2012.05.25
“LGBT成人式”主催の若者たちが挑戦するもの ―― 自身を誇り、新しい一歩を
2012年1月15日、セクシュアルマイノリティが自身を誇り、大人になることを祝うためのイベント「LGBT成人式」が東京都世田谷区で開催された。LGBT成人式を主催したのは、早稲田大学公認の学生団体「Re:Bit」(りびっと)。セクシュアルマイノリティ問題を切り口として、「互いの違いを受け入れあえる社会」を次世代に創出することを目指し、イベント企画をはじめ、高校・大学や教育委員会向けの授業の開催、LGBT就活生の就職支援などさまざまな取り組みを行っている。同団体前代表の藥師実芳さん、現共同代表の古堂達也さん、山田月子さんに、LGBT成人式を開催した動機や今後の方針について話を伺った。(聞き手/荻上チキ、構成/宮崎直子)
この日だけにとどまらない「つながり」
―― 成人、そして成人式の成功、おめでとうございます! 今回、LGBT成人式を開催した経緯を教えていただけますか。
藥師 LGBT成人式は今年第一回目として開催されましたが、実はその前年に「第零回」とも言うべき式がありました。それは前副代表が自身の成人式を自身で開いたもので、会議室を使った、10人程の参列者の小さな式でした。それでも、参加した人たちはみんな、「これは面白い、わくわくする!」と思ったんですね。それがきっかけで、もっと大きなイベントにしようという話になったんです。
その式が行われたのは、前副代表がちょうど20歳になる年ですね。彼は女性として生まれたけど、男性として生きている性同一性障害の当事者です。ハレの舞台で、着たい袴を着て、みんなにおめでとうといわれる。それだけのことが、今はまだ「普通のこと」ではないんですね。参加者には、自分の性を肯定できず、いろんな思いで成人式に参加できなかったLGBTの人たちもいて、初めて成人式を迎えた喜びを共感しあいました。
そんなふうに世代やセクシュアリティを超えてつながる瞬間を、もっと多くの人と分かち合いたいと思い、規模を拡大した「LGBT成人式」を実現させたという経緯があります。
―― LGBT成人式では、具体的にどういうことが行われましたか。
藥師 当日は世田谷区の成城ホールを貸し切り、約400人の参加者が集まりました。
【タイムスケジュール】
〈着付け・記念撮影〉
15:20~16:20 式典
16:20~17:40 トークショー
〈交流会〉
19:00~21:00 アフターパーティー
まずは式典がはじまるまでの間に、着付けやメイクを行って、晴れ着に身を包んだ参加者たちの記念撮影を行いました。撮影は長年LGBTカルチャーを撮影し、『TOKYO BOIS』(「男の子のような女の子やFTM」をテーマとした写真・インタビューブック)などで知られる写真家の戸崎美和さん。
呉服屋「さかえ屋」さんとボランティアの着付け師・メイク師のみなさんの協力のもと、事前予約をしてくださった方に振袖と袴の着付けが行われ、希望者には「The Body Shop」さんよりご提供いただいた化粧品でメイクをしました。記念となる一日を記録に残そうと多くの方が参加され、まぶしい笑顔をカメラに向けられていました。
式典には、司会者として、性同一性障害であることを公表してモデル・タレント活動をされている佐藤かよさんをお招きしました。保坂展人世田谷区長をはじめ、17名の議員の方々が出席され、一人ずつ祝辞を述べていただきました。また、「新成人の言葉」では、現共同代表の二人がLGBT当事者としての様々な想いを語り、涙を流す人の姿もたくさん見られました。
藥師 また、タレントのMEGUMIさんを招いてトークショーを行ったほか、夜はパーティーを開きました。各協賛企業からお菓子やお酒が提供され、新宿二丁目のバーテンダーがLGBTの象徴である6色のレインボーをモチーフとしたレインボーカクテルを振る舞ったり、トランスジェンダーを中心とした団体により和太鼓演奏が披露されたりして、会場は非常に盛り上がりました。
初対面同士でも、みなさんがイベントの感想を話したり、様々な情報交換をしたりしていました。全国各地から参加されたみなさんに、この日だけにとどまらない「つながり」を提供できたのではないかと思います。
広がる共感と可能性
―― 実際に成人式を行ってみて、参加者の反応はいかがでしたか。
藥師 新成人の言葉が一番心にしみたという声が多かったですね。新成人代表の二人が自身の決意やきっかけなどのメッセージを述べると、来場者も涙を誘われ、会場が一体となりました。トークショーでも、MEGUMIさんを交え、LGBT社会人や学生らが自らの体験談を語りました。カミングアウト、恋愛、仕事、家族のあり方等々、性や生き方の多様性について、参加者一人ひとりが深く考えるきっかけになったのではないかと思います。
山田 僕は新成人代表として祝辞を述べたのですが、式典で多くの人たちが一緒に泣いてくれ、恥ずかしいようなありがたいような気持ちでした。LGBTの人なら互いに共感する部分がどこかにあるだろうと予想はしていましたが、議員さんの中にも泣いてくださる方がいたことは、本当に嬉しいことでした。LGBTではない人にも伝えられることがある、という実感が湧きました。
