ロシアのWTO加盟問題の政治化とジレンマ  

グルジアの内政の混乱

 

それでは、クカワの目的は何か? もちろん、グルジア国民に対して、グルジア現政府がグルジアの国益より対米関係を重視し、そのためには愛国心すら捨てるということを知らしめ、国民からの批判を強めたいからであろう。

 

実際、最近、グルジアでは内政の混乱がひどくなっている。アラブ政変の影響もあり、今年に入って野党による抗議デモが頻発するようになったが、拙稿「旧ソ連諸国で実らぬ中東民主化運動の「模倣」」でも述べたように、あまり大きな運動には発展していなかった。

 

しかし、ニノ・ブルジャナゼが主導したサアカシヴィリの退陣を求める5月26日の抗議行動は悲劇的な結果を生んだ(ニノ・ブルジャナゼは2003年の「バラ革命」の立役者のひとりであったが、のちにサアカシュヴィリと袂を分かち、現在は野党「民主運動・統一グルジア」の党首である)。

 

抗議行動は21日から連日行われ、初日には1万人が集まり、警官とのもみ合いの末、36人が拘束され、内、14人が投獄された。そのあと参加者は減少していったが、26日には、軍事パレードを阻止しようと前夜から約2000人の群衆が集まり、治安部隊数千人が投入され、催涙ガス、ゴム弾、放水などによって群衆を排除した。その際、デモ参加者と警官が1人ずつ死亡、デモ隊の150人が逮捕されたほか、約40人が負傷により入院し、500人以上が催涙ガスによって医療処置を必要とする状況になった。

 

大きな被害が出たことで、内外から政権側の対応を非難する声が高まるなか、ブルジャナゼは運動が高じてエジプトのような展開になることを期待した。しかし、政権側は2人が死亡したのはブルジャナゼのジープに轢かれたことによるとして、ブルジャナゼの責任を追及している。また、「いかにしてエジプト的なシナリオに持っていくか」について議論するブルジャナゼと彼女の26歳の息子との電話の盗聴記録をリーク。彼女が騒動の黒幕であることを確実な証拠をもって暴露する一方、その抗議行動をロシアが支援しているとほのめかした。

 

このように、グルジア野党の反政権的な運動が多方面で高じていたなかでのクカワ氏の暴露は、その政治性を強くにじませることにもなり、多くの疑問も寄せられている。

 

 

実際のところは?

 

実際、いまのところ(7月初旬現在)、政府から公式な発表はなされていない。また、6月7日には、ベーラ・コバリア経済発展相が本問題について、グルジアの既定路線は変わらないと明言しており、「暴露」された内容の真実味は怪しい状況だ。

 

他方、グルジア内にも、ロシアのWTO加盟を支持すべきという声があるのも事実だ。ロシアがWTOに加盟すれば、ロシアがグルジアに対して行っている経済封鎖を解かせることができるため、グルジアは市場を拡大し、経済を改善できるのではないかというのがその理由である。グルジアは、ロシアがワイン、ミネラルウォーター、農作物に対する禁輸を決めたあと、大きな経済損害を被った。とくに、ワインの輸出先として、ロシアはかつて70%のシェアを占めていたのだ。グルジアは新たな市場を主に欧州に開拓しようとしたが、それほど大きな成果が上がっていない。

 

だが、そのような見立てを甘いとする議論も多い。そもそも、ロシアはグルジア産品が粗悪品であるという理由で禁輸を開始したのであり、WTOに加盟したところで、粗悪品に対して市場を開放する義務はなく、ロシアがグルジア産品を輸入するようになる保証は全くない、というのがその主張だ。

 

いずれにせよ、もし、グルジア政府が実際にロシアのWTO加盟を無条件に容認したとしたら、国民から激しい反発が起きるのは必至だ。2008年のグルジア紛争のロシアに対する「復讐」が、グルジア国民の納得するレベルまで行われなければ、グルジアにおける支持は得られないだろう。本件は、現時点では、おそらくロシアとグルジアのあいだでの深刻な問題でありつづけると考えられる。

 

 

 

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