2022.12.01
日本と韓国で人気急上昇! タイの人気アイドルたち
日本、韓国、そして中国。アジア各国でタイのアイドルたちが人気です。今回は日本と韓国を取り上げて、タイ人アイドルの人気について考えてみます。
日本で人気のタイ人アイドルたち
日本でタイ人アイドルの人気が高まったのは、2020年、コロナが大流行する最中でした。タイのBL(ボーイズラブ)ドラマをYouTubeで視聴した人たちが、タイ人男性アイドルに注目しはじめたのです。その人気は、日本のファンにツイッターなどで共有され、広がっていきました。そして、タイ人アイドルの知名度が上がり、タイドラマのテレビ放送やマスメディアでのプロモーションにつながっていきます。2021年には、「2gether THE MOVIE」が全国で公開されました。
GMMグラミーによって製作された「2gether」は、タイのイケメン大学生2人の恋物語を描いた人気BLドラマです。2020年2月から5月まで、タイのテレビ局GMM25で放送されました。ブライトとウィンはこのドラマの主人公で、日本でも一躍、大人気となりました。マスコミに紹介されることで、BLドラマファンの枠をこえて、一般的な人気を博すにいたりました。現在、タイのBLドラマは、U-NEXT、Netflix、TELASA、Amazon Prime Videoなどのストリーミングサービスで視聴することができます。
2gether The Series MV
Still 2gether 予告編
タイ人アイドルのイベントであるGMMTVファンフェス2022は、コロナ拡大の心配をよそに、2022年8月、日本で盛大に開催されました。これは日本におけるタイ人アイドルの人気上昇を反映したものです。
日本で人気なのはBLドラマだけではありません。タイのドラマもまた、現在、日本で人気を博しています。「F4タイランド」はタイ版「花より男子」といわれますが、このドラマに出演しているアイドルたちの人気も大変なものです。
タイのアイドルを応援する日本のファンの活動もまた、とても興味深いものです。コロナ禍にあって、日本のファンは自粛を強いられましたが、その代わりにタイのアイドルやスタッフにお弁当やお菓子を送り、アイドルたちの活動を応援してきました。また、誕生日やイベントの際には、タイや日本でLED看板、バナー、ポスター、トゥクトゥク広告(推し俳優・アイドルの誕生日を祝う広告)などを購入して、タイのアイドルの宣伝に力を貸しています。こうした活動からも、日本人ファンのあいだでのタイ人アイドルの人気の高さがうかがえるでしょう。
タイ人アイドル、韓国から世界へ
韓国では、日本とは違ったかたちで、タイ人アイドルが人気を博していきました。日本では、タイで制作されたドラマを通じて、タイ人アイドルの人気が広がりました。それに対して韓国では、韓国で制作された作品を通じて人気が高まり、さらには世界にまでその人気が広がっていきました。
タイのアイドルは、タイや韓国でオーディションに参加し、アイドルになるための訓練を受け、韓国の事務所に所属しデビューします。ここでは、世界的に人気のあるタイ人アイドルを紹介しましょう。
ニックンは、インターナショナルなボーイズバンドグループ、2PMのメンバーです。JYPエンターテインメントにスカウトされ、2005年に韓国で歌、ラップ、ダンス、韓国語、中国語のトレーニングを受けました。そして、3年間のトレーニングを経て、2008年9月にデビュー。2019年、シングルアーティストとしてミニアルバム「Nichkhun of 2 PM」を発売しました。
2PM NICHKHUN (닉쿤) “Lucky Charm” M/V
人気モデルでもあるリサは、Black Pinkのメンバーです。彼女は2010年にYGエンターテインメントのオーディションに参加し、唯一の合格者となりました。2011年に練習生となり、5年間のトレーニングを経て、2016年にガールズグループ、Black Pinkのメンバーとしてデビューを果たしました。現在、リサはシングルアーティストとして、世界中で気を博しています。
「LISA – ‘LALISA’」 M/V
それからGOT7のメンバー、バンバム。13歳でJYP World Tour Audition Thailandに合格し、2011年に韓国でアーティスト研修生として活動。そして、YGエンターテインメントのオーディションに参加し、2014年にGOT7のメンバーとなりました。2020年にミニアルバム「DYE」を発売しています。
