2024.09.25

翔んで埼玉?(その2):東京一極集中について考える

中里透 マクロ経済学・財政運営

社会

東京一極集中の是正は、長きにわたり重要な政策課題とされてきた。「過密と過疎の同時解消」は「国土の均衡ある発展」を経て「地方創生」に変わったが、一極集中の是正と地方分散を求める声は今も根強くある。そのような声は、かつては道路や鉄道、空港などのインフラ整備を求めるものであったが、最近は少子化への対応と関連づけて是正策が論じられるようになった。

「東京はブラックホール」という議論自体は都市伝説だとしても(各地域の出生率は人口移動の「結果」として決まる指標でもあるということに留意)、首都直下地震のことなどを考えると、東京への過度の集中は好ましくない。もっとも、一極集中是正の対象となる「東京」の範囲をきちんと意識しないと、対応策があいまいなものとなってしまうということを前回の議論で確認した。東京の都心への大学の立地を規制することも一極集中の是正策ではあるが、このような立地規制の結果、都心にある大学のキャンパスが八王子に移転したとしても、「地方」の側が求める「地方分散」が実現したということにはならないだろう。

これらのことを踏まえ、今回は東京一極集中の問題について考えてみることとしたい。

(本稿の前編は下記のURLから自由にご覧いただくことができます。翔んで埼玉?(その1):「東京」と「地方」をめぐる物語 https://synodos.jp/opinion/society/29201/

人口移動で見る一極集中の経過

東京圏への人口移動(転入超過数)をもとに戦後の経過をたどってみると、東京への集中が進んだ時期が過去に4回ある(図表1)。ひとつは高度成長期で、ピーク時(1962年)には転入超過数が39万人に達した。70年代に入ると転入超過数は急減し(第一次オイルショックの影響ではなく、それより前の時点ですでに変化が生じていたことに留意)、地方分散が進むことが期待されたが、80年代に入ると再び集中が進んだ。この局面における転入超過数は1987年にピークアウトしたが、東京一極集中に対する批判はその後さらに高まり、90年代初頭まで続いた。

図表1 東京圏の転入超過数の推移(日本人移動者・年次)

(資料出所)総務省「住民基本台帳人口移動報告」

1990年代前半には転入超過数が減少し一時は転出超過となったが、90年代後半になると転入超過数が再び増加に転じ、リーマンショックの前年(2007年)まで集中の加速が生じた。その後は東日本大震災(2011年)とコロナ禍(2020年)による振れを伴いつつも、最近時点まで転入超過数は増加基調で推移している。コロナ禍のもとでは、これを機に地方分散が進むとの見方もあったが、「新しい生活様式」はすでに過去のものとなり、元の日常が戻りつつある。

「新興住宅地」となった中央区

転入超過数における3回目の波とそれに引き続く最近時点までの局面の大きな特徴は、東京都が転入超過に転じたことである。意外に思われるかもしれないが、1960年代半ばから1990年代半ばまで東京都は転出者が転入者を上回り、人口の社会減が続いていた。東京圏への人口の流入が続く中でこのような状態が生じたのは、東京都から周辺の3県(埼玉県、千葉県、神奈川県)への大幅な転出超過が続いたからだ。かつての東京都、とりわけ都区部は「働く場所」であって、必ずしも住みやすい場所ではなかった。人口減を懸念して一部の区では家賃補助を実施することで居住者を増やそうとする動きもみられた。

このような変化が端的に表れているのが東京都中央区だ。1950年代半ば以降、中央区は長らく人口減少が続き、90年代半ばには人口が40年前の半分にまで減っていたが、1997年以降、人口が増加に転じ、その流れは最近時点まで続いている。その背景には住環境の整備に向けた行政の取り組みと、産業構造の変化に伴う土地利用の変化がある。臨海部に展開していた工場や倉庫は用途転換が進んでマンションになった。その先駆けとなった象徴的なプロジェクトが大川端リバーシティ21である(石川島播磨重工業の東京工場跡地を三井不動産と日本住宅公団(現在の都市再生機構)が買収して再開発)。

このような経過をたどって中央区は「新興住宅地」となった。このところ、中央区の出生率(合計特殊出生率)は全国平均を上回って推移しているが、その背景には東京の都心部が「住む場所」にもなったという変化がある。

「人口戦略会議」に見る一極集中

こうした中、今年の4月に人口戦略会議(議長=三村明夫・日本製鉄名誉会長)から公表されたレポートが大きな話題となった。10年前に日本創成会議から公表された報告書(いわゆる「増田レポート」)の「消滅可能性都市」を引き継いで、全国各地の「消滅可能性自治体」の一覧が掲載されるとともに、東京都の16の区をはじめとする25の自治体が「ブラックホール型自治体」とされたためだ。

