さを持って受け止められるようになりましたが、日本国内はまだまだ対岸の火事といった雰囲気です。マスメディアも含め、人々の危機感のなさにこそ、危機感を持っています。

――藤代先生はご著書の中で、ネットニュースメディアが生き残るために講じてきた様々な経営戦略が複合して、フェイクニュースが蔓延るメディアの構造が生まれたことを説明されています。第一段階として、ニュースの無料化に言及されていますが、これはどういった背景で起こったのでしょうか。

フェイクニュースを支えるのは、ネットのビジネスモデルです。ネットのニュースは基本的に無料ですから、儲けるためにはアクセス数を稼ぐ必要があります。内容が本当でなくても、アクセスを稼げれば良いという構造がフェイクニュースを支えています。この、「ニュースが無料」という世界は、実は新聞社が作ったものです。

新聞社のインターネットへの進出は、1995年と早い時期から始まっています。当時は、課金システムを作ることが技術的に困難であったことや、クレジットカードによる支払いが普及していなかったこともあり、担当者は、テレビのようにコンテンツは無料で提供し、広告収入で運営していく広告モデルを考えていたようです。それが、ネットではニュース無料という「常識」を作っていくことになりました。

紙では有料で提供しているニュースを無料で提供するという「非常識」な方法を選んだのは、環境が整っていなかったことに加え、新聞社以外のネット企業がニュースを作れるとは考えていなかったことがあります。ニュースを作れるのは新聞社だけだから、無料で記事を提供するのは、紙で言うと「試読」のようなもので、最後には記事を買ってもらえばいいとも考えていましたね。

ネットで最もニュースに影響があるヤフーがアメリカから上陸してサービスを開始したのは翌96年で、新聞社に遅れています。ヤフーは、ネットの利用者に記事を届ける「新聞少年」を標榜し、自分たちでは記事を作らないと新聞社を安心させて、配信する記事を増やしていきました。ヤフーは、検索サービスやオークションなどで、収益を上げながら、ニュース自体は無料で配信し、集客のツールにしていきました。これにより、ネットでのニュースは無料というのが定着していったのです。

ヤフーと新聞社の関係を、『ネットメディア覇権戦争』では、スーパーと老舗和まんじゅう店に例えています。スーパーは目玉商品として、まんじゅう店から安い価格でまんじゅうを仕入るわけです。その時、スーパーはまんじゅうを作らないことを約束、お店は宣伝になるからと安く売ったわけです。もっとも、最終的にはヤフーは自身でもニュースを作るようになり、新聞社側は裏切らたようなかたちになるのですが……。

――ヤフーに関してはコメント欄も問題になりましたよね。

ヤフーのコメント欄は、以前から差別的な表現などヘイトの温床と呼ばれていました。拙著の中でも問題を指摘していますし、ジャーナリストの津田大介さんも、アクセス数かせぎのためにヘイトを放置していると言われても仕方がないのでは、と問題を指摘しています。ヤフーは、投稿の確認や二重投稿の禁止対策を進めていますが、コメント欄を閉鎖することはありません。コメント欄では、マスメディアが配信するニュースに対するバッシングも行われています。ヤフーは、マスメディアからニュースの配信を受けながら、そのマスメディアをバッシングする投稿で、アクセスを稼いでいるわけです。

――情報の正確性という点では、近年個人による情報発信がニュースとして扱われるようになったことで、個人の意見や、裏どりに疑問の残る情報が「真実」として社会に流れている面がありますよね。そもそもニュースは新聞社のもの、という認識が覆されたことになりますが、この転換はどのような経緯で起こったのでしょうか。

2006年に起きたライブドア事件が大きな転機でした。ライブドアはそれまでもブログを人びとが作るメディア、Consumer Generated Media(CGM)として注目してきたネット企業でしたが、ライブドア事件がその動向に拍車をかけました。