藥師 イベントでは、マイナスの表現はできるだけ避けるよう心がけました。「苦しかった、辛かった」ではなく、自身のセクシュアリティと向き合い、今を生きる姿や、多様な選択肢を示すことで、プラスの表現はいくらでもできると思ったからです。その中で、参加者の心を動かせたのはすごくよかったと思います。
―― 当事者同士のつながりに加え、非当時者の政治家なども含め、一緒に寛容な社会を創りたい、と思えることは重要ですね。逆に、イベントを進めていく上で、難しかった点はありますか。
藥師 一年目はイベントの認知度はゼロですので、芸能人や政治家の方たちをはじめ、各企業や団体から協賛・賛同を得るまでにすごく時間がかかりました。今回、世田谷区からは後援をいただけましたが、東京都はだめでした。やはりトップの意向もあるのかもしれませんが、それ以前に相談窓口がなかったんです。都庁にいっても、何日もいろんな課に回され続けるといった状況でしたから。
あとは、学生団体としてはそれなりに大きな企画ですが、企画メンバーがそれほど多くなかったため、メンバーがオーバーワークになってしまったという反省点もあります。
「ありのままの自分」を祝い・祝われる
―― 来年の開催に向けて、課題を教えてください。
古堂 メンバーで反省会をしたときに、多く寄せられた意見がありました。それは、セクシュアルマジョリティに対する働きかけが、もう少しできたらよかったということです。
というのもイベント後、いろんなメディアに取り上げていただいたときに、「あえてセクシュアルマイノリティを集めるイベントをやるから、差別的な見方をされるんだ」という意見があったんですね。僕たちとしては、セクシュアリティも年齢も不問で、どなたでも来てくださいというふうに設定したので、その辺がうまく伝えられなかったなというのが一点ありました。「内輪だけで、あとは排除」というふうには受け取られないように、もっと色々な試みに取り組んでみたいと思います。
藥師 このイベントの趣旨は、LGBTの人たちが自分自身や身近な人、あるいは社会から「ありのままの自分」を祝い・祝われることによって、自己肯定感を高め、またそれを発信していくことで社会を変えようというものです。でも、家族や友人など「身近な人」の参加が、比率として低かった。なので、来年はLGBTでない人も重点的に巻き込めるようにしたいなと思っています。
古堂 イベントを応援してくれても、実際に来場するとなると、やはりハードルが高いという人も多いと思うんです。ソーシャルメディアを活用するなどして、もう少しハードルを低くし、イベントに対して賛同とか共感の意を気軽に示せる場があればいいのかなというふうに思います。
藥師 今年は世田谷区の他にも、全国6ヶ所で開催しましたが、もっと広げていけたらいいですね。自分たちの地元や生活拠点でできるということが大事だと思っています。
LGBT当事者と身近に触れ合う
―― 「Re:Bit」が作られたきかっけは。
藥師 「Re:Bit」は2009年12月に創立して、今年で3年目になります。僕は大学1年生のときに、社会問題をイベントにする「qoon」という早稲田のサークルに入っていました。qoonはもともと薬害エイズ問題に取り組んでいた団体で、1996年に発足しています。
qoonは「LGBTの団体」ではないのですが、毎回のイベントで取り上げたいテーマをコンペ形式で決めます。僕が2年生の時にLGBTをテーマにしたイベントを企画したところ、コンペに通って実現することになったんです。タレントのソニンさんやLGBT人権活動家の石川大我さんを招いたトークショーで、300人くらいの人が集まりました。意外な反響も得られ、これからも続けていきたいと思い、当時のメンバーと一緒に「Re:Bit」を立ち上げたという経緯があります。
―― 「Re:Bit」は、LGBT成人式以外の活動にも取り組んでいますね。具体的な活動内容を教えていただけますか。
藥師 現在、三つの柱を軸に活動を行っています。一つ目は「イベント企画」で、LGBT成人式など各種イベントの企画運営です。二つ目はLGBTを題材とした「授業」の開催。LGBT成人式よりも早く、サークル立ち上げ当初から行っています。
講師であるLGBT当事者と実際に触れ合うことで、思っていたよりも「普通」の人だなとか、楽しく喋れるんだなというのを肌身で感じてもらいたいという思いではじめました。現在まで、関東地区を中心とした高校・大学・教育委員会等で、月2、3回のペースでトータル30回ほど実施しています。
団体立ち上げ当初、授業の枠をいただくというのは大変難しいことでした。それは、僕たちが新規の学生団体であるということはもちろんですが、LGBTをテーマにした授業というと「性的な話をするのでないか」との誤解を多く受けたからです。最初はコネクションのある大学や教授のところにお願いをして、信頼を構築できた頃に、神奈川県の教育委員会の講座で講師をさせていただき、それを契機に活動が広がっていきました。