「ブラックホール型自治体」は他の地域から人口が流入する一方、出生率が低くその分だけ出生数が少なくなるため、社会増を前提にしないと人口が大幅に減ってしまう自治体とされる。自然増だけでは人口を維持できず、他の地域から人を集めることで人口規模を維持しているというところが、「ブラックホール」と呼ばれる所以である。

「ブラックホール型」とされた25の自治体のうちとりわけ問題となったのは東京都にある16の区だ。東京は全国から多くの若者を集めておきながら、出生率は全国最低の水準となっているから、このような状況が続くと日本全体の出生数が減り、人口減少がますます加速してしまうことになる。したがって、「東京は人を吸い込むブラックホールである」というのが、この話の基本的な構図ということになる。 

この見立てがはたしてどこまで正しいものなのかということはひとまず措いて、「東京はブラックホール」という見方を前提にすると、そこから導かれる結論は「少子化と人口減少を食い止めるためにも東京一極集中の是正が必要」ということになる。人口戦略会議の報告をうけて全国知事会などでも少子化の問題と一極集中是正の取り組みについて活発な議論が行われた。

もっとも、一極集中の是正はそう簡単には進みそうにない。そのことは人口戦略会議のメンバーの一覧からも見て取ることができる。今年の1月に公表された「人口ビジョン2100」に掲載されているリストをもとに、人口戦略会議メンバーの所属組織の所在地を確認すると、東京都の都心3区が13(千代田区7、中央区1、港区5)、その他の区が10(うち新宿区3、渋谷区1)、都下の市が2、東京都の道府県が3となっていて、人口戦略会議も「東京一極集中」になっていることがわかる。

人口戦略会議の報告書についてはテレビのニュースなどでも大きくとりあげられたが、「ブラックホール」のことを報じた在京の民放キー局はすべて港区にある。news zeroという番組で「東京は人を吸い込むブラックホール」と報じたある放送局は、以前は千代田区麹町にあったから、港区はテレビ局を吸い込むブラックホールなのかもしれない。1990年代に新宿区河田町から港区台場に移転した別の放送局は、出生率ではなく視聴率の低下に悩んでいる。

もちろん、このように書いたのは、人口戦略会議や民放各局を批判したり揶揄したりするという趣旨ではなく、これらの例が東京一極集中の是正と地方分散をめぐる問題の難しさを物語るものとなっているからだ。人口戦略会議のメンバーが所属する組織の所在地が東京一極集中になっているとしても、それらの企業や団体はさまざまな制約条件のもとで最適な場所を選んで立地の選択を行っているはずだから、東京の都心部への立地には十分な合理性があるものと理解される。東京の都心に多くの企業や団体が立地することは、集積のメリットや移動コストの低減を通じて東京の都市としての生産性を高め、東京の魅力を増すことにも寄与している。

となれば、全国各地から東京へ人が集まることにも十分な合理性があり、10代後半~20代の女性が進学や就職のために東京にやってくることにも相当の理由があるということになる。

「移住婚」支援金と令和の「工業再配置促進法」

8月下旬から9月初にかけて「移住婚」の支援策のことが話題となった。これは東京23区に居住している、あるいは東京圏に住んで東京23区に通勤している女性が、結婚を前提に地方で開催される婚活のイベントに参加した場合の交通費や、結婚が決まって移住をする際の費用の一部を国が自治体を通じて支給するというもので、内閣府・内閣官房において来年度の予算要求に盛り込むことが予定されていた。

このような企画の良し悪しはともかく、東京は出生率が低く、地方は出生率が高いということを前提にすると、未婚女性の移住を促せば東京一極集中の是正と出生率の向上の同時達成が実現できるというアイデアが生まれることになるのだろう(ただし、各地域の出生率は人口移動の「結果」として決まる内生変数なので、このアイデアの前提となっている事柄がきちんと満たされるのかは別問題である)。

かつて、工業再配置促進法という法律があって、その第1条には「この法律は、過度に工業が集積している地域から工業の集積の程度が低い地域への工場の移転及び当該地域における工場の新増設を(中略)推進する措置を講ずることにより、工業の再配置を促進し、もつて国民経済の健全な発展を図り、あわせて国土の均衡ある発展と国民の福祉の向上に資することを目的とする」と書かれていた。この条文の「工業」と「工場」を「未婚女性」、「工場の新増設」を「結婚」と読み替えれば、移住婚支援金のアイデアは令和の「工業再配置促進法」なのだということがわかる。

