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「やってはいけないことをやってしまう」というクセをもち、それを武器にテレビ大人気のお笑い芸人・岩橋良昌さん。「クセの市民権を得ていきたい」という彼に、クセと笑いの関係についてお話を伺った。(聞き手/荻上チキ 構成/山本菜々子)

 

 

クセの市民権を

 

―― 本日はよろしくお願いします。

 

岩橋です!よろしくお願いします!

 

 

―― 岩橋さんは「やってはいけないことをしてしまう」クセがある芸人として、一気にブレイクされていますね。ぼくもテレビで見て、一気に心を鷲掴みにされました。今日はずばり、「クセとお笑い」について伺いたいとおもうのですが、クセが原因で、困ったことはありますか。

 

いっぱいありますね。人生の勝負の時に、クセが出て駄目になってしまうんです。たとえば受験の時も、塾の先生に「問題を全部見て、簡単な問題から解きなさい」と言われたんですが、そう言われると難しい問題から解いてしまうんです(笑)。試験中に鉛筆を全部折ってしまって、最後芯をつまんで書いて、字が薄過ぎて採点できないとか。マークシートも「悪い例」と書いてある通りにマークしてしまったり。その瞬間はすっきりしてるんですけど、ぼくの人生的にはすっきりしていないですね(笑)。

 

 

―― ぐちゃぐちゃになりますね(笑)。

 

受験では苦労することが多かったです。英単語がなかなか覚えられなかったんですよ。アップルがりんごとか、ステーションが駅とか、それに対して疑問をもつんです。それ、誰が決めたんやって。誰かが決めたことのいいなりになっているだけやんって。べつに、アップルが「くさい」でも、みんながそうおもっていたら成立するんじゃないかと考えだしたら、頭がごちゃごちゃになって。

 

本に書いている通り覚えないと、受験はうからないなという気はしていたんですけど、でも、わざと500個くらいぜんぜん違う意味で覚えて。英語のテストの時は、ぼくだけまったく違うストーリーが出来あがっていましたね(笑)。でも、ぼくからしたら合ってる(笑)。もうわけがわからなくなってきて。なにが正解かわからない、むっちゃ深い感覚に陥りました。

 

 

―― 別世界ですね(笑)。芸歴は決して浅くはないとおもいますが、いつごろから、テレビでクセを出すようになったのでしょう。

 

皮切りは2011年の「アメトーーク!」(日本テレビ)の「大阪便り」というコーナーです。東野(幸冶)さんが、ぼくのことを「こんなやつがいる」って紹介してくれたんです。その後に「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!」(日本テレビ)の「ハイテンション・ザ・ベストテン」に呼んでもらって、それくらいから、クセを解放するようになりました。

 

 

岩橋さん1

 

 

―― テレビでやることに不安はありましたか。

 

ファンだった人達は理解して笑ってくれましたが、東京に出てきたら、引いてしまう人もいるんじゃないかと不安がありました。

 

たとえば、関西のある番組で、寿司を正しいマナーで食べるというロケをしました。何回も失敗してたんですが、なかなか正解を教えてくれないんで、最後いらいらして全部わーっとマナー無視で食べて皿を投げるといったことをしました。その場はすごくウケたのですが、マネージャーには「関西ではウケても、東京ではできないかもしれませんね」と言われてしまって。

 

東京では、ぼくの「説明書」をもっている方と一緒に出させてもらう時には、ええ感じになります。東野さんとか、ダウンタウン浜田さんのように、「こんなヤツやねんで」と言ってくれる先輩ですね。

 

でも、誰もぼくの「説明書」をもっていない場では、作り手と演者とぼくとの思惑が上手く重ならなかったりして、難しいです。これからは、ぼくのことをめっちゃ知ってくれる先輩がいてこそはじめて成立するというところからは卒業して、やっぱり独り立ちして、クセの市民権を得ていきたいですね。

 

とはいえ、色んな目で見られているとは感じます。たとえばネットでぼくのことを調べると、「岩橋 病気」「岩橋 障害」とかばっかり(サジェストとして)出てくるんです。「岩橋 トゥレット症候群」という言葉も出て来ます。でも、ぼく自身はそんな診断をされたこともないし、その時にはじめて聞いたほどです。

 

 

―― むしろ戸惑っている、と。

 

ブログで弁解しようかと考えた時期もあったんですが、今はありのままでいいやとおもっています。ぼくが今懸念していることは、そうやって「病気」とかが独り歩きして、あいつはヤバいからテレビでは使えないとおもわれてしまうことです。

 

でも、このまま関西だけでは終わりたくない。全国に風を吹かしたいというおもいがありますね。実際、このクセがあってギャグが生まれたりもしているんです。

 

 

―― クセでギャグが生まれる瞬間は、どういう時ですか。

 

言うことですっきりできるという言葉が、ぼくにはあるんです。たとえば「オーシャンビュー」「ヘミングウェイ」は、すっきりする呪文の言葉です(笑)。単に叫べばいいというわけではありません。すっきりするやつと、すっきりしないやつがあります。普段から、スッキリする言葉を探していて、自分でノートに向かって書いていて。けど、時にはぼくが常に捜しているのを知っている先輩方が、「こんなんどう?」と考えてくださることもあります。

 

麒麟の川島さんや、パンクブーブーの佐藤哲夫さんは、「明日お前と会うから考えてた」と会う度に言ってくれます。川島さんからは「ウェブデザイナー」という言葉を、哲夫さんからは「白銀バースデーパーティ」という言葉を頂きました。ぼくの中で非常に抜けのいい言葉なんで、みなさんのお陰だなぁと、つくづくおもっています。

 

