母親を子宮に沈める社会 ――大阪二児遺棄事件をもう一度考えるために

「わたしとは違う」ではない

 

角間 ぼくが代表を務めている一般社団法人GrowAsPeopleの活動を始めるきっかけは、先ほど緒方さんがおっしゃっていた大阪二児遺棄事件がとても大きなキッカケになっているんです。この作品を撮ろうと思った理由についてもう少し詳しくお話いただけますか?

 

緒方 前の作品である『体温』を撮り終えて、2010年7月末あたりから、つぎにどんな作品を撮ろうか漠然と考えていたんですね。そのときに大阪二児放置死事件をニュースで知ったんです。ただ最初はショックが大きすぎて映像にしようという気持ちはまったくわかず、報道を受け身になって見ていました。

 

でもふとしたところでお母さんばかりがバッシングされていることに対して疑問を抱いたんです。あとでいろいろと調べてみてわかったのですが、実は大阪二児放置死事件と同じような事件は他にもたくさんあったんです。では、なぜ大阪二児放置死事件だけがセンセーショナルに取り扱われたかというと、事件を起こしたお母さんが、風俗で働いていて、さらにホスト通いもしていたからだと思うんです。

 

一般的に子育ては母親がすることで、事件や事故が起きるとお母さんに責任があると言われる風潮があります。最初にお話したように、そういった母性の神話化がお母さんたちを苦しめている。ぼくには妹がいて、妹は19歳のときに離婚をしているんですね。それから再婚するまではシングルマザーとして家事や育児をがんばっていたのですが、この事件を起こしたお母さんが妹に重なるような気がしたんです。

 

本当はお母さんだけじゃなくて、離婚した元夫や行政、地域などいろいろな視点を通した意見が活発にでてきてもいいんじゃないかと思いました。そしてお母さんを苦しめている「母性神話」は崩壊しているんだと、事件を描きながら撮ってみたいと思いました。

 

 

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©paranoidkitchen

 

 

角間 いまこの対談中にだってパチンコの駐車場で置き去りになって事件の一歩手前にあるような子供だっているかもしなくて。そのくらい似たような事件ってたくさんあると思います。

 

2004年に公開され、カンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞した『誰も知らない』という映画があります。この映画は1988年に巣鴨で起きた事件をもとにしているんですけど、事件のことを知っていた人はほとんどいなくて、受賞したことによって知られるようになったんですよね。でも大阪二児放置死事件は、母親が風俗で働いていたこととホスト通いをしていたことで注目されていました。

 

実はぼくは報道直後からこの事件を自分事としてみることができたんですよ。生まれて間もない子供を見ながら、なんでこんなに子育てって大変なんだろうと思っていて。しかも事件を知る2、3日前には生まれて初めて風俗のオーナーと出会って夜の世界で働いている女の子の実状を聞くことができて、風俗の世界ではいったい何が起きているんだろうって、ある種の好奇心が起きていたんです。だから子供が置き去りにされて死んでしまったことはショックだったけど、比較的冷静に、この事件がどうやって扱われていくかをみることができたんですね。

 

きっとみんな「わたしとは違う」と思いたいんですよ。凄惨な事件があったとき、日常のどこにでも、誰にでも起きるような事件ではなくて、「風俗をやっていたから」という理由付けをして、「わたしとは違う」と安心したい。

 

緒方 ぼくはお母さんを擁護したかったわけではなくて、一方的にお母さんがバッシングされていることに疑問視していただけで、子供が死んでしまったことについてはやっぱりいくら大変なことがあっても許されることではないと思います。

 

この映画を事件に寄り添って撮るとどうしてもお母さん寄りの映画になってしまいます。だからぼくは感情移入できない様に、客観的に、覗き見しているような印象を与えるように映画を撮ったんですね。

 

 

 

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