「可哀相なひと」と「困ってるひと」はイコールではない

お互いの著書に信頼を寄せる、ふたりの作家の初対面が実現しました。かたや、数々の賞を受賞し、現在も精力的に執筆をつづける文学界の巨頭、かたや、今年6月に上梓したデビュー作『困ってるひと』が話題の新人作家。世代による世界観の違い、震災のこと、文学のこと……。縦横無尽に語りました。

 

 

「福島」の代弁者にならない

 

重松 『困ってるひと』の発売からまだ四か月も経っていないけど、毎日がすごく忙しくなったでしょ。

 

大野 そうですね。ポプラビーチというウェブサイトで連載していたときは、二週間に一回締め切りというペースで必死に八か月間つづけていたので、そのときは書くのが大変でした。本が出てからは取材の対応であっという間に時がすぎたというのが正直なところです。

 

重松 人と会うことがすごく増えたんじゃないかなって。「不幸にして」と言うべきだと思うんですけど、難病女子であることに加えて、福島出身でもあるから、大野さんへの取材のフェーズがたくさんできましたよね。「難病と福祉」と「福島」では、取材のポイントとして、どちらが大きいですか?

 

大野 「福島」で取材のお話を頂いたり、福島のことを書いてくださいと言われたときは、基本的にはお受けしないようにしてきました。

 

重松 なるほどなるほど。

 

大野 わたしには代弁する資格はないと思っています。父母も含め、親戚の多くが福島で暮らしていて、原発の作業員もいます。原発避難民の親戚もたくさんいます。農家の親戚もいます。3・11のすぐ後に「テキストの担い手として、福島の人に後ろ指さされるようなことだけはしてはならない」と、福島出身という立場である自分を戒めました。

 

重松 ぼくも、週刊誌のフリーライターをやっているのでわかるんだけど、事故が起きるとまず、その土地の出身者リストをつくるんだよね。いまの言葉を借りれば、当事者の代弁をしてもらおうという意識で、取材やインタビューに出かけていく。当然、代弁者になって語る人もいれば、語らない人もいます。

 

大野 それは当然いるでしょうね。

 

重松 人それぞれのスタンスによりますよね。マスコミがまず「レッテル貼り」をして、『困ってるひと』で話題の大野さんが福島出身だとわかって飛びつく様子が、目に浮かぶような気がした。これに対して、いまの「戒めのデリカシー」っていうのが、大野さんにストレスを生むんじゃないかなーと陰ながら心配もしていたんですよ。

 

大野 わたし自身のストレスというのはあまり意識していないんですけど、この前、福島県内で一番大きな書店さんのイベントに呼んでいただいたんです。被災後はじめて、福島に入りました。この身体ですから、日帰り搬送体制で、それ自体非常に大変なことでしたが行って本当によかったと思っています。両親もこっそりと郡山市まで車で出てきて、3・11後にはじめて直接顔を見た。

 

書店の一角で三十分話しただけでしたが。それはともかく、郡山市のその書店で、福島で日常を暮らす人たちにお会いした。そこで、東京の人こそ「苦しい」のかなと感じました。福島で少しずつ日常が壊れて、土地が消えようとしていることは、もちろんわかっているんだけども、放射線やこれからどうやって生きていくかという事実から少し切り離した心情的な話では、東京の人のほうがストレスを感じ、怯えている印象があるんですよね。

 

重松 うん。いまの東京の人たちは、たとえば「引越しをする人もいるし、しない人もいる」「しようと思えばできる」という選択肢のある状況に、かえって悩まされて、苦しめられている気がする。開き直れなくて右往左往しちゃう。

 

大野 原発にかぎらないですけど、逃げられるところから見える景色と、本当に逃げられないところから見える景色はぜんぜん違う。

 

重松 そうですね。「ここでやるしかないんだ」って開き直った人は、やっぱり強いです。当然シビアな状況はずっとつづいているんだけど、「ここで生きるしかないんだ」って腹をくくれるんですよね。

 

大野 東京のほうが浮き足立っていると感じた。それは東京と福島を単純に比較したり、正しいか悪いかの次元で考えられることではない。価値概念やイデオロギーの問題ではないんです。ただの東京の今日の「現実」なんです。

 

重松 浮き足立つと人は短絡的になるんですよね。さっきのレッテル貼りもそう。そうやって短絡的に結びつけることは、この半年間すごく多かったと思うんです。だから、大野さんにも、無神経な質問とか、すごく多かったんじゃないのかな、と。

 

大野 そうですね。「福島枠」にプラスして、「弱者枠」でしょうか。

 

 

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