「70後」が中国に「公共」をつくりだす ―― 民間のチェンジ・メーカーたち

2012年7月1日より、広東省では全国に先駆けて民間のNGOの政府への登記の規制が緩和された。民間人の集会や結社に敏感な中国では、広東省の試みは画期的な出来事だ。2008年の四川大地震を契機に機運が高まった中国のボランティア熱は、ここ数年間でおおきく発展しており、全国各地で貧困地区支援や社会的弱者支援、環境保護などさまざまな看板を掲げる大小無数の公益団体が活動をはじめるようになってきている。

 

なかでも、広東省は慈善活動が活発な香港に近く、海外の華僑とのネットワークが太いという地域的特性があり、中国国内でもNGO活動がもっとも活発な地域である。広東省が民間NGOの活動を認める方向に舵を切ったことは、中国の民間パワーの台頭を象徴する動きといっていいだろう。

 

これまで中国では、NGO組織が政府への登録を申請しても何年もかかったり、より登録しやすい地域を探して登録するといった状態であり、大部分のNGOが政府に正式に登録していない「灰色身分」であった。広東省の多くのNGOにとって正規「白色身分」になることは、法人として免税の優遇を受けられるということ以上に、ある日突然、政府によって強制的に活動中止に追い込まれたり排除されたりするリスクがなくなる、という安心のほうがおおきい。

 

 

「70後」が下の世代をリードする

 

広東省政府がNGO組織の存在を認める方向に動いたのは、省のトップである汪洋書記の英断であると伝えられている。

 

東莞に張坤さん(1946年生まれ)という一人の男性がいる。彼は1989年から個人で湖南省鳳凰県をはじめとする広東省近隣の貧しい地方の、家庭の貧困が理由で学校に通えない児童をもくもくと支援してきた。坤おじさんの活動は長年だれも関心をもたず、2005年からずっと政府にNGOとしての登記を申請し続けているが、「寄付の強要の疑いがある」ということで申請を拒まれてきた。

 

昨年前半、広東省のテレビや新聞が坤おじさんの活動に注目。報道をつうじて彼の活動を知った汪洋書記が「政府は良いことをしようとしている人を助けるべきであって、その障壁となるべきでない」として、NGO組織の登録の門戸を広げることが決定したのだった。

 

広州在住の映像ディレクター黄さん(1970年生まれ)は、この決定を舞台裏で後押しした一人である。大学卒業後、彼は広州のテレビ局に勤務していたが、テレビ局では何をどう伝えるべきか決められていて現場の作業者に自由はない。映像の中で自分のメッセージを発信していきたいと決意して2004年に独立した。

 

2006年には坤おじさんの活動に密着し、のべ2か月間にわたって歩いて山を越えなければいけないような貧しい村で撮影を行った。撮影された映像はインターネット上で公開するほか、テレビ局勤務時代の人脈を活かし、テレビの公益活動のドキュメンタリー番組にも提供されている。テレビに限らず「南方都市報」や「新快報」といった広州で購読者が多い新聞も、公益活動についての専門ページを設けており、こうしたマスメディア全体の民間の公益活動の盛り立てと、彼らとの連携が黄さんの活動に刺激を与えている。

 

同世代あるいはそれより上の世代の独立起業した人たちがマンションや高級車といったステータス消費に向かうなか、黄さんは元ハンセン病患者の暮らす村や、草の根NGOの活動の映像を撮影するため、90年代製のクーラーの壊れたシトロエンのハッチバックで、真夏の広東省のあちこちを駆け回っている。

 

「お金には代えられないものを追及したい」「社会のために貢献したい」。こうした人たちは中国の中間層に増えてきているようだ。もちろん、みながみな純粋な動機というわけでもないらしい。興味深いのは、いろんな人に会ってインタビューをしてみると、黄さんのような70年代生まれより上の年齢層で、成功して豊かで安定した生活をおくっている人たちは「相手が喜ぶ顔をみると自分の心が満たされる」、「経営者仲間のつきあいで活動に参加している」といった、自己本位の動機で公益活動に参加している人の割合が高い。

 

これに対して、70年代生まれの公益活動に参加している人たちは、貧富の格差、人権問題など、中国社会が抱える数々の矛盾に真剣に取り組もうとしている人がおしなべて多いのが特徴だ。70年代生まれより若い世代「80後」「90後」もこれに続いているが、社会経験の豊富さや人脈を活かし「70後」がこうした活動をリードしている。

 

 

 

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