というのも、ライブドアが東京地検特捜部に捜査されたことに対して、それまでライブドアが運営していたポータルサイトに記事を提供していた新聞社や通信社が記事の配信を停止したのです。ニュース記事がなくなるとポータルサイトは運営が厳しくなります。そこで、ライブドアは、ブログで情報発信しているブロガーらの記事をニュースとして紹介し始めたんです。

その結果、ポータルサイトに、新聞社や通信社が配信した記事と、ブロガーが書いた記事が、区別なく並ぶようになりました。これにより、ニュースは、新聞やテレビといったマスメディアから発信されるものという常識が崩れ、個人が書いたテキストもニュースとして流通するようになったのです。

配信停止は、ライブドアに対するマスメディアの報復とも言われたのですが、振り返ってみれば、ニュース概念の拡張という、パンドラの箱を開けることにつながってしまいました。 

情報の責任はどこに?

――配信された情報がフェイクであるにも関わらず、人びとが真実だと思ってしまう背景には、アルゴリズムにより「見たい情報」ばかりが目に入ることが指摘されていますが、このアルゴリズムというのはどのような仕組みなんですか。

アルゴリズムというのは、問題を解くための方法や計算式のことです。例えば、Facebookでは、いいね!や投稿の閲覧時間を解析して、意見の合う友達の投稿やニュースを優先的に表示するアルゴリズムがあります。友達としてつながっている相手でも、関心が低そうな投稿は表示されなくなるので、知らず知らずのうちに、同じような意見の人ばかりの投稿が表示されていくということになります。

ネット企業は、気持ちよくサービスを活用してもらうためアルゴリズムを利用しているので、「アルゴリズムにより情報が偏っています」という表示を出すようなことはありません。アルゴリズムは目に見えないために疑うことが難しいのです。このような、アルゴリズムにより、自分にとって都合のよい興味・関心を持つ情報の膜に包まれる状況をフィルターバブルと呼んでいます。

フィルターバブルに包まれていると、マスメディアが偽ニュースだと報じていても、周囲からは「マスメディアがウソをついている」「(偽ニュースこそ)本当だ」という声ばかり聞こえるということが起こってきます。そうすると次第に身近な人が言う自分に心地の良い情報を真実と信じるようになっていきます。

――フェイスブックなどのソーシャルメディアは、ニュースへのアクセスを支える重要なプラットフォームになっている反面、フェイクニュース拡散の温床になっていると批判の声もあがっています。

そうですね。特にアメリカでは大統領選後、フェイクニュース拡散におけるソーシャルメディアの影響が大きいのではないかと批判が高まり、Facebookが対策を進めています。

ソーシャルメディアを通しての情報選択には、幾つかの課題があります。まず、ソーシャルメディアは、投稿した情報に責任を持たないということです。一連のニュース生産・消費の流れの中で、ソーシャルメディアはプラットフォームという立場にあるとされています。これは先ほど言った「新聞少年」の役割で、自らはニュースを作らず、あくまでメディア、つまり新聞社などからの情報をお客さんである読者に届ける役割をしています。発信する情報の正確性に責任をもつメディアと違い、プラットフォームは、色々な情報を流通させることを重視しているので、真偽を確認することはありません。リテラシーを持って利用者がニュースを読み解く事が必要になります。

しかしながら、ソーシャルメディアの情報は、友人や知人を経由して行われます。どの友人や知人からのニュースを多く表示するかは、アルゴリズムが編集するようになっていますが、利用者は「友達が紹介しているから、確かなのだろう」と思ってしまうのです。

――選挙後批判が集まり編集責任を問われたFacebookも、当初自分たちはプラットフォームであってメディアではないので責任はないと発言していましたね。

ええ。曖昧に使われていることが問題を大きくしていますが、メディアとプラットフォームの境界線は異なります。先ほどもいったようにざっくり言うと、 メディアは、発信に責任を持つ。 プラットフォームは場の提供者であり、発信はそれぞれの投稿者の責任と分けられます。

