生活保護法改正案への反対意見

「生活保護法が変わろうとしているのに、止められない。誰ひとりとして、本気で止めようとはしていないから、止められない。」(大野更紗 Sarasa Ono @wsary 5月16日)

 

大野さんのツイッターを読み、ハッとした。言い切ってしまうのは怖いが、少なくともわたしは「本気で止めようとしていない」ことに気づかされた。無力感やあきらめが先に立ち、どこかで「そんなもんだ」と思っていた。生活保護法改正案に反対の声・文章を拝見して、その通りだと思う一方、さらにやるせない気持ちであった。

 

しかし、ひと呼吸おいて考えをあらためた。わたしは改正案に反対であり、以下にその理由を述べたい。

 

 

生活保護法改正案の問題点について

 

周知のとおり、生活保護については、先に重大な変更が決定している。保護基準の引き下げである。保護基準は制度の肝心要であるが、その変更は厚生労働大臣の権限で実現する。それに対し法改正は、当然立法機関での審議を経る。国会審議に期待をこめて、意見を述べたい。予定されている選挙も念頭に、審議のゆくえをよく見定めようではないか。審議の様子は衆議院・参議院ともインターネット中継され、経過や結果はホームページで確認できる。

 

生活保護法改正案は、2013年5月10日に厚生労働省が自民党厚生労働部会に了解をえて、14日には公明党厚生労働部会・生活支援PTに了承をえて(東京新聞2013年5月15日)、17日に閣議決定されたと各紙が報じた。とはいうものの、この間の議論や資料は非公開である。改正案のポイントのいくつかのみマスコミ報道で知らされた。すべてを閲覧できているわけではないが、新聞各紙が取り上げたポイントをまとめれば次のようである。

 

 

1)保護の申請を厳格化(東京新聞、朝日新聞、毎日新聞)

2)不正受給の罰則引き上げ(日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞)

3)後発医薬品の使用を促進(日本経済新聞)

4)「就労自立給付金」制度を創設(日本経済新聞、朝日新聞、読売新聞、毎日新聞)

5)扶養義務のある人への連絡徹底(朝日新聞、毎日新聞)

 

 

このうちとくに異論噴出であったのが、1)保護の申請を厳格化、に関する内容であった。本稿でも、この問題と関連する5)に絞って言及する。

 

原稿執筆時(2013年5月21日)では、厚生労働省のHPより改正法案案文等の資料を確認できる(http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/soumu/houritu/183.html)。ここで問題にするのは、法律案要綱にある改正の要点のうち、「申請による保護の開始及び変更に関する事項」と「要保護者、扶養義務者等に対する報告の求め等に関する事項」であり、該当する条文案を抜粋して示せば、次のようである。

 

第24条「保護の開始の申請は」、「次に掲げる事項を記載した申請書を保護の実施機関に提出しなければならない」として、要保護者の氏名、住所・居所、資産・収入、保護を受けようとする理由、その他厚生労働省令で定める事項を記載した書類を添付しなければならないとする。もう一つは、第28条「保護の開始又は変更の申請書及びその添付書類の内容を調査するために、厚生労働省令で定めるところにより、要保護者の扶養義務者若しくはその他の同居の親族又は保護の開始若しくは変更の申請の当時要保護者若しくはこれらの者であつた者に対して、報告を求めることができる」。

 

改正案の問題点については、すでに「生活保護問題対策全国会議」のブログ(http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/130517.html)、日弁連緊急会長声明(http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2013/130517.html)で詳細に述べられており、シノドスでも大西氏が言及されている(http://synodos.jp/welfare/3984)。要するに「1)違法な「水際作戦」を合法化する、2)保護申請に対する一層の萎縮的効果を及ぼす、との二点において、看過しがたい重大な問題」(日弁連緊急会長声明から引用)がある。

 

 

「水際作戦」の合法化への反対意見に対する田村厚生労働大臣の発言

 

ところで「水際作戦」とはどういう意味か。もはやよく知れ渡った言葉とは思うが、福祉事務所の窓口において職員が、生活に困窮して来所した人に対し、さまざまな理由をつけて保護を申請させず追い返す、という状況を問題化したものである。「さまざまな理由をつけて」のリアルな状況は、先に引用した「生活保護問題対策全国会議」のブログに添付された「水際作戦」の実例(https://skydrive.live.com/view.aspx?resid=3275C9DB8E03FD84!255&cid=3275c9db8e03fd84&app=WordPdf)を読めばよく分かる。

 

この実例にもあるように、追い返しの手段には、申請書を渡さないとか、申請書には医者の診断書、家の賃貸契約書、通帳など添付を求めることなどがある。現行法では、保護の申請に決まった形式はなく、口頭でも認められる。法改正により申請書類の提出を義務づけるとは、常態化している違法な「水際作戦」の合法化であり(稲葉氏)、倒錯している。

 

以上の反対意見に対する厚生労働大臣の発言は興味深い。少し長いが引用する。

 

 

(記者)生活保護なんですけれども、改正法案に追加された、24条だと思うんですが、これについて水際作戦に本当につながるんじゃないかという意見も、懸念の声もあるんですが、改めて。

 

(大臣)今もやっていることでございまして、実際運用でやっていただいております。(中略)実際問題は、現状もそうなっているんですけれども、例えば書面が書けない方に関しては口頭でお聞きをして窓口の方がそれを書いた上で署名をいただいているというようなことでございますので、実際問題、運用は変わらないんですが、そういう法律に書いたことによっての御懸念があられるということもいろいろとお話をお聞きしますので、再度ですね、各自治体に通知を出して、変わらないんですよということはお伝えさせていただきたいと思います。

 

でも、この仕事自体は収入認定をしなきゃ生活保護出ませんから、そういう意味では、もちろん書面を受け付けて受理をする、(受理を)した上で今度は生活保護の認定をするわけ で、そのときに必要な書類でございますから、ないことにはですね、やはり生活保護が支給決定できないということでございますので、必要不可欠なものであるということは確かでございまして、あとは、口頭でお聞きしたりだとかいろんなかたちの中で、事実上は書面を出していただくことになりますけれども、中身はそれぞれ、書面を書けない方々は窓口の職員の方々に書いていただいて、最終確認を、署名だけしていただくみたいな形で対応いただくということでございます(以下略)

 

*田村大臣閣議後記者会見概要(2013年5月17日)

http://www.mhlw.go.jp/stf/kaiken/daijin/2r985200000329za.html

 

 

注目したいのは、生活保護支給には収入認定が不可欠で、その事務にあたり各種書類提出は必要不可欠だということ、そして「書面を書けない方々は窓口の職員の方々に書いていただいて、最終確認を、署名だけしていただくみたいな形で対応」してきたし、今後もそのような対応を徹底するよう指示を出す、と述べた点である。

 

 

 

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