2014.11.22

情熱という種火に、経営と科学という薪をくべ続ける――『小さくて強い農業をつくる』(他)

今週のオススメ本 / シノドス編集部

情報 #久松達央#小さくて強い農業をつくる#「感染症パニック」を防げ!-リスク・コミュニケ#岩田健太郎

『小さくて強い農業をつくる』(晶文社)/久松達央

本書は、自称・ガッツもなくセンスもない青年が、いかにゼロから「小さくて強い」農業をつくったかを記録した一種の成長物語である。

自由を志向し思いばかり先走った、はっきりいってめんどうな若者が、頭と、そして文字通り地に足をつけて成功を収めていく姿は、ひとつの物語としてたいへん面白い。その上、本書は成長物語に留まらず、社会で働くために必要な振る舞いや考え方を、説得力のあるかたちで教えてくれるビジネス書でもある。しかも、単に「大人」になるだけではない。青年は、自分のやりたいことをやりたいかたちで実行し、成功を収めてしまう。

筆者の久松氏は「一流大学」の慶應義塾大学経済学部を卒業した後、「一流企業」の帝人に就職する。上司に恵まれ、人と関わりながら社会性を身につけていく一方で、毎日同じメンバーで徒党を組んで昼飯を買いに行く様子を「一人で飯も食えないのか」とバカにしていた青年。彼は会社生活への違和感を拭えず、次第に関心を趣味のアウトドアへと移し、農業と出会い、会社を辞める。

当時を振り返り彼はいう。「農業をしたかったのではなく「田舎暮らし」がしたかっただけだったのかもしれない」。自分に向き合うことなく、就農への憧ればかりが加速させた青年は、研修先の農業法人でフォークリフトも使えない、「役立たず」の自分に気が付く。そして押し寄せる後悔の中で、農業法人もたった一年で辞めて、独立する(おそろしい!)。

農業のセンスもなく、ガッツもないはっきりいって「向いていない」青年。「もう諦めなよ……」と誰もが思うに違いない中、彼は諦めない。頭でっかちな自分だからこそ、これまで農家が無意識に体得してきたものを、言葉にして、論理として身につけるしかないと自らの特性を活かす方向にシフトし、不器用ながら、地道に成功を収めていく。

農家出身でもなく、就農10年以内の農業者の7割以上が生計を成り立たせられない中で、小さくても、強い農業運営を成り立たせた青年。彼の成長と成功から学ぶものは、農業に限らず、ビジネスに限らず、これからの生き方として、ひとつの指標になるのかもしれない。「情熱という種火に、経営と科学という薪をくべ続けることが必要です」。(評者・金子昂)

『「感染症パニック」を防げ! リスク・コミュニケーション入門』(光文社新書)/岩田健太郎

感染症には独特の恐怖があります。その大きな理由の一つは目に見えないからでしょう。ライオンやワニに襲われた場合、私たちは「ああ、これはピンチだ!」とすぐ感じることができます。しかし、目に見えない微生物を相手にしてしまうと、そう簡単に判断することはできません。

その得体のしれない恐怖感は、時に過剰なパニックを生むこともあります。一方で、まぁ大丈夫だろうと、リスクに対して不感症になってしまうことも。そんな時、専門家の言葉は大きな意味を持ちます。

では、専門家は、感染症にまつわるリスクをどのように検討し、「どれくらい恐れろ」と適切なリスクを一般の人に伝えればいいのでしょうか。今回紹介する『「感染症パニック」を防げ』は、「感染症界のエース」との呼び声高い医師・岩田健太郎氏が「リスク・コミュニケーション」の見地から、その難問に答えようと筆を取ったものです。

専門家向けの本と割り切って、手に取らないのは勿体ないほど、本書はリスクを考える上での様々な示唆に溢れています。たとえば、感染症のリスクを見極める場合、「起きた時の影響」と「起きる可能性」を分ける必要性があります。

たとえば、エボラ出血熱は致死率が60~90%の起きてしまうと大変な病気です。しかし、エボラ・ウイルスの感染は体液との接触がメインのため、インフルエンザなどと比べはるかに感染率は低いのです。

この場合、この両者を混同してしまい、「エボラは罹ったら大変な病気だから、大流行する」と捉えてしまうのはリスクの見極めを失敗しています。こう書くと当たり前のことのように思えますが、リスクをごちゃごちゃにして「わー!大変だ!」と必要以上に恐がってしまうことは、感染症だけではなく様々な場面で起こっているはずです。

本書では、実際の感染症を解説し「どれくらい恐れるのか」を検証するだけではなく、「どのように伝えるのか」のノウハウも詰め込まれています。感染症の専門家かつ、前線で対策にあたる医師だから書けたであろう注目の一冊です。(評者・山本菜々子)

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シノドス編集部

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