あべこうじさんも、それをもっとギャグにしていこうという形で、会う度に何個も何個もギャグを考えてくれるんです。たとえば、「ばっさばっさばっさ」と鳥のように飛んで、着陸する感じで羽をたたんで「岩橋国際空港」とか(笑)。

 

 

―― (笑)

 

 

岩橋さん1.5

 

 

そんなのをどんどんくれるんですよね。兄さん方に愛されてなんぼの世界なんで、感謝でいっぱいです。その一方で身内だけのノリにならず、世間に出していけるように、クセの市民権を得たいなとおもっています。

 

 

―― すっきりする言葉には基準があるのでしょうか。

 

やっぱりメジャーすぎる言葉、「ベースボール」とか「ガソリンスタンド」という言葉には興味がありません。かといって、「アンバラバンバンバン」みたいな造語も違いますね。そんなんだったらなんでもいいやん、ってなってしまうんです。

 

まったく無意味なものではなくて、意味があって、実際にある言葉で「どこかで聞いたことがあるかも」という感じがいいですね。言葉っておもろいなぁって、ぼくは他の人とはぜんぜん別の意味で捉えているんじゃないかなぁと感じる時もあります。

 

 

―― 基本的には、カタカナなんですか。

 

カナカナが多いですが、日本語もありますね。「武家諸法度」も「日銀総裁」もすっきりします。

 

 

―― 日銀総裁(笑)

 

 

親からもらったプレゼント

 

―― クセが出始めたのはいつごろなんでしょうか。

 

小学校二年生のころです。当時、ファミコンが好きで、ずっとやっていいました。ゲームを終えても、残像が頭の中にちらついてしまうほどでした。ついに怒った親に電源の線を切られてしまったんです。でも、切られたファミコンのコントローラーを夜中布団に持ち込んでしまうくらいハマっていて。自分の中では、線を切られてもまだプレイしているんですよ。そこからずっと日常がゲームをやっている感覚になってしまい、じっとできなくなりました。ある時から、授業中に「あ!」とか声を出すようになったんです。

 

そうすると、「うるさい!だまれ!」と周りから叱られて。まぁ、黙れと言われたら黙るんですけど、よけい言いたいなぁとなってきて。でも、あんまりわーわー言ってもしょうがないから、役にたとうとおもって時計の時間を告げることにしたんです。「あと10分です!」って(笑)。

 

 

―― 鳩時計みたいな(笑)

 

時間呼んでいるだけなら、周りも「まあええわ」ってなって(笑)。その時期からクセが出るようになり、今にいたります。でも、芸人になった当初は隠していましたね。

 

 

岩橋さん2

 

 

―― どうして隠していたんでしょうか。

 

やっぱり、コンプレックスがすごいあったんですよ。自分の中でゲージがたまってきたら、もやもやしてきて、すっきりしたいとおもうようになります。それを抜くためには、あごをガンと叩いたらすっとするんです。でも時間がたったら、また溜まってくる。ぼくは普段、それをずっと繰り返しているんですね。

 

でも、いきなり人前であごを叩くと、引かれてしまったり、恐がられてしまうんじゃないかという気持ちがずっとありました。子どものころは、やっぱりいじめられたりもしてきましたし。特に思春期になってくると、周りの友達の目が気になってどんどん気持ちが内に入っていきました。これまでずっと、人前ではなかなか出せなかったんです。だから、芸人になってもそのまま隠していました。人にみられたくない部分やったし、裏で隠れてやってすっきりして、表で出さんようにしていたんです。

 

でも、きっかけは忘れたんですが、ひょんなことからクセが不意に出てしまった時があって。そしたら「それなんやねん」って、ドカーンとウケたんです。そこで、あぁ、お笑いってすごいなっておもったんです。

 

そういえば、NSCの時に授業をうけていてた時も、「デブ」とか「ハゲ」とか、この世界では全部武器になるっていう「キャラクター一覧表」みたいものを、授業でもらったことを思い出しまして。もちろんそのリストの中に「クセ」なんてなかったし、その時はクセがキャラになるなんておもっていませんでした。今までのぼくは、クセを排除して生きてきたから。自分の夢をかなえるためには、なくした方がいいものだとおもっていたし。

 

でも、なんか、みんな笑ってるなぁって。もしかして、これがオレなんじゃないかなって。クセもオレなんちゃうかって。そこから、そのまま出して行こうということになりました。それが段々ウケるようになってきて、ちょこちょこテレビにも出させてもらうようになっていきました。そうかそうかと、楽になったんですよね。俺はこれでいいんだって。お笑いってマジですごいなって。

 

 

―― お笑いは、貧乏体験とか失恋とか、不遇さを逆転させる力がありますよね。

 

そうなんですよ。ずっと恨んでいた闇の部分を表に出していいし。それで笑ってくれる。ずっとクセの部分抜きでお笑い芸人になりたかったけど、本来のクセもお笑いに含まれてくるとなったら、ますます良い仕事ですよね。もしサラリーマンやってたとしても、自分のクセを我慢しながらやっていけたとはおもうんです。でも、自分のクセで勝負できる世界があったら、こっちにいたいなぁと。

 

子どものころからクセのことで親は学校から呼び出されてしまったり、心配ばかりかけました。浪人もして、大学にいったけど就職もしませんでしたし。しかも、親が厳しいと、子どもに過度なプレッシャーがかかり、クセが出てしまうという説もあって。親に「お前らのせいや」と言って傷つけたこともあったんです。

 

今はクセが武器になって、社会人としてお金を稼いでいます。芸人なってからはじめて、クセを親からもらったプレゼントだっておもえるようになりました。今は親も幸せそうにしてくれているので、そこは本当に感謝です。…(つづく)

 

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