特集:自立的思考のために

1.飯田泰之氏インタビュー「経済学の基礎で社会を読み解け!――マクロ経済の思考法」

 

金融緩和、財政出動、リフレ政策……。さまざまな経済用語が飛び交い、政策立案が進んでいる。社会を理解し、適切な方向性を見極めるためには、経済の知識が欠かせない。とはいえ難解な経済理論。一体どうしたらいいのやら。今回は、編集部きっての経済音痴増田が、飯田泰之先生に経済学的思考方をインストールしてもらうべく、インタビューに臨みました。(聞き手・構成/増田穂)

 

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◇思考法としての経済学

 

――学位が国際政治学なので、人文系の知識はある程度あるのですが、経済がさっぱりで……。お恥ずかしながら先生のご著書『マクロ経済の核心』も「?」だらけでした……。

 

あはは。それは僕の力不足でした。ただ、この本は教科書として使って欲しいという意図もあったので、「サラっとわかる」という書き方はしていません。ある程度は苦労しながら読んで欲しい本ですね。

 

 

――そうなんですか?

 

そうですね。「とにかくわかりやすく」という本は9月に『経済学講義』(ちくま新書)が出版されますので、そちらに当たっていただければと。立て続けのテキストの出版ですが、元々僕は本を書くときに、あまり時論そのものを書くことはないんです。金融緩和の是非とか、財政拡大の賛否とか、今まさに行われている政策論争に関する一般書はたくさんありますよね。でも、そういう時論に関する一般書を書くと、元から自分と同じ意見の人からはすごく高評価されるけど、反対の意見の人からはごみくずみたいに言われる。解説書・一般書で自身の意見が変わることは少ないと思うんです。それは論文やもう少し専門的な本を通じた論争の中でしか出来ないことだと思います。

 

それに、人って自分の頭で考えて到達したことしか信じないんじゃないかな。逆に自分で考えた結論じゃないのに信じる人って、ちょっと怪しいですよね。「安倍政権がやっていることだから正しい」とか、逆に「安倍政権がやっていることだから間違いだ」とか、2種類の議論にしかならない人が少なくないじゃないですか。それじゃあ意味ない。だから、特定の政策、特にオンタイムな政策について、一般書で意見表明したり、解説するよりも別の仕事が僕にとっての比較優位だと思うんです。

 

 

――それでは、本を書かれる時は何を重視して書いてらっしゃるのですか。

 

考え方の筋道を知ってもらうことを重視しています。経済政策も最終的には価値観に根差すものなので、究極的なことを言えば価値観に基づく意見の相違ということになり、合意が難しいことはあります。しかし「考え方」のツールになるものを学ぶことで、その後なんとなく自分で状況を整理して、結論に行きつくことができるようになります。そして、そうして得た結論こそが、自分にとって、よって立つことのできる主張や議論なのではなないでしょうか。

 

だから、思考法とか入門書とか、考え方の本を書くほうが自分にあっている気がするんですよね。「思考法」「思考の型」という意味でも、ミクロ経済学やマクロ経済学の基礎は知っておくといいと思います。経済理論がわかるようになると、話している相手の意見がどこから演繹されているか、ある程度わかるようになります。

 

例えば、「とにかく失業の抑制が他の全ての問題に優先する」という価値観の持ち主がマクロ経済学を学べば、インフレ政策を支持する方向に意見がよっていくと思います。一方で資産価格の安定を重要視する人は、経済的な保守主義、つまり状況に急激な変化をもたらすものは望ましくないという立場に立つことになる。この場合、多少の失業率は我慢しても、インフレや資産価格変動リスクを抑制しようと考えるでしょう。

 

このように、その人の主張から、その人の価値観も見えるようになってきます。これが理論モデルを学ぶことの非常に大きな意義ではないかと考えています。

 

 

――今回の書籍もそうした理論モデルを提示することを意識して書かれたんですね。

 

