ロシアとイスラエルの軍事協力 ―― 背景と影響

ロシアのセルジュコフ国防相とイスラエルのバラク国防相は、2010年9月6日、長期的な軍事協力に関する枠組み合意文書に調印した。

 

 

ロシアとイスラエルの新たな軍事協力

 

この文書の詳細は明らかにされていないが、今後の両国の軍事技術の協力や契約の基盤となっていくとされており、バラク国防相と会談したロシアのプーチン首相も航空機、レーザー技術や衛星など、多くの分野での協力の可能性があることを述べている。そして、手始めに、ロシアはイスラエルから12機の無人機を購入したと報じられている。

 

なお、イスラエルとロシアの軍事協力は、90年代から若干はあった。たとえば、インドなど第三国向けの航空機の共同開発などはなされてきたというが、今回のような深い協力関係の構築は、ロシアのこれまでの軍事政策に鑑みて異例であり、また、これまでの外交枠組みにも大きな影響をもたらしかねない性格をもつ。

 

こうした協力関係が生まれた背景には、両国の思惑の一致があったといってよい。それでは、この合意により、両国が得るもの、失うものは何だったのだろうか。その影響や今後の展望なども踏まえて考えてみたい。

 

 

ロシアが得たもの

 

ロシアは、近年まで旧東側陣営の軍事技術に固執し、兵器は自国製のものに限定してきた。だが、とくに2008年のグルジア紛争でロシア製兵器の遅れが露呈してからは、兵器や軍事装備の近代化を急務とし、欧米諸国からの技術獲得や兵器の購入を熱心に行うようになった。

 

そして、昨年、イスラエル製の無人偵察・爆撃機の購入を決定したのである。

 

また、ロシアは同時に、フランスともミストラル級強襲揚陸艦の購入について交渉を進めてきた。ロシアが北大西洋条約機構(NATO)加盟国から兵器を購入するのは、ソ連時代を通じて初であり、ロシアと緊張関係にあるグルジアやバルト諸国など、反露的な近隣諸国は安全保障上の懸念を深めている。

 

他方、ロシア国防省は、「自国産業が最新兵器の研究を進めるが、外国のノウハウも必要」と、今後、外国からの兵器の輸入を積極化していく意向を表明。2009年11月21日には、プーチン首相が「防衛と関連産業の近代化が最重要だ」と語り、来年の防衛産業への発注を8.5%増やすとするなど、世界同時金融危機によって経済的に困窮しているにもかかわらず、ロシア当局は軍の近代化を強い決意をもって進めているようだ。

 

 

イスラエルが得たもの

 

ロシアは、ソ連がイスラエルと敵対関係にあるアラブ諸国やイランを支援してきた背景もあり、ポスト冷戦時代においても、アラブ諸国やイランとは良好な関係を築いてきた。

 

冷戦末期からは、ロシアはイスラエルとの関係改善にも努力をしはじめて、低レベルの軍事協力関係はあったとはいえ、ロシアがイランの原子力発電を支援したり、シリアやイランに武器を供給したりすることは、イスラエルにとっては脅威であった。

 

そのため、ロシアと軍事協力を深化させることで、親アラブ・イラン政策を放棄させ、武器の売却なども阻止することは、イスラエルにとってはきわめて重要なのである。

 

 

イランへの影響

 

だが、今回のロシアとイスラエルの合意でもっとも大きな影響を受けるのはイランであろう。ロシアは長年、イランとの協力関係を維持してきた(両国は歴史的に地域の覇権をめぐってライバル関係にあるが、共通の敵、つまり米国に対しては利害を共有していたという背景があった)。

 

しかし、最近ではロシアのイランに対する「裏切り」的行為が目立つ。

 

ロシアは、米国のオバマ大統領が「リセット」を宣言した後には、米国がロシアに対して様々な譲歩をしてきたのを受け、ロシアもいくつかの譲歩をするようになっている。

 

たとえば、米国の対アフガニスタン政策の重要拠点であるキルギスの空軍基地の閉鎖断念、新STARTへの合意などであるが、それに加え、欧米が進めてきたイランの核問題に対する対イラン制裁への合意もあった。

 

そして、現在、ロシアは2005年12月に契約が結ばれていた対空ミサイル「S-300防衛システム」のイランへの供与を行わないことを表明しており(ラブロフ露大統領が「ロシア政府はS-300防衛システムのイランへの引渡し問題では、国連安保理決議を遵守するつもりである」と述べたり、ロシア連邦軍事技術協力局の副局長も7月に引き渡しの自粛を明言したりしている)、それはイスラエルに対する配慮とみられている。

 

イランはこれら一連の「裏切り」的行為に警鐘を鳴らしているが、ロシアはイランと石油・天然ガス・燃料分野では協力関係を深めており、欧米との関係を悪化させない程度にイランとの関係も維持しているといえる。

 

 

 

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