ALSとの遭遇――『宇宙兄弟』作者とALS患者の想い

橋本 ちなみに呼吸器が壊れちゃったときのために、手動式の呼吸器は持ち歩いています。

 

小山 そういうことがあるんですか?

 

川口 機械は壊れるものなので。気がついたら壊れていたこともありますよ。機械の呼吸音とかがしなくなるので、ずっと一緒にいる人は「あれ!?」ってすぐに気が付きますね。

 

小山 どうして呼吸器をつけることを選ばれたんですか? やっぱりすごく悩まれたんじゃないかな、と思うのですが……。

 

橋本 楽しいからね! 死んだらそれでおしまいで、楽しいことがなくなっちゃう。生きてなきゃ楽しいことに出会えません。

 

小山 ぼくもそう思います。

 

岡部 『宇宙兄弟』にも似たような場面がありましたが、私はコミュニケーションをとれなくなってしまうことがとても怖かったんです。だからずっと呼吸器をつけること迷っていました。でも先の心配をするよりも生きようと決心しました。

 

それに生きたいという理由が見つかったのです。あまりに酷い症状なので、同じ病気の人の役に立ちたいと思いました。でもあとで考えると、生きたいという理由を探していただけなのかもしれません。どっちなのか、いまでもわかりません。

 

 

「選択に迷ったら楽しいほうを選ぶ!」

 

橋本 『宇宙兄弟』って絶望的な状況になっても希望を失わないで頑張りますよね? 小山さんも不屈の人なんですか?

 

小山 いつも「自分だったらどう考えるんだろう」って考えるんですね。そうすると、生きたいなって思うんです。シャロンもそうなって欲しいです。

 

岡部 いま尊厳死の法制化が話題になっています。ぼくは2006年にALSを発症しました。健康なときは尊厳死なんて考えたこともありませんでした。病気や障害があっても、その人の意思を尊重するのだから尊厳死の法制化は問題ないと考える人は言いますが、発症してからは、そもそも自由な意思決定をする環境が整っていないのだとわかりました。本当に意思の尊重をすると言うなら、まずそれが可能な社会環境が必要だと思います。

 

川口 「もう末期だから」と二人のお医者さんが決めたら、呼吸器も止めることができるような法律ができそうなんですね。

 

橋本 私、末期ですけどね(笑)

 

川口 あはは。

 

いろいろな議論があるんですけど、呼吸器とかヘルパーとか、ALSの患者さんは生きていくために、お金も人手もたくさん必要なんですね。岡部さんや橋本さんは、いろいろなサポートを受けることができていますが、ある患者さんのヘルパーは痰の吸引もしないし、文字盤を読み取ることすらしない、ということがある。重病人は病院や施設にいたほうがいいって言われたり。

 

橋本 地方の患者さんの現実は厳しいです。それを見てショックで泣いてしまう家族もいるくらいです。あまりの格差に。同じ日本なのに。なんとかしてあげたいけど、まだできていないからつらいです。いまのままだと日本は尊厳死じゃなくて尊厳殺になります。

 

法案には延命治療を断ることを15歳から決めて「尊厳死」カードとして携帯することを推奨してます。きっと『宇宙兄弟』って15歳くらいの少年少女も読んでいると思います。若いうちから「呼吸器や胃ろうは無益な延命治療だからすべきじゃない」って価値観を植え付けるのはいいことだとは思えない。

 

岡部 もうひとつ、患者になって思うのは自分の意思も変化するということです。橋本さんは毎日どうどうと生きていますけど、ぼくなんてすぐに死にたくなることもあります。だから尊厳死が法律化したら「呼吸器を外して」と言っちゃうこともあるかもしれない。あとからやっぱり生きたいと思っても、手遅れです。

 

小山 そうですよね。そのときの気分だってありますよね。

 

川口 締切に追われているときはツラいですよね。

 

小山 そうですね(笑)。

 

橋本 シャロンは能天気で、明るく描いて欲しいです。

 

川口 とにかくいのちを大事に、いのちを諦めないことを患者さんに日々教えてもらってます。私は呼吸器の患者さんたちと一緒にいるのが楽しくて。なんせ「選択に迷ったら楽しいほうを選ぶ!」を実践して生き残ってきた人たちですから。橋本さんはシャロンとそっくりですよね。楽天家で、人を喜ばせることが好きで、0.1%でも可能性があれば絶対に諦めないんです。

 

 

photo6

橋本操さん

 

小山さんより活動的なふたり

 

小山 おふたりは一日をどうやって過ごしているんですか?

 

橋本 同じことを毎日するってないですよね。「お仕事をする」のは一緒かもしれないですけど。だから「こういう一日です」ってないんです。

 

川口 「いつも家にいない!」って怒られているくらい、寝たきりのまま、いろんなところに飛び回っている……寝たきりのまま飛び回っているって変ですね、なんて言えばいいんだろう(笑)今日もさっきまで厚労省にいたんですよ。

 

岡部 私は毎日7時に起きて、朝の補水やひげそり、洗顔をしてからご飯を胃に入れます。訪問看護師さんが来たり、リハビリや入浴をするのは、だいたい午前から昼過ぎです。午後は仕事や外出をしていることが多いですね。夜は2時くらいまでパソコンをやって、眠剤をいれて寝ます。

 

川口 ちなみに岡部さんって先月どのくらい外出しました?

 

岡部 先月は月に17日は外出しました。

 

小山 ああ……ぼくより多い……。

 

全員 あはは(笑)

 

川口 小山さんより活動的?(笑)

 

小山 ぼくは近所を散歩する程度ですね……。漫画を描いているときは5、6日くらい仕事場に完全にこもるので……昼夜逆転もしますし、最終日は徹夜です。

 

岡部 不健康ですね(笑)。

 

橋本 ご飯食べてないでしょ。

 

川口 岡部さんと橋本さんに心配されてる(笑)

 

小山 いやあ……(苦笑) でも、ご飯は食べていますよ。妻にご飯を作ってくれるんです。あと一時間半くらいは家に帰って夕食を一緒に食べています。仕事場と家を行ったり来たりですね。

 

橋本 「私よりも『宇宙兄弟』の方が大事なの!?」って奥さんに怒られませんか?

 

小山 そういう感じですね……(笑)。どんだけ宇宙兄弟でいいセリフを描こうが関係ないって言われます。セリフに説得力がないんですよ(笑)

 

橋本 それいいなあ(笑)。

 

 

 

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