普通の人生って面白い――『街の人生』(岸政彦)ほか

『街の人生』(勁草書房)/岸政彦

 

 

別にあたし偏見もたれるとかは平気だったりするわけね。平気なんだけども、でも、もったいないからいっかい見てから考えて物言うてごらんて。一度見てよ。それで好き嫌い言ってって。何の説得力もないよね。生理的に嫌いっていうのもあるやろうけど、それでも一度見てみろ。べきじゃない?そう思う。それが同じ人間よぉって感じね。(『街の人生』「りか「女になる」こと」より)

 

 

今回紹介する『街の人生』は、外国籍のゲイ、ニューハーフ、摂食障害、シングルマザーの風俗嬢、ホームレスといった様々な人たちのインタビューをまとめたものである。

 

インタビュー記事やルポルタージュでは、しゃべった内容をまとめたり、文章を整えたりすることが当然のように行われている。しかし、この本では、インタビュー中の語りをほとんど編集していない。著者の岸政彦氏は社会学者、にも関わらず、分析もほとんどない。

 

しかも、扱っているのは著名人や有名人の人生ではない。もしかしたら、さっき道ですれ違ったかもしれない「普通の人」なのだ。でそんなむき出しのままの語りを、しかも普通の人の人生を、さらに分析もなしで、それって本当に面白いの? と思った人もいるだろう。

 

しかし、そんな心配は無用だ。本書を読むと、人の人生はこんなにも面白いものなのかと驚く。一見、むき出しで断片的に見える語りの数々が、奥行きを持って感じられる。好きな写真を見た時、たとえば、ありきたりな塀と馬の尻尾が写っているだけの写真でも、フレームの外にある馬の姿や生活や歴史を想像してしまうかのように、ここでは語られなかった彼らの人生をさえも思いを巡らせてしまう。

 

そういえば、居酒屋で、喫茶店で、中華屋のカウンターで、隣り合わせた人の人生が垣間見えるような会話が聞こえてきて、耳をそばだててしまった経験がある人は多いのではないか。そんな会話を聞くような楽しさが詰まっているし、本を読んだ後には自分の周りの人の人生を聞きたくなってくるはずだ。装丁もかわいらしいのでプレゼントとしてもおススメの一冊。(評者・山本菜々子)

 

 

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