昨年、大手ネット企業のディー・エヌ・エーが、医療系まとめサイトウェルクなどで、不確実な情報や、権利侵害の疑いがあるコンテンツを掲載しており、問題になりました。まとめサイトは「キュレーションサイト」とも呼ばれ、人びとの口コミなどネットの情報を整理しており、マスメディアとは異なる情報があり、人気がありました。しかしながら、ディー・エヌ・エーはクラウドソーシングと呼ばれるネットを通して仕事を発注する仕組みを使い、安く記事を「製造」していたのです。大手企業がフェイクニュースをビジネスにしていたことは大きな衝撃でした。

この問題を調査した、第三者委員会報告書は プロバイダ責任制限法に言及しています。その中で、「メディアは、自己の判断と責任により、情報、事実、根拠等の資料を集め、その資料に基づいて作成した記事や情報を世間に発信する役割を果すものを言う」とされ、 プラットフォームは、「(1)プラットフォーム事業者、(2)プラットフォーム上で情報や商品・サービスを提供する者、(3)その情報や商品・サービスを利用する者の三者が存在する構造となっており、プラットフォーム事業者は、原則として(2)の情報、商品・サービスの提供者とはならないことに特徴がある」と書かれています。

報告書は、ディー・エヌ・エーが記事を「製造」した部分はメディアであったと指摘しています。まとめサイトは、ネットにあるコンテンツを整理するプラットフォームのはずが、実は自社で作ったコンテンツを混ぜるメディアだった。プラットフォーム事業者は、サービス提供者にはならないという特徴が、ウェルクやメリーといったディー・エヌ・エーのまとめサイトでは破られていました。

このような、実態はメディアであるにもかかわらず、プラットフォームを装うことで、情報扱う主体としての責任から逃れていたのです。本の中でもヤフーについて、メディアとプラットフォームがあいまいな状態であることを指摘しています。

対策に乗り出す各国

――Facebookも最終的には編集責任を認め、対策を始めましたね。

そうですね。アメリカ大統領選挙の後、FacebookやGoogleでは、フェイクニュース対策が行われるようになっています。 Facebookは、当初は責任を認めていませんでしたが、現在は対策を行うようになっていて、報道機関との連携を深める、ジャーナリズムプロジェクトをスタートさせています。ジャーナリズムスクール(大学院)との連携プロジェクトへの資金提供も行っています。

Googleでは、ニュースラボなどが資金を提供し、メディアとプラットフォームが連携し、フェイクニュースの追跡などが行われています。ヨーロッパでは、メディアの連携によるファクトチェック「クロスチェック」という取り組みが行われています。フランスの大統領選挙の際には、マクロン、ルペンなど候補に偏りなく、ネットで広がるフェイクニュースを取材していました。加盟するメディアがフェイクだと考えれば、そのメディアのロゴが掲載されるので、ある特定のメディアだけによるファクトチェックよりも信頼性が高まりますし、メディアに都合が良い恣意的な話題に対してファクトチェックを行っているというネットでの批判にも対抗することが出来ます。

ジャーナリズムの世界では、BBCなどがスローニュースという取り組みに力を入れています。速報ではなく、分析や深掘りをしていくニュースのことで、CGMであるブログに注目していたジャーナリストであるダン・ギルモアさんが提唱しています。スピードの早いソーシャルメディアから距離を置き、考えることを大切にした報道です。

フェイクニュースは、読者が誤解しそうなタイトル、衝撃的な写真などを利用して、早く拡散します。反射的にニュースを読むと、このようなフェイクニュースに引っかかってしまうのです。これら世界の動きは、朝日新聞の記者である平和博さんの新著『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』にも詳しく紹介されています。

――日本では、どのような対策が取られているのですか。

先日、マスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」の楊井人文さんや、ニュースアプリを提供しているスマートニュースの藤村厚夫執行役員らによる「ファクトチェック・イニシアティブ (FactCheck Initiative Japan, FIJ)」が発足しました。ファクトチェックのガイドラインづくりなどを行う予定です。このプロジェクトの特徴は、東北大学と組んで、機械学習・自然言語処理技術を取り入れようとしているところです。

