戦場からの集団的自衛権入門――『日本人は人を殺しに行くのか』(他)

『ヌードと愛国』(講談社現代新書)/池田玲子

 

探偵はかっこいい。灰色の頭脳や、太いパイプや、麻酔針のついた時計を駆使しながら、謎を解いていく。そんな探偵の姿にあこがれを持っている人も多いはずだ。

 

今回紹介するのも、そんな探偵ものの一つ。だが、この探偵が捜査するは「ヌード」である。1900年代から、1970年代に創られた7つのヌードの謎をとき、近現代史がまとった「日本」を丸裸にしていく。

 

第一章、デッサン館の秘密では、長沼智恵子の「人物デッサン」を巡った謎解きだ。長沼智恵子という名前に聞き覚えはないかもしれない方も、高村光太郎『智恵子抄』の智恵子さんだ、と言われたらピンとくるであろう。

 

テーマとなる作品は、若き日に画家を目指していた彼女の、修業時代の男性ヌードデッサン。

 

当時は、男性器をぼかして描くことが習慣だったのだが、彼女のデッサンのそれは「おかしいほどリアル」に描いてあると、同じ研究所で学んでいた男子研究生から言及されることになる。この話は、彼女の性的な趣向にまで結びつけられ、後々に語り継がれるスキャンダラスなエピソードになった。

 

しかし、そのデッサンが発見され、買い求めた探偵(著者)は、智恵子の描いた股間がマイルドな描写であったことに驚く。当時、彼女が所属していた太平洋画会研究所でデッサン指導をしていた中村不折は、よりリアルな股間のデッサンを描いているし、それは研究所の壁にも飾られていたはずだ。

 

なのになぜ、智恵子のデッサンだけが「おかしいほどリアル」と言い伝えられてきたのか。そのなぞを紐解くと、国家イデオロギーを背景とした、裸体群像表現による歴史画の封印と、西洋の美学体系を丸のみせざるをえなかった、日本近代の矛盾が見えてくる……。

 

心踊る、7つのヌードに隠された謎。ぜひ手に取って探偵気分を味わってもらいたい。芸術の秋に、おススメの一冊。(評者・山本菜々子)

 

ヌードと愛国 (講談社現代新書)

著者/訳者:池川 玲子

出版社:講談社( 2014-10-17 )

定価:

Amazon価格:¥ 864

新書 ( 276 ページ )

ISBN-10 : 4062882841

ISBN-13 : 9784062882842


 

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