法の知識があなたを守る――ブラックな職場環境をホワイトにするために

はじめに

 

皆様こんにちは。

 

今回の巻頭インタビューは、労働問題を専門に扱われている笹山尚人弁護士です。笹山氏は昨年末、光文社新書から『ブラック職場――過ちはなぜ繰り返されるのか?』をご出版されています。今回は、ご著書の内容を踏まえ、ホワイトな職場づくりに必要なことを伺ってきました。

 

第2稿は、イギリス現代史がご専門の木畑洋一氏に「チャーチルとイギリス」についてご執筆いただきました。今なおイギリスで絶大な人気を誇るチャーチル。来月末には、映画も公開されます。チャーチルはなぜここまで人気があるのか。その不遇の時代も振り返りつつ、真相に迫ります。

 

続いては、明治大学准教授の高山裕二氏からのご寄稿です。近年は「リベラルの再生」といった呼びかけも聞かれますが、一方で日本においてリベラルの意味は錯綜し、リベラルに対しての懐疑的な様相も見られます。改めて、リベラルの意味を再考し、日本におけるリベラルのあり方を見つめなおします。

 

最後は、連載「学び直しの5冊」です。今回のテーマは「生命倫理」です。

 

以下に巻頭インタビューの冒頭を転載しております。

ぜひご覧ください。

 

 

笹山尚人氏インタビュー「法の知識があなたを守る――ブラックな職場環境をホワイトにするために」

 

過労死、セクハラ、雇止め――。雇用環境をめぐる問題は後を絶たない。一方、労働法は、さまざまな形で被雇用者たちの保護を訴えている。労働法は、なぜ機能しないのか。ブラックな職場環境をホワイトに改善していくためには。東京法律事務所弁護士で、『ブラック職場~過ちはなぜ繰り返されるのか?~』(光文社新書)著者の笹山尚人氏に伺った。(聞き手・構成/増田穂)

 

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◇広まる労働法違反の雇用環境

 

――改めて、ブラック職場とはどのようなものか、簡単にご説明いただけますでしょうか。

 

ブラック職場については、私も所属するブラック企業被害対策弁護団が定義をしています。広義と狭義の定義がありますが、広義の方がしっくりくると思います。まとめると、労働法に違反するような実態が広範囲に存在する職場のことです。

 

典型的なのは、労働法関連法規に違反しているものですね。例えば賃金の未払いや長時間労働、雇い止め、解雇といった問題です。解雇に関しては、最近はストレートに解雇を通告する企業は減ってきているのか、相談件数は減ってきています。今多いのは、労働者から退職することを強要するパターンです。その他にも、年次有給休暇を認めない、社会保険関係の保障がない、セクハラ、パワハラ、マタハラなどがあります。

 

 

――長時間労働やハラスメントの問題、賃金の未払いなどは、社会的にも大きく取り上げられ「ブラック職場」と言われて連想しやすいと思います。一方で雇い止めや解雇の問題は、「ブラック職場」という言葉と比較的結びつきが弱い印象があります。これらはどういった問題なのでしょうか。

 

雇い止めに典型的ですが、職場の実態として非正規雇用の労働者を中心的な労働力ととらえて雇用しているにも関わらず、形式上有期雇用になっているので、使用者側に非常に都合よく雇用を止めてしまうパターン。これは昔からあるのですが、最近とても多いと感じています。今、職場において、非正規雇用労働者の皆さんの役割は高まっています。こうした人たちが、ずっと職場を回してきたし、本人たちにもその自覚があります。それにも関わらず、形式的に期間がきたからと強制的に雇用をストップしてしまう。昔からあるだけによくあることになってしまい、見えにくいのかもしれませんが、私は大きな問題だと思っています。

 

解雇も、それこそ昔から無数に例がありますが、特徴的なもので、IBMで問題になった「ロックアウト解雇」があります。これは正社員の場合です。1、2時間の間に荷物まとめて出ていけ、という乱暴な解雇の事例でした。そのほかにも労働者の能力査定を企業側が一方的に査定して正当化理由を作ったうえで解雇するPIPを用いる解雇の手法も多くなってきています。

 

日本の労働法は、本来簡単に労働者を解雇できないようになっています。それは、入社試験のときに人選を非常に丁寧に吟味しているからです。吟味して厳選して入れたからこそ、雇用した人間に責任を持ちなさい、という思想があります。

 

雇用したある人物がなかなか期待した働きをしないなら、ポジションを変えてみるとか、周囲の人間関係を変えてみるとか、労働者が能力を発揮できるように、解雇より前にいろいろと対策を取ることが求められています。そこが徹底されていない企業が増えてきているのです。「こいつは使えない」と思ったら、その瞬間に追い出しにかかる。そういうパターンが多く、そこにブラックさを感じるのです。

 

 

――新年度以降の法律では、有期の契約を繰り返していると、無期雇用に切り替えなければならなくなりますよね。

 

2018年4月からですね。ただ、これは自動的に切り替わるのではなく、「無期転換制度」を活用する場合にそうなります。現在、その無期転換請求権を行使させまいとして、有期で長期間勤めてきた労働者の雇止めをしている企業もあります。

 

 

――最近は「備え」の雇い止めがニュースになり、雇い止めについても注目が集まりましたが、これまで他のブラック事例に比べると雇い止めの問題は下火でした。

 

雇用市場の流動化が原因だと思います。かつて、政府は労働者の長期雇用に補助金を出すようになっていました。しかし現在の方針では、新しく人を雇用することに補助金を出すように方針転換しています。政策自体のシフトで、一つの職場に長期間雇用しなくてもよいのだという雰囲気が、全体的に後押しされている感じはあります。つまり、人が辞めて、別の職場に移るということ自体は別におかしいことではない。だからこそ、よほど奇異な辞めさせ方でなければ、ニュースとして取り上げられないのでしょう。