ええ。特に今回の本で重視したのは、マクロ経済学の話を長期・中期・短期それぞれがやんわりとリンクした形で解説することです。従来型のマクロ経済学の教科書って、効率よく試験対策ができるようになっている反面、個々の理論のつながりを無視した順番で書かれていることが多いんですよ。正直その方が目先のテストには役に立ちますし、一般の読者にとってもわかった気になりやすい分有難いのかもしれないけど、結果として思考法としては役に立たないものになってしまう。

 

 

◇乖離する2つの経済理論

 

――というと、今回の書籍の構成は従来型の教科書の構成とは異なっているんですね。

 

そうです。一般の参考書でも、初級・中級・上級みたいに、初めにわかりやすい内容を解説して、徐々に難易度を上げていく構成の物がありますよね。今回の本では、そうした構成はしたくありませんでした。

 

この本が想定している読者は2パターンです。第一は、講義の教科書として本書を使う学生。教師がガイド役となって学生に教える際の素材として用いるというパターン。

 

もうひとつは、ある程度の理解力や経験のある、場合によっては他分野の専門家という人たちです。こうしたある程度のバックグラウンドがある人にとっては、試験対策式の構成は必ずしもわかりやすくない。理論的なつながりに言及がないので、ばらばらに経済についての知識を押さえていくことになってしまいます。それでは最後に全体像がつかめません。結果として、公務員試験が終わったら全部忘れてしまうようなことになってしまう。それでは自分の思考の中の実にはなりません。

 

今回の本は、むしろ理論上必要性のある順に説明していきました。その方が理論としてつながるし、読み終わった時に一つの理論モデルとして自分の思考の実になると思ったからです。……つづきはα-Synodos vol.226+227で!

 

 

 

2.角間惇一郎氏インタビュー「『風俗嬢かわいそう』で終わらせない――“孤立”に歯止めをかけるセカンドキャリア支援」

 

「風俗嬢を続けているが、なんとなく将来が不安」「昼の仕事に転職したいが、どうすればいいのか分からない」。一般社団法人「GrowAsPeople」には、そんな女性たちからの相談が日々寄せられている。風俗業界の現在、そして風俗嬢の女性が抱える本当の問題とは何なのか。今年4月に『風俗嬢の見えない孤立』(光文社新書)を上梓された、代表理事の角間惇一郎氏にインタビューを行った。(聞き手・構成/大谷佳名)

 

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◇風俗嬢が「孤立」の問題に直面するとき

 

――本のタイトルにある「孤立」とはどのような意味なのでしょうか。

 

風俗で働く女性にもいろいろな人がいますが、多くの方は自分の立場を明かすことに抵抗感を持っています。偏見が強い職業なので、「どうしてそんな仕事をしているんだ」と問い詰められることも少なくないからです。何気ない会話の中でも、「普段何をしているの?」「お仕事は?」と聞かれるたびに口ごもらなければならない。そして何か困ったことが起きても、立場を理解して相談に乗ってくれる相手がなかなかいない。こうした状況は彼女たちにとって非常にストレスです。プライベートでも引きこもりがちになってしまい、どんどん孤立へと追いやられていきます。僕らの基本的な理念は、この孤立の問題を少しでも解決することです。

 

 

――「GrowAsPeople」(以下、「GAP」)では、昼の仕事への転職を目指す風俗嬢の方のセカンドキャリア支援を行われていますが、なぜ「セカンドキャリア」に焦点を当てられているのですか。

 

そもそも「風俗嬢は何に困っているのか」と考えると、「みんなしんどい思いをしながら働いている」「貧困や悲しい過去が原因で、やむを得ず風俗嬢になった」というイメージが一般的かと思います。あるいは、風俗嬢になった時点で「ゲームオーバー」というように、夜の世界の「入口」を問題としがちです。しかし実際に彼女たちに話を聞いてみると、大半は風俗で働いていること自体に苦しんでいるわけではありません。

