2014.03.16

『雲助、悪名一代』(落語ファン倶楽部新書008)/五街道雲助

平成25年度芸術選奨を受賞した落語家・五街道雲助。

滑稽噺の枠に収まらず、過去の速記本から噺を掘り起こすなど、「江戸の風」を伝える芸風で知られる。

蕎麦屋の跡取り息子から運命へ導かれるように芸人へ。なぜ、落語家になったのか、どのような修業時代だったのか。師匠である金原亭馬生の姿や、自分が師匠になった時の弟子への思いなど、その生い立ちと、落語家人生を綴る。放送禁止用語である「雲助」という悪名で駆け抜けた半生とは。

『99%ありがとう ALSにも奪えないもの』(ポプラ社)/藤田正裕

大人気漫画『宇宙兄弟』のシャロン(地球で生きる宇宙飛行士――『宇宙兄弟』はなぜALSを描いたのか? 川口有美子×佐渡島庸平)、次週最終回のドラマ『僕のいた時間』で三浦春馬が演じる澤田拓人。筋萎縮性側索硬化症、いわゆるALSを取り扱う物語が増えているように思う。

徐々に身体が動かなくなり、いまだ原因も治療法もはっきりとはわかっていない難病のALS。著者の藤田正裕さんは、2010年にALSと診断され、現在、顔と左手の人差し指しか動かない。

本書は、そんな藤田さんが、視線とまばたきだけで綴ったこれまでの自伝とこれから。藤田さんが、ALSに戸惑い、抗いながら、そしてときおり弱気になりながら、それでも生きていこうとする言葉は心に鋭く突き刺さります。

『東アジアとアジア太平洋』(東京大学出版会)/寺田貴

急速な経済成長と軍事力強化を背景に、東アジアの地域情勢に過剰なプレゼンスを示そうとする中国。たとえば南シナ海問題。豊富な天然資源を狙って南シナ海の領有権を主張するその姿は、軍事的な覇権主義国家のごとく立ち現れる。

対して、貿易やエネルギー安全保障の観点から、東南アジア海域の安定や航行の自由を重視するアメリカ。中国の覇権行動を法的拘束力のもとにおこうと、東アジアサミットにコミットする。あるいは中国の挑戦に逆襲すべく、TPPを通じて自ら望む通商規範を東アジアに定着させようと目論む。

『東アジアとアジア太平洋』というタイトルの背後にあるのは、経済政策や地域統合の規模をめぐって角遂する中国とアメリカだ。協調によって地域統合が推し進められたヨーロッパと異なり、東アジアでは日本と中国、そしてアメリカといった大国間の競争が、重層的に進展する地域統合のダイナミズムを生み出している。

日中韓やアメリカ、東南アジア諸国、あるいはオーストラリアやインドが、市場統合、金融協力、安全保障をめぐって、多彩な国家戦略のもとに織りなしてきた複数の地域統合の来歴。東アジアあるいはアジア太平洋における地域統合の現状は? そしてその展望は? はたして、そこで日本のとるべき位置は? こうした関心をもつ読者はぜひ手に取るべき一冊だ。

『電力改革』(講談社現代新書)/橘川武郎

福島第一電子力発電所の事故をきっかけに、エネルギー政策は大きな論争の的になっている。

『電力改革』は、エネルギー産業史研究の第一人者が、応用経営史の手法から電力政策の変遷について解説し、エネルギー政策について提言を行っていく。

筆者の橘川氏は、原子力発電を20世紀と21世紀の発展に貢献した(する)エネルギーであると評価するが、使用済み核燃料の処理問題である「バックエンド問題」の解決が困難である以上、原発は「たたむ」しかないと主張する。

電力会社に対する責任の糾弾や、企業の「正しい在り方」の主張にとどまらない、リアルでポジティブな政策提言が本書の魅力である。

著者・橘川武郎氏の記事一覧はこちら → https://synodos.jp/authorcategory/kikkawatakeo

『SUPERな写真家』(朝日出版社)/レスリー・キー

2013年2月4日、六本木で開催された展示会で、勃起した男性器や射精の様子を撮影した写真がおさめられている写真集を発売したとして「わいせつ物頒布等の罪」で逮捕されたシンガポール出身の写真家、レスリー・キー。

従業員の9割が日本人というシンガポールの工場で働いているうちに、日本が好きになった彼の人生を変えたのは、ユーミンの『ダイヤモンドダストが消えぬままに』のジャケット。

