ハイエクは何を目指したのか ―― 一般的ルールかさじ加減の判断か

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役所が民間企業のようになれという誤解

 

さて、ハイエクは世界の政界に自由主義を広める目的で、「モンペルラン協会」を作って活動しました。また、ロンドンに作った「経済問題研究所」は、サッチャー革命の理論的拠点となりました。こうして世界中で「小さな政府」を掲げる新自由主義路線が、ハイエク思想の名の下に推進されてきました。

 

このような流れの中で日本でも、競争や財政削減や民営化を推進する動きが支持を集めてきましたが、はたしてそれはもともとハイエクの言っていたような根拠で理解されたものだったでしょうか。

 

私にはハイエクとは正反対の考え方で推進されているように思えます。

 

ここはやはり橋下徹さんのやられていることが典型だと思いますが、ことあるごとに「民間では……」と言って、職員を威圧したり、校長や区長を民間から公募したりしています。カジノにしろ「大阪都」にしろ、あえてリスクのあることを断行することがいいことのような姿勢をとっています。一言で言えば、役所が民間企業のようになることが、自由主義的転換の中身であるように理解されているように思います。しかもかなりブラックなやつ……。民間企業のやるようなことに役所が手を出してはならないというのがハイエクの主張だったのに。

 

そういえば半年ほど前、新参の岩手県議の人が、県立病院で番号で呼ばれたことに腹を立てて支払いせずに帰ったとか、自分は1万5000円以上の検査料を支払う上得意客だからカウンターに呼ばず長椅子に座っている所に来いとかいう内容のことをブログに書いて、ブログが当人への非難で「大炎上」したという事件がありました。この県議は、このあと自殺したのですが、その後もネット掲示板では、それを嘲笑する、死体にむち打つような書き込みが相次いだそうで、まったく後味が悪い話です。

 

憶測でしかないのですが、私はこの人は、こんなふうなブログを書いたらネトウヨの人たちから拍手喝采されると期待していたのではないかと思います。ブログでは自信満々に、自分と病院とどっちが間違っていると思うかと読者に問いかけていたそうです。つまり、県立病院は民間企業のようになるべきであって、自分は県会議員として、率先してその接客の至らなさを正したのだというつもりだったのでしょう。それが、期待に反して自分の支持者になると思った人々から中傷の嵐を受けてショックを受けたのではないかと思います。

 

思い返せば、十数年前の小泉さんの「改革」もそうでしたけど、権力者が、民意の支持のもとに、ハイエクの最も嫌う、何らかの特定の目的を持った判断を行い、リスクをいとわずに断行することをよしとする姿勢が横行しているように思います。十数年前は、その結果もたらされた就職氷河期で、どれだけの若者の人生が狂ったか。リストラ横行してどれだけ自殺者が出たか。でもその判断をした当人たちは、何の責任もとりません。

 

さて次回は、70年代までの国家主導体制からの転換に直接影響を与えた、フリードマンや合理的期待形成学派などの反ケインズ派のマクロ経済学説を検討します。また、ほぼ同じ80年代以降、ミクロ経済学分野の教科書を書き換えていった「ゲーム理論」の進展についても見てみます。キーポイントはここでも、「予想は大事」です。

 

 

連載『リスク・責任・決定、そして自由!』

第一回:「『小さな政府』という誤解

第二回:「ソ連型システム崩壊から何を汲み取るか──コルナイの理論から

第三回:「ハイエクは何を目指したのか ―― 一般的ルールかさじ加減の判断か

第四回:「反ケインズ派マクロ経済学が着目したもの──フリードマンとルーカスと『予想』

第五回:「ゲーム理論による制度分析と「予想」

第六回:「なぜベーシックインカムは賛否両論を巻き起こすのか――「転換X」にのっとる政策その1

第七回:「ケインズ復権とインフレ目標政策──「転換X」にのっとる政策その2

第八回:「新スウェーデンモデルに見る協同組合と政府──「転換X」にのっとる政策その3

 

(本連載はPHP研究所より書籍化される予定です)

 

サムネイル「Friedrich August von Hayek 1981.jpg」LSE Library

http://commons.wikimedia.org/wiki/File:Friedrich_August_von_Hayek_1981.jpg

 

 

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