 

本当に困るのは、「変わりたい」と思っても外部に頼れる人が誰もいないと気づいたときです。とくに夜の世界からの「引退」は誰もが直面する問題です。風俗嬢は何より体力がものを言う仕事ですので、大抵の人は体力の衰えとともに収入が減り、40歳前後で引退を余儀なくされます。僕らはこれを「40歳の壁」と呼んでいます。また、風俗の仕事を本業としている方は「履歴書の空欄を埋められない」という問題もある。そうした中で昼の世界への転職を成し遂げるためには、彼女たちの立場に理解を示してくれる協力者の存在が不可欠です。

 

 

◇夜の世界から見える“労働者のニーズ”

 

――具体的にはどのようにセカンドキャリアの支援を行われているのですか。

 

僕らのところに相談に来る方の多くは、自分で自由に使える時間が何日あるのかきちんと把握していなかったりします。まずはそれを把握させてあげることから始めます。はじめに自分が必要な金額が一月に何日出勤すれば稼げるのかを割り出していく。そうすれば、だいたい残りの自由に使える時間がわかってくるので、その中で何をやりたいか本人の希望を聞いていきます。

 

次に、GAPが提携しているNPOや企業でインターンをしてもらいます。そこで履歴書に書ける職歴や経験を積みながら、時間をかけて昼の世界に移行していく。夜の仕事と並行しながら、少しずつ昼の仕事に慣れていくことがポイントです。いきなり昼の仕事に転職してしまうと、かなりの確率で夜の仕事に戻ってしまうからです。……つづきはα-Synodos vol.226+227で!

 

荻上チキ責任編集“α-Synodos”vol.226+227

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2017.08.020 vol.226+227 特集:自立的思考のために

 

1.飯田泰之氏インタビュー「経済学の基礎で社会を読み解け!――マクロ経済の思考法」

2.角間淳一郎氏インタビュー「『風俗嬢かわいそう』で終わらせない――“孤立”に歯止めをかけるセカンドキャリア支援」

3.【今月のポジ出し!】吉田徹「形骸化する地方自治――『くじ引き民主主義』を導入せよ!」

4.藤代裕之氏インタビュー「フェイクニュースが蔓延するメディア構造はいかにして生まれたのか」

5.塚越健司 学びなおしの5冊 <統治>

6.齋藤直子(絵)×岸政彦(文)「Yeah! めっちゃ平日」第八回

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

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 セミナー参加者募集中!「スノーデンと監視社会の現在」塚越健司

 

 

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vol.231 ひとりひとりが生きやすい社会へ 

・森山至貴氏インタビュー「セクシュアルマイノリティの多様性を理解するために」

・【障害児教育 Q&A】畠山勝太(解説)「途上国における障害児教育とインクルーシブ教育」

・【あの事件・あの出来事を振り返る】矢嶋桃子 「草の根の市民活動「タイガーマスク運動」は社会に何をもたらしたのか」

・成原慧「学び直しの5冊 <プライバシー>」

 

vol.230 日常の語りに耳を澄ます 

・荒井浩道氏インタビュー「隠された物語を紡ぎだす――『支援しない支援』としてのナラティヴ・アプローチ」

・【アメリカ白人至上主義 Q&A】浜本隆三(解説)「白人至上主義と秘密結社――K.K.K.の盛衰にみるトランプ現象」

・【今月のポジ出し!】吉川浩満「フィルターバブルを破る一番簡単な方法」

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.232 特集:芸術へいざなう

・吉澤弥生氏インタビュー「人をつなぐ芸術――その社会的評価を再考する」

・【現代演劇 Q&A】長瀬千雅(解説)「時代を捕まえるダイナミクス――現代演劇事始め」

・【今月のポジ出し!】橋本努「タックス・ヘイブン改革 香港やシンガポールにも圧力を」

・増田穂「『知見』が有効活用されるために」