22歳で来日し、紆余曲折を経て東京ビジュアルアーツに入学。しかし、数々のコンテストに落選し、苦難を強いられた彼が、なぜ、松任谷由美、浜崎あゆみ、はたまたレディー・ガガといった、名だたる芸能人を写真に収め、世界中で活躍できるようになったのか。

シンガポール人で同性愛者、両親はおらず、中卒……何重ものマイノリティと語るレスリー・キー。熱情的というにはあまりに軽快でファンキーな好奇心と情熱を胸に世界中を躍動する彼の半生は、読む人の心に希望を灯らせてくれる。

【編集部からのお願い】シノドスにご献本いただける際は、こちら https://synodos.jp/company に記載されている住所までお送りいただけますと幸いです。 

足を運びたいオススメイベント

■3月23日(日) 角間惇一郎×竹信三恵子 対談『生きづらさからの脱出』

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日時:3月23日(日) 14:00~16:00 (開場13:30~)

会場:スペースnana(住所:横浜市青葉区あざみ野1-21-11)

参加費:1000円(事前予約制)
定員:35人(先着順)
申込方法:メール:event[@]spacenana.com  ←[ ]外して下さい
連絡先:TEL 045-482-6717

※変更やスケジュール等、新たに情報が上がってきた際には追記していきます。

Grow As Peopleさんブログより)

■~3月16日(日)齋藤陽道写真展@ワタリウム

30歳の写真家、齋藤陽道の初めての大掛かりな展覧会です。

齋藤は2008年ごろから写真に取組み、2010年には写真新世紀の優秀賞を受賞し、3.11以降さらに独自の世界観を発展させています。展覧会では、写真プリント160点、プロジェクーによるスライドショーで200余点の写真を一堂に展示します。

病気の人、障害を持つ人、ゲイやレズビアンなどマイノリティの方々のポートレイトを多く撮っている齋藤が常に感じ、心に問いかけていることがあるといいます。生きることに苦しさを感じてしまう現代にあって、齋藤はあやういがすぐそばに存在する「感動」を見つけ出し「それでも世界は黄金色」と私たちに語りかけます。そんな齋藤の写真は、アートの世界を飛び出し、時空も超え、もっと別な根源的な問題で私たちを強く引き付けます。なぜかその写真を見ると勇気が湧いてくるのです。

ワタリウムさんのHPより)

■テート美術館の至宝 ラファエロ前派 英国ヴィクトリア朝ヴィクトリア朝絵画の夢

英国を代表する絵画の殿堂、テート美術館が所蔵する名品72点を通し、ラファエル前派を紹介する展覧会を開催します。

1848年、ロンドン。ジョン・エヴァレット・ミレイ、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ、ウィリアム・ホルマン・ハントを中心とする若い作家たちは、ラファエロを規範とする保守的なアカデミズムに反旗を翻し、それ以前の初期ルネサンス美術に立ち返るべく「ラファエル前派兄弟団」を結成しました。古典的な形式や慣例にとらわれない彼らの芸術運動は、英国のアート界にスキャンダルを巻き起こしました。

本展は、グループの結成から1890年代までのラファエル前派の歩みを歴史、宗教、近代生活、風景、詩的な絵画、美、象徴主義の7つのテーマに分けて紹介します。ロンドン、ワシントン、モスクワ、と各地で話題を集めた展覧会がいよいよ東京に巡回します。どうぞご期待ください。

2014年1月25日(土)~4月6日(日)※会期中無休

会場:森アーツセンターギャラリー
〒106-6150 港区六本木6-10-1 森タワー52F
http://www.roppongihills.com/facilities/macg/

特集サイトさんより)

■3月18日(火)【落語会】春吾単独。#10

出演:立川春吾
@原宿アコスタディオ
18:30開場/19:00開演 1700円
予約・問合せ:「春吾単独。」制作局 tandokuseisaku@live.jp
(ご予約は、お名前、枚数、ご連絡先明記にて)

立川春吾さんHPより)

プロフィール

シノドス編集部

シノドスは、ニュースサイトの運営、電子マガジンの配信、各種イベントの開催、出版活動や取材・研究活動、メディア・コンテンツ制作などを通じ、専門知に裏打ちされた言論を発信しています。気鋭の論者たちによる寄稿。研究者たちによる対話。第一線で活躍する起業家・活動家とのコラボレーション。政策を打ち出した政治家へのインタビュー。さまざまな当事者への取材。理性と信念のささやき声を拡大し、社会に届けるのがわたしたちの使命です。専門性と倫理に裏づけられた提案あふれるこの場に、そしていっときの遭遇から多くの触発を得られるこの場に、ぜひご参加ください。

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