財務省から釜石市副市長へ

東日本大震災で被災した地域の自治体には、他の地域から来て、要職に就く人もいる。本記事で復興アリーナプロジェクトリーダーであり、経済学者の飯田泰之と対談をする岩手県釜石市副市長の嶋田賢和氏もそのひとりだ。財務省主計局で係長をしていた嶋田氏は、震災後に釜石市に入り、釜石市の復興に尽力をあげている。現地の人でないからこそ、敬遠されるイメージのある大手ショッピングモールの招致など、新しいアイディアを持ち込むことができる。震災以前からその土地が内包していた問題を、震災後いかに乗り越えるか。被災地から全国地方都市への応用可能性のあるアイディアがそこにある。(構成 /金子昂)

 

 

財務省から釜石市へ

 

飯田 復興アリーナでは、専門家やジャーナリスト、市民、そして行政の方々にお話を伺い、記録することで、震災を悲劇に終わらせず、次に起こる大規模な災害に備えていきたいと考えています。そこで本日は、岩手県釜石市副市長の嶋田賢和さんにお話を伺いたいと思います。

 

早速ですが、嶋田さんだけでなく陸前高田市副市長の久保田祟さん、大船渡市副市長の角田陽介さんなど、他の地域から来られて被災地の行政にたずさわっている人は多いですね。

 

嶋田さんは、生まれ育ちも大学も東京ですよね。財務省理論研修で担当した嶋田さんが釜石市の嶋田さんだということにはじめ気づきませんでした。何か釜石市に入られた理由があるのでしょうか?

 

嶋田 いえ、被災地のどこかに行きたいとお願いをしたら、人事が釜石市を探し出してくれたんです。だから人事から話があったときに、スマートフォンでwikipediaを見て、そういえばラグビーが有名だったなあと思いだしたくらい、釜石市のことは知りませんでした。

 

もともと財務省では3年目になると地方の国税局に出向するようになっているので、地方に出たことはあります。ただそのときは札幌に出向したので、地方の感じがあまりなかった。そういう意味では今回が初めての地方となりますね。

 

飯田 なるほど。陸前高田の久保田さんもボランティア先が陸前高田だっただけで同地とは縁はなかったそうです。嶋田さんは釜石市に入られる前は財務省でなにを担当されていたのですか。

 

嶋田 直前は主計局で係長をしていました。市役所には総合政策課の課長補佐として入ったものの、一か月くらいは皆さんぼくの扱いに困っていたみたいです。

 

飯田 まさに財務省メインストリームにいらしたんですね。あらゆる意味で東京っコなわけですが、やはり東京とは、地元の繋がりやコミュニティーのあり方も違うのでしょうか。

 

嶋田 違いますね。「前の○○部長の甥っ子の奥さんだから話を通せば大丈夫」みたいに、誰々の親戚というだけで話が通りやすくなっていてびっくりしました。

 

 

行政が直面している問題

 

飯田 被災地の行政は、いまどんな問題に直面していますか。

 

嶋田 公営住宅を早く整備して仮設住宅から移ってもらうことです。どこに行っても対応が遅いと怒られています。

 

飯田 初めて仮設住宅にお邪魔したとき、正直なところ「狭くはないんだな」と思いました。しかし被災地に暮らす方は狭いと驚かれている。被災者が贅沢を言っているのではなく、やはり東京よりも広い家に住んでいたため、狭い家に住みなれていないんですよね。慣習も感覚も違うということに留意しないといけない。だからこそ早く公営住宅を建てる必要があるのかなと。

 

嶋田 被災した各集落が希望する戸数は建てたいと思っているのですが、建設するにしても、平地がないのでなかなか苦労しています。

 

飯田 被災地にかぎらず、高齢化が進んでいる集落で公営住宅を建てても、10年後にその住宅に需要があるかというと、はっきりいってかなり難しい問題ではないでしょうか。

 

嶋田 中長期の維持管理の観点から作りすぎは避けたいとは思っています。たとえば被災した21の集落を統合して、北部3集落、中部3集落とわける方が、この先30年を考えると最適なのではないかとの議論はありますが、それは出来ません。ですから、自力再建を支援し、将来を見据え、公営住宅を作りすぎないようにしています。

 

 

シャッター通りの入れ替え

 

飯田 空き家、空き室は首都圏でも問題になっていますね。たとえば多摩ニュータウンや高島平団地はびっくりするくらい空き室が多い。

 