他にも多くのタイ人アイドルが韓国でデビューしています。マシューは2010年にCJ Entertainmentからデビューしました。ジョイは2011年にDr.MusicからガールズグループRaniaのメンバーとしてデビュー。ミントは2012年にTiny-Gのメンバーとして活動。テンは2013年にトレーニングを開始し、2016年にデビュー、現在はアメリカでデビューした韓国ボーイズグループSuperMのメンバーです。ミニーは2015年にCUBEエンターテインメント所属の研修生アーティストとなり、2018年に(G)I-DLEのメンバーとしてデビュー。ナッティはシングルアーティストとして、2020年にSwing Entertainmentからデビューしました。
タイのアイドルは日本ではドラマで人気ですが、韓国ではミュージシャンとして、世界レベルの知名度があります。では、このように、日本と韓国で人気となったプロセスが異なるのは、どのような理由からなのでしょうか。
1)市場規模。韓国のアイドル市場は日本ほど大きくはないため、韓国はアジアや世界へグローバルに市場を拡大する必要があります。その戦略の一つとして、他国のアイドルを使って、彼らの母国でのプロモーションやネットワークを構築していきます。タイのアイドルは、タイ国内のアイドル市場にフォーカスして起用します。中国、日本、アメリカ、カナダなど、他の国のアイドルも、韓国でトレーニングしデビューしています。
2)日本の国内市場。日本のアイドル市場はとても大きく、日本企業は世界市場に進出する必要がありません。そのため、日本のアイドル市場はドメスティックです。海外のアイドルが日本でデビューするのは、日本語や日本文化の壁があり、非常に難しいものとなります。タイのアーティストの中には、日本でアイドルになるためにトレーニングを受けている練習生がいますが、途中でやめてしまいます。日本が世界のアイドル市場で成功するためには、アイドルの育成過程での世界戦略を考える必要があるでしょう。
3)文化の壁。上で述べたように、日本の文化や言語は独特で、外国人が理解するのはとても難しいのに対して、韓国の文化は新しい文化や文化の多様性に寛容です。そのため、海外のアイドルは、日本よりも韓国でデビューしやすいのです。
今回は触れませんでしたが、タイのアイドルは中国でも人気があります。中国でもタイのドラマは人気で、BLドラマやBLアイドルも人気があります。ビルキンとPPが、中国で人気のあるタイ人BLアイドルです。中国の企業は、タイのBLドラマの制作に投資しています。しかし、BLドラマは中国のマスメディアでは放送できないため、中国のBLファンはインターネットでタイのBLドラマを視聴しています。
Billkin, PP Krit – Safe Zone [Official MV]
他方で、中国のアイドル市場でデビューしたタイのアイドルもいます。ネネは、Wajijiwa Entertainment、Sony Music、Tencent Penguin Picturesの下、Bon Bon Girls 303のメンバーとしてデビューしました。ミミ・リーは、Rocket Girls 10というグループでデビュー。スネはA’N’D(Angel ‘N’ Devil)、Rocket Girls 101でデビューしました。現在、ユニバーサルミュージック中国に所属するシングルアーティストです。
日本や中国のファンは、インターネットでタイのドラマをみています。韓国は、インターネット・メディアを使って、アイドルの人気を世界的なレベルで広めています。インターネット・メディアは世界の距離を縮め、アイドルが世界的に知名度を高めることに貢献しています。今後は、もし企業が自社のアイドルを世界に広めたいのであれば、インターネット・メディアの戦略は欠かせないものとなるでしょう。
さて、これまで紹介してきたタイ人アイドル、あなたは何人知っていましたか? タイのアイドルについて、もっと知りたいですか? 【翻訳 / 芹沢一也】
[付記]本研究は、「公益財団法人サントリー文化財団2022年度研究助成『学問の未来を拓く』」による研究成果の一部である。
プロフィール
ピヤ ポンサピタックサンティ
ปิยะ พงศาพิทักษ์สันติ
タイのタマサート大学ジャーナリズム&マスコミュニケーション学部卒業、広告代理店入社。01年国費外国人留学生として来日。05年大阪大学大学院人間科学研究科修士課程修了。09年京都大学大学院文学研究科・博士(文学)学位を取得。09年長崎県立大学シーボルト校国際情報学部専任講師・准教授。17年より京都産業大学現代社会学部教授、現職。