ゴーストライター制度が素人談義をまき散らす?――『ビジネス書の9割はゴーストライター』(吉田典史)ほか

『ビジネス書の9割はゴーストライター』(青弓社)/吉田典史

 

ある大手出版社の編集長はこう語ったという。

 

 

「著者は、誰でもいいの。書くのはライターだから。著者に求められるのは、一日五十部のペースで本を売りまくるブランド力、営業力、ネットワーク力……。」

 

 

本書はゴーストライター経験を豊富にもつ著者が、ゴーストライターの仕事や収入、トラブルや業界の裏話を赤裸々に記したものである。

 

ビジネス書の世界では昨今、ひとりの編集者が年間、十二冊から二十冊前後の本をつくる。もし経営者や芸能人、政治家、コンサルタントなど、著者としてクレジットされる人たちが本当に書いたなら、こうしたハイペースを維持することはとうてい不可能。締め切りを守ることも疑わしいし、そもそもまともな日本語をを書いてくることすら期待できないからだ。そこでゴーストライターの出番となる。

 

だがなぜ、力量のない人間に本など書かせようとするのか。もちろん「売れる」と見込まれるからだ。本は増刷がかからないと利益が出ない。件の編集長は「一日五十部のペース」というが、書店に(平積み)で置いてくれる三カ月くらいの間にそのペースで売れなければ、増刷がかからない。となると求められるのは「初速」であり、したがって文章力などより、「ブランド力、営業力、ネットワーク力」が重要になるというわけである。

 

さて、ゴーストライターの名前もクレジットするだとか、資本主義以前ともいえるような地位や待遇を改善するだとか、やるべきことは多々あるのだろうが、著者にとって本は名刺代わりになるし、売れれば出版社に利益が出るし、読者も自ら好んで購買するわけだから、ビジネスとしての持続可能性は怪しいにしても、こうしたやり方が絶対的に間違っているわけではないだろう。

 

ただ問題は、社会にとっての害悪だ。芸能人やスポーツ選手はともかくとして、ゴーストライターを使って本を出版した人間が営業力やネットワーク力で本を売り、あるいはときに自ら大量に購入することで大型書店やアマゾンの売上ランキングを押し上げ、「売れている」という演出によって現実の売れ行きを後押しする。そして、「この著者は売れる」と群がる出版社からゴーストライターを使って次々と本を出し、著作多数の識者としてマスメディアで素人談義をまき散らす。

 

素人談義が異様に幅を利かせているという、この社会に巣くっている害悪の存続に、ゴーストライターという制度(と、それに寄りかかり粗製乱造する出版ビジネス)が手を貸しているように思えてならない。(評者・芹沢一也)

 

 

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