「日銀展望レポート」をどうみるか――低下した成長率と変わらぬ物価上昇率の組み合わせがもたらすもの

日本銀行は5月1日に「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)を公表した。展望レポートは、先行きの経済・物価見通しや上振れ・下振れ要因を点検し、そのもとでの金融政策運営の考え方を整理したものである。展望レポートは半年に1回公表され、合わせて中間評価が行われる。中間評価と展望レポートを合わせると、都合四半期に一回のペースで先行きの経済・物価見通しの評価がなされていることになる。

 

以下では今回公表された展望レポートの特徴について検討しつつ、日本銀行の金融政策の今後を考えることにしたい。

 

 

従来見通しをより明確化した物価上昇率

 

今回公表された展望レポートでは、新たに2016年度までの政策委員の大勢見通しが公表された(図1)。まず物価上昇率に関する見通しについてみていこう。

 

 

graph

 

 

図をみると、2014年度及び15年度の消費者物価指数(生鮮食品、消費税率引き上げの影響を除く)前年比の中央値は1.3%、1.9%と1月中間評価と比較して変更はない。そして16年度は2.1%となっている。日本銀行は、「見通し期間の中盤頃」にかけて、日銀が目標としている2%のインフレ目標を達成する可能性が高く、その後次第に2%のインフレ目標を安定的に持続する成長経路へと移行するとみているようである。

 

「見通し期間の中盤頃」という記述に関しては、従来黒田総裁が述べていた「2014年度の終わり頃から2015年度にかけて」という達成時期から後ずれしたのではないかとの質問が総裁記者会見でなされたが、こうした質問に対して黒田総裁は従来の見通しから変更がないと答えている[注]。物価に関しては1月中間評価から変化はなく、むしろ従来の見通しを改めて明確化したものと捉えることができるだろう。

 

[注] 消費者物価の先行き見通しについて「2%程度に達する可能性が高い」との記述に佐藤委員、木内委員は反対し、白井委員は「見通し期間の中盤頃」との記述を「見通し期間の終盤にかけて」にすべきとの案を出したが、いずれも否決されている。

 

 

前回見通しから低下した実質GDP成長率

 

次に実質GDP成長率の見通しについてみよう。2013年度と14年度の実質GDP成長率の中央値は1月中間評価と比較して、2013年度は2.7%から2.2%へ、14年度は1.4%から1.1%へと低下した。14年度の成長率については民間予測機関との違いがこれまで指摘されていたが、その差は縮まっている。なお2015年度の中央値は1.5%と変わらず、2016年度は1.3%である。

 

2013年度及び2014年度の実質GDP成長率の見通しが低下した理由について、展望レポートでは特に輸出の回復が遅れている点を指摘している。具体的には次の5つの要因が輸出の動きに影響しているとのことだ(図2)。それぞれについてみておこう。

 

 

graph2-2

 

 

輸出は海外の景気動向と、日本企業の行動変化、為替レートの3つの要因によって変化する。わが国の輸出動向をみると、対ASEAN向けの輸出が低調であり、日本経済と関係が深い新興国経済の景気動向が影響していると考えられる。そして世界的な投資の緩慢さは、近年比重が高まっているわが国の資本財輸出や部品輸出の下押しに影響している可能性がある。3点目の情報関連分野輸出財の競争力低下は、顕示比較優位指数や比較優位指数といった指標からも確かめることができる。

 

さらに4点目の海外生産移管の加速は、日本企業の行動変化が輸出に及ぼす影響である。展望レポートでは、海外生産の意思決定から現地設備・生産の立ち上がりまでに相応のラグがある事を指摘しつつ、現状はリーマン・ショック後の円高によって決定された海外生産が本格化している局面であって、輸出への下押し効果が大きいと述べている。最後の5点目は、消費税率の引き上げに伴う駆け込み需要の対応から、企業が輸出を抑制して国内向けの出荷を優先させた動きを指す。

 

以上の5つの原因のうちで、情報関連分野輸出財の競争力低下や海外生産移管の加速は輸出停滞の構造的要因とみなすことが可能であり、新興国経済の不振や世界的な投資活動の緩慢さ、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の対応といった要因は、世界経済の回復が進み、消費税率引き上げから一定期間が経過するにつれて剥落していくと考えられる。こうした認識から、輸出は今後緩やかに増加を続けると見込んでいるというわけだ。

 

輸入に関しては、情報関連分野輸出財の競争力低下や海外生産移管の加速や駆け込み需要の増加は輸入拡大として作用する。駆け込み需要が一巡すれば、駆け込み需要に伴う輸入増の影響は剥落すると考えられる。

 

展望レポートは2014年4月と15年10月の2回の消費税増税の影響を考慮している。日本銀行の見通しどおりに日本経済が推移するかどうかが注目点だ。

 

 

 

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