山田 私は授業代表として、講師をつとめています。目指しているのは「LGBTの人と身近に触れ合える授業」で、5~10人でグループワークを行っています。教室内でいくつかのグループにわかれてもらい、それぞれのグループにLGBTの人がファシリテーターとして参加して、「対話」をします。LGBTが「自分たちはこうだ」と、一方的に話すのではなく、ファシリテーターと受講生が対話を通じ、双方の「壁」を取り払って行けたらと思っています。
はじめに簡単なLGBT用語の説明をしたあとは、各グループで、全員の自己紹介をします。好きな食べものや趣味などの話を通じ、できるだけ一人の人間として身近に感じてもらうようにします。それから、LGBTとして今まで感じてきたことや、カミングアウトなどの経験談を、一対一で対話するというような気持ちで語っていきます。
―― よく聞かれる質問や、いつも話題にあがるテーマはありますか。
山田 一番多いのは恋愛の話ですね。初恋はいつだとか、どのような恋愛をしているのかなどは、やはり気になるところだと思います。また、カミングアウト、家族との関係、同性婚などもテーマとしてよくあがりディスカッションします。
藥師 授業を3年間続けてきて、それなりの手応えは感じています。実際にLGBTの人と話をして、思ったよりも仲良くなれるという感覚はもってもらえているなと。でも、もう一歩踏み込んで、もし、自分の周りの家族や友人にいたらどうだろう……と自分に引きつけて考えて、共感してもらえることの難しさを、今とても感じています。
山田 たとえば、授業の際にLGBTが身近にいることに対して「いいじゃん!」といった発言が多いのですが、プラスの意味でそう言ってくれているのか、それとも「(どうでも)いいじゃん!」と思っているのかは判断が難しいところです。どちらにしても、実際に自分の周りにいたら……と考えた時、「いいじゃん!」ではなく、「どうしたらいいのだろう?」という段階まで考えてほしいと思っているので、まだ授業では自分に引きつけて考えるところまでは、もっていけていないのではと感じます。
藥師 そして、「Re:Bit」の活動の三つ目の柱となるのが「就職支援」です。これは現在立ち上げている最中で、これからの取り組みです。
僕自身も今就職活動をしていますが、多くのLGBT学生にとって、自身が「楽しく働く姿」を想像することは容易ではなく、ロールモデルをもつことも難しい現状にあります。LGBT就活生と内定者、またすでに働いているLGBTの社会人や企業をつなぐことで、「10年後の自分」をより鮮明に描けるように、情報交換の場を作っていきたいと考えています。
時代にあった挑戦を
―― 学生団体として、多くの有意義な活動に取り組んでいるのを知り、とても心強く感じています。たとえばこのサークル活動を基に、今後起業したりといったことも考えていたりするのでしょうか。
藥師 今は学生団体として続けていきたいなと思っています。それは「LGBTに関し発信したいことがあるのに、学生が主体となり発信する場がない」というニーズのもと立ち上げた団体だからこそ、そのような学生が、今後も想いを発信できるプラットフォームとして残したいと思っているからです。
しかし、やりたいことはたくさんあります。たとえば、LGBT市場を日本で広めること。LGBT市場はアメリカで77兆円、日本では6兆6千億といわれていますが、日本ではまだまだ可視化されていません。しかし、ニーズを把握してうまく商業につなげられれば、可能性は十分に期待できる市場です。
―― 当事者たちによるボイコットキャンペーン、不買運動も行われますし、一方で応援キャンペーンというものも行われる。その影響力を見えるようにしたい、ということですね。
藥師 早稲田は他にも「GLOW」というセクシュアルマイノリティの大きな団体があり、広く活動を展開しています。また、NPO法人で「good aging yells.」という団体もあります。「すてきなLGBTライフをつくろう。」をキャッチコピーに、全国のカフェと連携したプロジェクトなどをされています。
他にも、最近は東京ディズニーリゾートでの同性結婚式が実施できるようになり、ウェデイング業界でも注目されるなど、様々なところでLGBTを対象にした新しいアイデアが生まれてきています。そうした姿をみて、自分たちでもいろんな挑戦をしていきたいと思っています。
―― とても面白いです。今後いろんな発信を続けてほしいですね。
藥師 これからも「学生」のニーズに合ったこと、わくわくすることをたくさんやっていければと思います。ただ、「Re:Bit」は発足して今年で3年目を迎えますが、多種多様なメンバーがいるからこそ、同じ方向を向き続けること、モチベーションを維持していくことの難しさは感じています。とはいえ、その都度メンバーがやりたいと思うようなテーマで、いろんなことをできる場があればと思うので、まずは第二回のLGBT成人式にも、注目していただければとても嬉しく思います。
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