もっとも、女性を「産む機械」として扱うようなこの企画には、当然のことながら多くの批判が寄せられることとなり、政府部内(官邸の関係者を含む)からも異論が出て、この企画は発表から1週間ほどで事実上の撤回を余儀なくされた。その1週間ほどの経過において興味深かったのは、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込み)や性別役割分業についての固定的な意識が、地方から東京へ女性が流出する原因になっているという見解が数多く示されたことだ。このことは、「東京はブラックホール」という議論のもうひとつの側面、すなわち地方における出生率の高さについて、しばしば説明されるものとは別の見方があることを示唆するものだ。

出生率の地域差については、出生率の高さをそれぞれの地域の住みやすさ、暮らしやすさを表す指標ととらえる見方がある。この見方にしたがえば、東京の出生率が低いのは居住環境や生活環境が劣悪なためであり、子育ての環境に恵まれ、出生率の高い地方への分散を促すのは当然のことだという理解になる。

だが、「移住婚」支援金をめぐる一連の経過は、出生率が高い地域を住みやすい・暮らしやすい場所ととらえる見方は一面的で皮相なものであるかもしれないということを物語っている。官邸の関係者などからなされた上記の指摘は、クローズアップ現代(NHK)の「地方から女性が消えていく」という特集で(6月17日放送)、ある女性が「東京が令和だとすれば、地方は江戸時代」と語っていたことと相通じるものがある。

多くの未婚女性が流出してしまう地域では、地元に残った女性は比較的早く結婚をして子どもをもつことが多いから、統計のうえでは未婚率が低く、出生率は高くなる傾向がある。だが、そのことを住みやすさ・暮らしやすさの指標ととらえてよいかとなると、相当の留保が必要ということになるだろう。

こうしたもとで、地方から流出した女性が東京に着くなり「さあ婚活だ」ということにはならないから、東京の出生率が低いことについては、未婚女性の流入の影響をきちんと考慮することが必要ということになる(25~29歳の女性についてみると、大卒・大学院卒の女性の割合が、出生率が高いとされる地域よりも10%ポイント以上高いから、平均初婚年齢に後ずれが生じるのは自然な話である)。

少子化対策と一極集中是正の不幸な「結婚」

東京が「ブラックホール」であるのかはともかく、全国的にみても2010年代半ばから出生率は低下傾向にあり、少子化の問題はこれまで以上に懸念される状況となっている。首都直下地震のことを考えると、リスクの分散という視点からも全国の複数の地域で東京の機能を代替できる体制を整えておく必要がある。東京の都心に機能が集中すると、いざというときに業務の継続が困難になり、安定的な経済活動が維持できなくなるおそれがあるというのは、コロナ禍のもとで得られた大事な教訓でもある。

このように、少子化への対応も東京への過度の集中の是正も喫緊の課題であるが、不思議なのは少子化対策と一極集中の是正を結びつけてセットで問題をとらえることが、政府の基本的なスタンスになっているということだ。まち・ひと・しごと創生法の制定とそれに基づく「総合戦略」「人口ビジョン」の策定は、各自治体が地方創生に向けた取り組みを進めるうえで大きなきっかけとなったが、先ほど見た移住婚支援金をめぐる経過のように、少子化対策と一極集中是正の取り組みにノイズをもたらす要因ともなっている。

それぞれの地域の住みやすさ、暮らしやすさをとらえるうえで合計特殊出生率が必ずしも指標性の高いものとはなっていないことを踏まえると(出生率の高低が各地域の住みやすさ、暮らしやすさを表すものだとしたら、出生率が高い地域から人口が流出し、出生率が低い地域に人口が流入するという現象が生じているのはなぜなのだろう?)、少子化対策と一極集中是正をことさら結びつけて考える必要はなく、両者はひとまず分けて議論するほうがよいということになる。

仙台も福岡も「ブラックホール」?

出生率が低いという話では東京都のことが強調されるが、それぞれの地域ブロックで見ると仙台も福岡も出生率が低い。宮城県は東北6県の中で合計特殊出生率が最も低く、県庁のある仙台市青葉区は1を下回っている(図表2)。福岡県も九州7県の中で合計特殊出生率が最も低く、県庁のある福岡市博多区は1.04、商業などの中心地である福岡市中央区は0.85となっている(これらの計数はいずれも厚生労働省「平成30年~令和4年人口動態保健所・市区町村別統計」による)。

図表2 東北6県における出生率の状況

(資料出所)厚生労働省「平成30年~令和4年 人口動態保健所・市区町村別統計」

地域ブロックではなく各県(47都道府県)についても同様で、県庁所在地と県全体の出生率をそれぞれ比較すると、県庁所在地の出生率が県全体の出生率を上回っているのは10県に過ぎない。たとえば島根県についてみると、松江市は1.54、島根県全県は1.60で、松江市の出生率は県内19市町村のうち3番目に低い水準となっている(なお、松江市の人口は島根県全体の人口の約3割)。