 

 

――雇止めについては、転職が一般的になった中で隠されてきた側面がある。

 

はい。こうした社会の流れの中でも、人や職はそれぞれです。一つの職場で長く働いて、自分のキャリアを築きたいという人もいます。それを期待する企業もある。その機会を、企業の都合で一方的に奪われる。労働法の理念からも反する形です。我々のところにはこうしたケースが山ほど届けられます。こういった案件を、私たちはブラックと考えています。

 

 

――退職を強要し、あくまで「自主的」になるよう退職を迫るというお話がありました。具体的にはどのような強制があるのでしょうか。

 

多いのは、退職を迫る面談を繰り返すことです。1週間に1回くらいのペースで、呼び出して同じ話を延々とする。30分、1時間、場合によっては2時間もの間、ひたすら「あなたは仕事ができない」「向いていないから辞めたほうがいい」と繰り返されます。本人は具体的に何がいけないのかわからず、質問します。そうするとその質問には答えず、「そこがわからないからダメなんだ」などと返答が返ってくる。どこがどういけないのかわからないまま、労働者はただ自分の存在をひたすら否定され続けます。それが何度も繰り返されるうちに、本人も本当にやめる以外道がないように思えてきて、辞めてしまうわけです。

 

あと、先ほども申し上げましたがPIPを用いる手法です。外国企業などに多く見られます。PIPでは、いつまでに何をどれだけ達成するかなど、業務目標が立てられます。そしてその達成度を資料として数値化します。定期的にチェックして、「あれもできていない。これもできていない」と客観的な証拠として見せつけて、退職を納得させるのです。会社からすれば、PIPでここまでチャンスを与えたのに達成できないのだからいかんともしがたい、という証拠づくりとしても行われます。

 

 

――「証拠」があるとなると、法廷で争う時にも労働者側はかなり苦しい立場になりそうです。

 

ええ。PIPを証拠に退職を迫られた方の案件の場合は、そもそもPIPの目標が適切だったか、上司の評価が不当ではないかといったことを洗い出します。業務目標の内容が、本来の業務と関わりがない場合、仕事の全体からすることも些末なことの場合があります。労働者の方には、退職前にその辺りの証拠を集めておくことをお勧めしています。そうすれば、裁判になったときにも反証としてそれらを提出することができます。

 

 

◇観点を絞った資料収集を

 

――証拠を揃えて弁護士事務所に見える方はどの程度いらっしゃるのですか。

 

人によってまちまちですね。問題意識の高い方は備えがあって、資料をしっかり持っている場合もあります。しかし、一般的にはあまりお持ちでないことが多いですね。「会社に行けばあれがある」というパターンは多いです。

 

 

――労働者自身が意識を持って備えておくことが必要なんですね。具体的にどのような備えが可能なのでしょうか。

 

ブラック職場にも濃淡があるので、それによって対策もことなってきますが、まずは会社の中で孤立しない環境を作っていくことが重要です。ブラック職場で狙われる人というのは、傾向として自分から孤立しやすい状況を作ってしまう方を見かけます。相手が仕掛けて来る場合もあるし、自分がそうしてしまう場合もあります。要因はさまざまですが、大なり小なり、そうした状況に陥りやすい人が、ターゲットになりやすい。なるべく敵を作らないようにしておく工夫は、個人でもできると思います。その点で言えば、職場内のコミュニケーションを大切にしておくのは基本的な予防策と言えるでしょう。

 

他に重要なのは、自分の置かれている状況を、第三者が事後的に見て客観的に事態を把握できるように資料化しておくことです。追い込まれていくほどに孤立してしまうので、後で何かが起こっても、その時の状況を他の人に裏付けてもらうことが難しくなります。いざという時に、自分が置かれていた状況がゆるぎない「事実」としてわかるように、情報を蓄えておく必要があります。

 

例えば、その日に何時から何時まで働いたのか、いつどこでどんな仕打ちをうけたのか、しっかりメモをとっておくなどです。他にも、自分だけ新年会に呼ばれなかったパターンだと、その新年会のお誘いメールを同僚に転送してもらっておくこともできます。あとは、我々の世界の基本はやはり紙ベースなので、紙でわかるように証拠があるといいですね。

 

とはいえ、日常関わったことを全て資料化するのは大仕事です。実際、そうやっていろいろ集めて一切合切持って来られる方もいるのですが、残念ながら的外れで、資料としてはほとんど使えない、という場合もあります。ですから、ある程度観点を絞って資料化することが必要になる。そしてそのためには、労働法の知識が必要になる。パワハラやセクハラであれば、言動そのものだったり、長時間労働であれば労働時間を示す記録であったりです。そうした観点として、労働法を知っていってもらえたらと思います。

 

 

――ありがちな誤解、実はこれ資料にならないんだよ、というものはどんなものがありますか。

 

多いのはパワハラの音源です。……つづきはα-Synodos vol.237で!

 

 

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2018.2.1 vol.237 特集:ホワイトな社会を目指して

 

1.笹山尚人氏インタビュー「法の知識があなたを守る――ブラックな職場環境をホワイトにするために」

2.木畑洋一「チャーチルとイギリス」

3.高山裕二「リベラルとは何か?――その概念史から探る」

4.粥川準二「学び直しの5冊 <生命倫理>」

 

知のネットワーク – S Y N O D O S –

 

 

 

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.256 

・熊坂元大「「道徳教育」はこうすれば良くなる」
・穂鷹知美「終の住処としての外国――スイスの老人ホームにおける 「地中海クラブ」の試み」
・徳山豪「アルゴリズムが社会を動かす」
・鈴木崇弘「自民党シンクタンク史(1)――シンクタンク創設への思いとその戦い」