他にも、私が代表を務める一般社団法人日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)が、新聞社やテレビ局の記者、研究者、ゼミ生らと研究会を立ち上げました。こちらは、フェイクニュースの拡散状況や拡散方法について、実態解明を目的にしたものです。6月に開いた第一回研究会では、ヨーロッパで制作が進む「A Field Guide to Fake News」(第三章まで公開)をテキストに、フェイクニュース対策の取り組みを共有しました。JCEJは元の団体から邦訳許可を得ているのですが、欧米ではマニュアルなどが作られ、知見が共有される工夫が行われていることにも驚きます。

JCEJでは、既にアメリカのファクトチェック団体「First Draft News」が公開している、ソーシャルメディア取材のハンドブック「A Journalist’s Guide to Working With Social Sources(ソーシャルメディアを使った取材の手引き)」を邦訳して公開しています。知見をできるだけ多くの人に知ってもらうために、積極的に情報を公開していきます。

残念ながら、日本ではネット企業がフェイクニュース対策の資金を提供する動きはありません。研究会の活動資金はクラウドファンディングで集めるつもりです。

――ここまでシステム的にフェイクニュースが広がる環境ができてしまうと、個人のリテラシーで真偽を判断するのも難しそうです。

正直なところ、アルゴリズムなどが高度化するなかで個人が情報の真偽を判断するのはとても困難になってきています。しかし、いくつかの方法はあります。まず、正体不明のバイラルメディアのニュースをソーシャルメディアでシェアしないということです。ニュースを見たら、運営企業が書かれているか、住所はどこなのかを確認しましょう。

運営企業名がない場合もあれば、住所を検索すると畑の真ん中だったりすることもあります。このような、産地が分からないニュースを読み、シェアするというのは、野菜の産地を確認せずに、食べているようなものです。以前に食品の産地偽装が話題になりましたが、ニュースの偽装に人々はもっと多くの関心を持つべきでしょう。

ネットは、人びとの生活に欠かせないインフラとなっています。海外では、過激派やヘイトのコンテツに広告が出ることで、商品やサービスのボイコットが起きており、ネットでの広告がリスクになりつつあります。マクドナルドやスターバックスなどがYouTubeから広告を撤退、P&Gやユニリーバという巨大ブランドもネットへの広告を見直しています。

正体不明のニュースを拡散し、ヘイトを助長する舞台になっているプラットフォームを運営している企業は、もっと社会的な責任を持ち、対応を進めるべきです。

――アルゴリズムによる情報の偏りを危惧した人々からは人による編集の必要性を訴える声が聞こえる一方、人為的な編集もアルゴリズムの一種であると反論もありますが、両者の公正性に関して、藤代先生はどうお考えですか。

そもそも編集は恣意的なものです。マスメディアは中立であると言いすぎていると思います。そのために、ネットユーザーから編集の恣意性を批判されるようになっています。より、分かりやすく編集方針を示していく必要があるでしょう。一方、実はアルゴリズムも偏っているにもかかわらず中立を装い、マスメディア批判を行うネット企業は大きな問題だと思います。表示方法やランキングがどのように行われているか、アルゴリズムを監査すべきという声もあります。読者は、ネットで触れている情報が偏っている可能性に、常に注意していく必要があります。

――私たちが触れる情報は何らかのフィルターを通って出てきているのだということを認識して、ニュースに接することがリテラシーへの第一歩という感じがします。藤代先生、お忙しところありがとうございました!

プロフィール

藤代裕之ジャーナリスト

徳島新聞の記者として、社会部で司法・警察、地方部で地方自治などを取材。2005年からNTTレゾナント(goo)で、ニュースデスク、新規サービス開発を担当。2013年から法政大学社会学部メディア社会学科准教授。日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)代表運営委員。著書に『ネットメディア覇権戦争偽ニュースはなぜ生まれたか』『発信力の鍛え方』、編著に『ソーシャルメディア論:つながりを再設計する』『地域ではたらく「風の人」という新しい選択』など。

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