円高は経済政策の失敗が原因だ  

政府の為替介入と円高対策は十分か

 

これまでみたように、円高を是正するには金融政策が鍵を握るわけだが、政府の為替介入と円高対策は妥当なのだろうか。

 

まず9月15日に行われた総額2兆円あまりの為替介入だが、それまで注視をつづけた政府にあって、2兆円という過去最大規模の為替介入は、当時82円台だった為替レートが介入によって、一時85円台半ば~後半まで回復したように、サプライズ効果もあいまって一定の効果をもたらしたといえる。

 

しかし、先の国際金融のトリレンマや為替介入の効果を論じた既存研究のインプリケーションからも分かるように、為替介入自体は短期的な意味で正当化されても、それ以上のものではない。効果として確認できるのは、市場参加者の期待に与える影響が主である。

 

さらに現行制度では円売りドル買い介入を行っても、さらなる緩和といった金融政策の変更を伴わないかぎりは、為替介入により供給された円は吸収されて効果は失われてしまう。

 

政府の為替介入の決定に際して日銀は、「現状を放置する」という姿勢を鮮明にしたが、これを政府は歓迎する意向を示した。政府は自らが行った為替介入の効果が、ゆくゆくは自動的に打ち消される羽目になるにも関わらず、歓迎するという状況は滑稽といわざるをえないものだ。

 

後日、財務省は、円売りドル買い介入のために、日銀から調達した円を即時返済するのではなく、償還期限ギリギリまで市中に放置するとの報道がなされた。市中に放置しておけば、そのあいだは擬似的に金融緩和の効果が持続する。

 

政府は為替介入をタイミングよく行い、市場参加者への期待に影響を与えるとともに、介入額をできるだけ市中に放置して、日銀に必要な金融緩和を行わせるプレッシャーとして利用すべきである。

 

この意味で、10月5日の日銀の政策決定と同時に為替介入を行わなかったのは、絶好の機会を逃したといえる。結果として為替レートは81円台に突入し、仙谷官房長官が限界ラインと語った82円台を突破した。

 

そして政府は10月8日に、「円高・デフレ対応のための緊急総合経済対策」を閣議決定した。中身をみると、財政拡大策がメインとなっているが、財政拡大策は総需要を増加させることを通じてデフレへの対処策にはなっても、円高対策ではないことに留意すべきだろう。

 

マンデル=フレミング・モデルの知見からも明らかなように、財政支出の拡大は金利の上昇を招き、ひいては円高につながる。原田泰氏が論じるように、当面の円高対策と円高後の対策を区別することが必要なのである(「円高対策なのか、円高後対策なのか」大和総研コラム2010年10月7日)。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.273 

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