このように、周辺地域に比べて人口や産業が集中する地域では総じて出生率が相対的に低くなる傾向がみられるが、それでは仙台一極集中や福岡一極集中の是正をすることが望ましいかとなると、これは一考を要する問題ということになる。人口や産業が過度に分散されることになれば、それと同時に集積のメリットも失われてしまうことになるからだ。

県議会などで県庁所在地一極集中の是正についての質問が出ることがあるが、東京一極集中の是正を求める各県の知事はこのような質問にどのように答えているのだろう(なお、全国知事会の会長を務める宮城県の村井知事は、第1回仙台市・宮城県調整会議(2016年7月20日開催)の席上で「仙台一極集中は問題ではないかと言われるが、仙台市はマグネットの役割を果たしており、仙台市の都市機能を宮城県、東北で最大限活用する必要があると考えている」と説明している)。

「分散」と「分権」のあいだ

東京一極集中の是正はしばしば「地方分散」という形で論じられる。この場合に分散の対象となるのは、東京に立地する機関や施設だ。この点については多極分散型国土形成促進法に基づいて1988年に国の行政機関等の移転が決定され、各省庁の地方支分部局がさいたま市に移転したり、日本高速道路保有・債務返済機構が横浜市に移転するなど、東京圏の圏域内における「地方分散」に一定の成果をあげてきた。

もっとも、東京圏以外への移転は各省庁の付属機関や独立行政法人の研究所や研修所が中心で、中央省庁の移転は文化庁の一部組織が京都市に移転したにとどまる。1992年には「国会等の移転に関する法律」が施行されたが、移転先となる候補地の選定は進んでいない。地方分散については移転の対象となる組織の強い反対があり、移転先をどこにするかをめぐっては「地方」の側の軋轢も予想されるから、中央省庁や国会の移転が思うように進むことはないだろう。

東京一極集中にはもうひとつ、権限の集中という側面がある。この30年ほどの間に規制緩和は進められてきたが、「バス停を少し動かすのにも国におうかがいを立てないといけない」というような状況は今も続いている。このような状況を解消するための取り組みが地方分権改革であり、2000年代(00年代)には分権改革に向けた取り組みが熱心に進められてきた。だが、この10年ほどは関心の中心が「分権」から「分散」へと移ってしまったようだ。地方分権というのは自治体の行財政運営における規制緩和であり、その効果は一般的には格差を拡大させる方向に働くから、格差を忌避する雰囲気が強い中にあっては分権も進みにくい。

こうしたもとで、若年女性人口の地方分散を通じて「国土の均衡ある発展」を進める取り組みが「移住婚」支援金の企画のような形で登場するが、当然のことながらこの点に関して広範な支持は得られそうにない。

東京に対抗し得る都市への集中投資

「一極集中」の対義語は「多極分散」であり、これまでの地方分散策はこの視点から進められてきた。だが、47都道府県、1718市町村を一律・平等に扱おうとすると、それぞれに対する支援は手薄になる。これでは東京に対抗し得る都市をつくることはできない。

現実的な判断としては、仙台や福岡など地域ブロックの中心都市への投資を進め、わざわざ東京に来なくても同じような仕事を見つけることができ、生活を楽しむことができるような環境を整備していくことが、東京に対抗し得る都市をつくるうえで一番ということになるだろう。このような形で地方中枢都市などの都市機能の強化が進み、東京が担っている高次の都市機能を他の複数の都市が分担できる体制ができることは、首都直下地震などによって「首都消失」が生じた場合のリスク分散にも資することになる。

このような取り組みを進めていくと、仙台や福岡などとその他の地域の間の格差が拡大し、仙台一極集中や福岡一極集中の是正を求める声が強まるかもしれないが、たとえば山形の人が引っ越して東京に来なくてはならない社会をつくるほうがよいのか、山形から仙台に通勤する社会をつくるほうがよいのかは、人により、また立場によって判断が分かれるだろう。もちろん、いずれの選択肢を選ぶかは、「地方」の側に委ねられている。

プロフィール

中里透マクロ経済学・財政運営

1965年生まれ。1988年東京大学経済学部卒業。日本開発銀行(現日本政策投資銀行)設備投資研究所、東京大学経済学部助手を経て、現在、上智大学経済学部准教授、一橋大学国際・公共政策大学院客員准教授。専門はマクロ経済学・財政運営。最近は消費増税後の消費動向などについて分析を行っている。最近の論文に「デフレ脱却と財政健全化」(原田泰・齊藤誠編『徹底分析 アベノミクス』所収)、「出生率の決定要因 都道府県別データによる分析」(『日本経済研究』第75号、日本経済研究センター)など。

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