ぼくの父母が住んでいた埼玉県日高市は、ニュータウン開発によってできた町です。そして、70~80年生まれの子どもをもつ家庭が5000世帯ほど集まっています。かつては小中学校への収容に頭を悩ませていた街が、お年寄りばかりの街になってしまった。高齢者なので車の運転も難しくなっていますし、近くのスーパーも数年前に撤退してしまって、バスで買い物に行くしかなくなっている。買い物難民になっているんです。

 

東北は同様の問題の、ある意味、先進地域でした。そして震災によってその状況はさらに悪化した。現時点で、被災した商店街はどうされているんですか。

 

嶋田 経済産業省所管の中小企業基盤整備機構が用意してくれた仮設店舗で経営をしています。

 

飯田 商店街には、1階はお店で2階が住居、周辺には住宅が集まっていて、なんとなく人がいるというイメージがあります。大船渡と陸前高田の仮設店舗は何度か利用しましたが、仮設住宅から離れた場所にあったのでちょっと不便なんですよね。やはり現地の方も、商店街らしくなくなっていて違和感を覚えていると話されていて。釜石市はどのあたりに仮設店舗を建てられているのでしょうか。

 

嶋田 あちらこちらにありますね。事務所も含めると13ヵ所、200事業所ぐらい。

 

震災前から比較的住民の多い場所のシャッター通りをどうするかという問題と、30戸程度の小さな集落の買い物をどうするかというふたつの問題がありました。前者は工夫すればどうにかなると思っているのですが、後者はそもそも商圏として成立しないように思います。

 

集落間の移動手段を確保するサービスが出てくるかもしれないと楽観的に信じてもいるのですが、やはり行政がお金を出して、お店の人に出前をやってもらうなどの対応が必要になってくるでしょうね。

 

飯田 ぼくは逆の意見を持っています。誤解を恐れずに言うと、30戸程度の集落の小商店はもともと商売として成り立っていない。これは巡回買い物車の設定など行政サービスでの対応が必要なんじゃないかと。

 

一方で、シャッター通りは行政が手を加えてどうにかなる問題ではないという点でより深刻かもしれない。おそらく震災前からシャッター通りだったのではないでしょうか。

 

嶋田 震災前に来たことがないのですが、典型的なシャッター通りだったと聞いています。

 

飯田 少し前に滋賀県彦根市に行ってきました。彦根市の商店街は典型的なシャッター商店街で、ほとんどのお店のシャッターが下りている。開いているお店も、入るのに躊躇するくらい、やっているかどうかわからないようなお店ばかりでした。気になって「みんなどこで買い物しているんですか」と聞いたところ、長浜のショッピングモールに行っているらしい。

 

嶋田 釜石市も同じ状況です。土日には盛岡のイオンに買い物に行くんです。震災前の人口が3万9000人で1万6000世帯くらい。土日は一日に2000台弱の自動車が買い物に行くようです。すごい数ですよね。

 

じつはいま、イオンやユニクロを中心市街地に立地させる計画があります。買い物客を呼び込みつつ、やる気のあるお店にはテナントを用意して、初期投資を軽くして応援していく。そうやって少しずつシャッター通りのお店の組み替えをやりたいと思っています。

 

飯田 イオン誘致は面白いですね。

 

日本中の商店街の正しい選択肢は、イオンがあっても成り立つ商店街にすることだと思います。イオンができればイオンと同じものは売れないことがわかるのでいいかもしれない。それに、いま商店街が抱えている最大の問題は足を運んでもらえないことだと思いますから、大型店でお客さんを寄せて、その周辺にお店を立てて足を運んでもらうようにできたらいいですね。

 

嶋田 やはりイオンの話が持ち上がったとき、一部の人から「商店街を潰す気か」と言われてしまいました。でも他の町に大型店が開店して買い物客が流れていってしまったらどうしようもありません。ゲーム理論的には解は明らかで、できるだけ早く開店しないといけないんです。隣町の人がユニクロに来て、釜石ラーメンを食べて、イオンで買い物をして帰る。人がうまく流れるように工夫して、再生したいと思うんですよね。

 

そもそも努力していない店が繁盛しないのは仕方ない面もあります。全国のシャッター通りでも頑張っている店はちゃんとお客さんが来ています。しがない布団屋でも、おばちゃんに営業をかけまくってお客さんを確保している。なかには、ボランティアが依頼されて作業をしているのに、「店の近くでどうして勝手に草を刈っているんだ」なんて言ってしまう人もいるようですが、お茶でもだしてお店に呼び込めばいい。ドアを開けても「いらっしゃい」すら言えないようでは、商売は続かないですよね。

 

飯田 そうですね。地方小都市に行くと「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」がない店が多いことに驚きます。その意味では、震災以降の沿岸部は「外の人」に慣れたことで、サービスへの意識の変化が起きつつある様にも感じます。

 

 

 

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