福島第一原発の汚染水浄化能力はどの程度か?

東京電力福島第一原子力発電所には、事故後、放射性物質を高濃度に含んだ「汚染水」が貯まっています。この汚染水に対しては、多核種除去設備(ALPS)と呼ばれる設備で、放射性物質を取り除く浄化処理が行われています。汚染水には63種類の放射性物質が含まれています。ALPSには、トリチウム以外の62種類を除去する性能があります。具体的に、ALPSにはどの程度の浄化能力があるのでしょうか。

 

東京電力は、ALPSの浄化能力に関するデータを公開しています。データは大量にあるため、ここではもっとも代表的なデータに絞って確認します。

 

汚染水にもっとも多く含まれる放射性物質はセシウム(Cs-137、半減期約30年)です。ALPSによる浄化の前に、「サリー」と「キュリオン」という別の浄化設備を通して、一定量のセシウム、ストロンチウムを取り除きます。以前はセシウムだけを除去していましたが、その後、セシウムとストロンチウムを除去できるように改良されました。その結果、ALPSで処理する直前の水(ストロンチウム処理水)では、セシウムとストロンチウムが元の汚染水よりもおおよそ1000分の1程度になっています。しかし、元の量が一番多いことから、ストロンチウム処理水には相当程度のセシウム、ストロンチウムが残っています。

 

ALPSにはおおよそ1億分の1程度まで放射能濃度を低減する能力があります。東京電力の公表データによると、ストロンチウム(Sr-90、半減期約29年)の濃度が1億2千万ベクレル/リットルの汚染水をALPSで浄化すると、2.6ベクレル/リットルまで低減しました。関係法令で、海洋放出が認められる濃度(「告示濃度限度」)が定められています。Sr-90の告示濃度限度は30ベクレル/リットルです。ALPSはその約10分の1の2.6ベクレル/リットルまで濃度を下げることができます。このことからも、ALPSには十分な浄化能力があると言えるでしょう。

 

ただし、ALPSの浄化能力は、処理速度やフィルターや吸着塔の性能に依存します。つまり、一律にずっと同じ性能を発揮するものではありません。ALPSで使用されるフィルターや吸着塔について理解するためには、家庭で使用する浄水器をイメージしてみましょう。家庭用の浄水器も、フィルターを使い続けると性能が落ち、交換しなければならない時期がきます。ALPSでも似たようなことが起きます。

 

さて、福島第一原発構内のタンクに貯まっているALPS処理水には、トリチウム以外の放射性物質も一定量含まれています。ALPSには十分な浄化能力があるにもかかわらず、トリチウム以外の放射性物質がなぜ含まれているのでしょうか。

 

ALPSが設置されてから、原子力規制委員会から、「タンクから出る放射線が福島第一原発内外を区切る『敷地境界』に与える影響を、なるべく早く低減するように」と求められました。そこで、福島第一原発では、ALPSや他の浄化装置で速度を上げて処理を急ぎました。その結果、敷地境界の放射線量は低減できましたが、一部の放射性物質は告示濃度限度を超えたまま残されています。

 

これまで、ALPSについて「トリチウム以外の放射性物質を取り除く能力がある」と説明されてきたために、ALPS処理水にトリチウム以外の放射性物質が含まれている状況について、ALPS浄化能力を疑問視する声が出ています。しかし、ALPSそのものには十分な浄化能力があります。

 

参考リンク

・多核種除去設備出口の放射能濃度(東京電力)

http://www.tepco.co.jp/decommission/progress/watertreatment/images/190630exit.pdf

 

・安全・安心を第一に取り組む、福島の“汚染水”対策④放射性物質の規制基準はどうなっているの?(経済産業省資源エネルギー庁)

https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/osensuitaisaku04.html

 

 

東京電力ホームページより

 

 

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