『1984 フクシマに生まれて』刊行記念 大野更紗と開沼博が選ぶ「生き抜くためのブックレット」

『病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘』(早川書房)

 

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開沼 次は『病の「皇帝」がんに挑む 人類4000年の苦闘』。歴史系ですか?

 

大野 うーん、なんて言えばいいんだろう。アメリカって、メジャーリーグの懐の深さみたいなものがある、なんだかんだすごい国だと思った本です。近年、新しいタイプのノンフィクションがどんどん出ている。

 

この本は、血液内科のお医者さんが臨床の仕事の合間に医学史を研究しながら書いた、いわば「病気と人類の、壮大なノンフィクション」ですね。

 

まあいきなり「がん」って言われても、ガーンって感じですよね。

 

開沼 ……ええ。

 

大野 その「がん」と人類がいかに闘ってきたか、麻酔のなかった時代の話とか、ドラマチックに描写している本ですね。病気マニアとしては読んでいて感動する。

 

開沼 最先端のがん治療の状況ではなく、歴史を通して描くことによって、いまのがん事情が立体的にみえるようなところがあるんですかね?

 

大野 毎日、遺伝子治療がどうとか、出生前診断がどうとか、新聞に載るじゃないですか。そうした記事が載る文脈とか、歴史的な流れとがわかるようになりますね。新聞を読むのが面白くなるかも。

 

 

『交渉プロフェッショナル 国際調停の修羅場から』(NHK出版新書)

 

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開沼 『交渉プロフェッショナル』。タイトルだけ読むとノウハウ本っぽいですけど、実はけっこう堅めの本ですね。20代から国連などのネゴシエーションをやってきた方が、CO2削減や紛争解決といった問題に、どういう風に交渉してきたのか、あるいは有名な交渉のプロがどんな交渉をしているのかを書いている本ですね。これはすごく面白い。

 

いろいろな体験談が書いてあるんですけど、一番印象に残ったのは「センス・オブ・オーナーシップ」という言葉でした。端的にいえば交渉の結果に対して、そこに参加した人が全員当事者意識を持つこと。それこそが交渉を成功させる鍵だ、と。例えば紛争が起きて、どこまでが自分たちの領土なのか境界線を引かなくてはいけないとき、第三者が介入するにはその時点で落としどころはどの辺にあるかイメージしているわけですよね。だからといって、「じゃあここで線を引くよ」といっても納得されない。AとBという対立勢力に話し合いをさせながら、想定していた落としどころに持っていこうとする、と。

 

これはある種のパターナリスティックでもあります。ただ、皆で共有できる明確な未来の目標が立てにくい中、社会的合意をとることが難しい時代において、当事者感覚を持ってもらい、自分たちの線を自分たちで決めている感覚を持ってもらうことは、いま求められていることなんじゃないかと思いました。

 

 

大野さんと開沼さんの新刊の選び方

 

大野 さて、お互い5冊ずつ紹介してきました。ちょっと休憩しましょう。開沼くんに質問なんですけど、新刊ってどうやって選んで買っているか教えてもらえますか?

 

開沼 うーん、いまは読売新聞の書評委員をやっているので、どの本を誰が書評するか決めるときに、会議室にバーッと並べられる本を見ながら読みたいものを選んだり、「この本はあの人が選びそうだからやめよう」とか思いながら決めていますね。

 

大野 入札制度みたいな感じですか?

 

開沼 いや早い者順。

 

大野 ずいぶん古典的なんですね(笑)。

 

開沼 そう。大量に並べられた本を選んで、自分の机に持っていって、ぱらぱら読んでつまらなかったら元に戻す、の繰り返しですね。表紙を見ながら、自分で面白いと思うものを選んで読んでいるから、わりと直感的に面白いものがわかってる感じなのかな。

 

 

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大野 街の本屋さんとか、あるいはインターネットでアマゾンとか使って買うことは?

 

開沼 もちろんありますよ。アマゾンのリコメンド機能は流石で、ぼくの好きそうな本を勧めてくれるから内容紹介を読んで買ってみたり。本屋も、パッと見て面白いか面白くないか明確にわかりますね。

 

大野 私は真逆ですかね。とりあえずわしゃわしゃって乱雑に読む。

 

開沼 でも本屋に行けば腐るほど本がありますよね。その中から選ぶということは無意識でも傾向が出てくるんじゃないですか。

 

大野 たぶんあるんだと思うんだけど、よくわかんない。

 

新書だけは、自分が思想的に立っている場所と真逆のものを選択的に読むようにしています。私は福祉国家論も社会保障も大事だと思うし、大きな政府がいいと思うけど、そうじゃない「どんどんネオリベ!」「財政危機!」系の新書は読むようにしているかな。

 

開沼 自分とは反対側の議論も踏まえますね。自分の関心と違う領域の本はどうやって読んでいますか? 視野を広げるために必要じゃないですか。

 

大野 他人の本棚をパッとみて、サササッとメモしますね。大学の先生の研究室にお邪魔したら、チラ見して即アマゾンで買ったりします。

 

開沼 ああ、人の本棚は面白いですね。2004年くらいに上野千鶴子ゼミに通ってた頃、ケアの話を聞きながら「興味ねえなあ」って思いながら読んでた本が、10年経ったいますごく役立っている。意外と血となり肉となりしているのに気付いたときは、興味ないものを読んでおいてよかったなと思いましたね。

 

大野 ……それすごくいい話だよ、開沼くん。今日一番いい話かもしれない。じゃあそろそろ再開しましょう。

 

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シノドス国際社会動向研究所

vol.272 

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