感情と合理性と政治学――『感情の政治学』(他)

『感情の政治学』(講談社選書メチエ)/吉田徹

 

有権者の一人ひとりが、それぞれ情報を集め、投票先を主体的に、合理的に選択すれば、政治はより良くなっていく――本書はこれを幻想と喝破し、むしろ人びとが合理的であればあるほど、政治は自らが望むものから遠ざかってしまうことを説く。そして、政治学がこれまでおろそかにしてきた人間の非合理性、「感情」に目を向けて、政治を組み立て直していく。

 

政治学はこれまで「人間の合理的行為の集積として政治は構築されるべき」(方法論的個人主義)と「合理的な政治があればより良い結果がもたらされる」(合理的選択論)という、二つの前提のもとに進められてきた。だが合理性のみをもって政治を語ることは可能なのだろうか。

 

例えば、すでに広く知られているように、選挙の際に有権者がもつ一票は、合理性を突き詰めると、わざわざ投票所まで足を運んで投じるほどの利益は限りなくゼロに近い。投票日前の世論調査によって、選挙前におおよその結果が見えていることを思い浮かべれば理解することはたやすいように、自らの一票によって選挙の結果が左右することは、ほぼありえないからだ。

 

「合理的な有権者」は、投票行動を行わない。それにもかかわらず、人が投票に行くのは、なぜなのだろうか。そもそも、なぜ人は政治に関心をもつ、参加したいと考えるのか――。

 

本書は「感情」や「関係性」をキーワードに、政治にまつわる理論や思想などありとあらゆる領域を縦横無尽に駆け巡る。そうして浮き上がってくるのは、決して方法論的個人主義や合理的選択では説明することのできない人びとの行動であり、政治における感情や関係性の重要さである。それは現代の政治を分析するだけでなく、私たちの政治に対する態度を改めさせるものかもしれない。従来の政治学に対する挑戦を試みた刺激的でダイナミックな一冊である。(評者・金子昂)

 

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