アフリカが示す「国立公園観光化」の教訓――地域社会と円滑にかかわるために

シリーズ「等身大のアフリカ/最前線のアフリカ」では、マスメディアが伝えてこなかったアフリカ、とくに等身大の日常生活や最前線の現地情報を気鋭の研究者、 熟練のフィールドワーカーがお伝えします。今月は「等身大のアフリカ」(協力:NPO法人アフリック・アフリカ)です。

 

 

はじめに

 

わが国の「観光ビジョン」の一環として、環境省が訪日外国人旅行者(インバウンド)の倍増を掲げてはじめた「国立公園満喫プロジェクト」。観光ツアー開発やガイド育成、高級ホテルの誘致が計画されている。

 

一方で、アフリカの国立公園ではすでに国際環境NGOなどの民間組織が公園の観光開発に参入する動きが本格化している。アフリカの事例をもとに、日本の国立公園観光地化における地域社会との「円滑なかかわり方」について考える。なお、保全地域の観光地化の場合、保全と開発のバランスが最優先課題となるが、ここでは、民間事業者の参入に焦点をあてて論じることにする。

 

 

民間の力の活用を掲げた「国立公園満喫プロジェクト」

 

国立公園満喫プロジェクトの公式ウェブサイトには「日本の国立公園を世界の旅行者が長期滞在したいと憧れる旅行目的地にします」とある。プロジェクト実施の背景には、国立公園のインバウンド利用者数(2013年度)が前年比27.7%と急増した一方で(観光庁調査、推計値)、日本の国立公園が必ずしもインバウンド目線で整備されてこなかったことがある。

 

たしかに、どこの国立公園にもあるビジターセンターの案内表示は簡素で、その場でガイドを手配できず、トップシーズンでさえ魅力的なイベントがおこなわれているとはいいがたい。自然のなかで遊び慣れていない観光客が「国立公園で遊ぶ」ハードルは高い。ましてや外国人旅行者は、世界遺産に登録されていない限り、情報を得ることも、アクセスすることも難しい。国立公園が有する魅力を十分に引き出せていないのである。

 

環境省はプロジェクトを実施するために、全国に34ある国立公園のうち8カ所をモデル地区に選んだ。そのなかには、民間の力を活用したエコツーリズム開発や公園内へのカフェの設置などの計画があり、「地方創生への寄与」も期待されている。これまで日本の国立公園において民間業者を参入させるとりくみは積極的におこなわれてこなかったが、このプロジェクトによって方向性が大きく転換する可能性がある。

 

 

アメリカにおける国立公園の観光化

 

現在、国立公園は世界中につくられており、自然観光を代表する場所になっている。世界最大の自然保護団体IUCN(国際自然保護連合:本部スイス)は管理の目的別に保護地域を6つに区分する。国立公園は、人間の活動を限定的に認めるカテゴリーⅡに位置づけられている。環境保全と同時に観光ニーズを満たす人間の活動が認められているため、国立公園内にトレイル(ハイキング道)、道路、ロッジなどのインフラが整備される。

 

国立公園制度はアメリカで発祥した。西部開拓や開発によって、手つかずの自然(ウィルダネス)が消滅することを危惧する自然保護活動家たちが、国会議員や大統領に働きかけた結果、1916年に国立公園局法が制定され、全国の国立公園を総合的に管理する国立公園局(National Park Service:NPS)が創設された(注1)。

 

(注1)NPSは国立公園だけでなくニューヨークの「自由の女神像」など約400の自然景観と文化・歴史遺産の保護や管理をおこなう巨大な組織である。

 

貴重な自然環境の保護と観光開発ニーズのバランスをどのように図るのかは当時から問題になっていたが、観光ニーズが高まるにつれ、公園の整備や拡充が次々にすすめられた。NPS設立100周年を記念して、昨年から「あなたの公園を見つけよう」(Find Your Park)キャンペーンが実施されている。2016年に国立公園を訪れた総人数は、前年比7.7%増の約3億2500万人(National Park Service, 2017)で過去最高となった。

 

 

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ロッキーマウンテン国立公園(筆者撮影)

 

 

写真は、アメリカのロッキーマウンテン国立公園である。2016年度の訪問者数がアメリカの国立公園で第三位と人気が高い。標高4000m級の山々が壮大な景観をつくり、トップシーズンの園内ビジターセンターは多くの観光客でにぎわう。公園情報の提供はもちろんのこと、土産物屋やレストラン、キャンプ場が併設されている。整備のいきとどいた各トレイルの入り口に案内看板があり、外国人でもハイキングを簡単に楽しむことができ、契約をした民間企業がホテルやレストランなどを運営する。環境省の「国立公園満喫プロジェクト」が目指しているのも、おそらくアメリカの国立公園であたりまえにみられるこのような光景なのだろう。

 

 

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整備のいきとどいた公園内のトレイル(筆者撮影)

 

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ハイキングコースの看板(筆者撮影)

 

 

ところで、アメリカと日本の国立公園の違いは、単に観光施設やイベントが充実しているか否かではない。「土地所有のあり方」は国立公園の観光地化を考えるうえで鍵となる。アメリカの国立公園の96%が国有地なのに対して、日本は約26%が私有地で、公園内に人が住んでいたり、生業活動がおこなわれていることがある。さらに、公園の6割を林野庁が管轄していて、しばしば森林利用と環境保全の兼ね合いが問題になる。

 

したがって、アメリカと同じような管理はできず、日本では土地所有者にとらわれずに公的な規制をおこなう「地域制自然公園制度」がとられていたり、入園の有料化が難しいなどの問題を抱えている。このような事情から、複数の土地所有者と管理者である国との合意の形成が、日本の国立公園の観光地化計画においても大きな課題になると思われ、「地方創生」が期待される理由もそこにある。

 

このように、土地や自然資源の所有、管理、利用者が複雑に絡み合っている状況がみられるのは日本だけではない。同じような状況で、問題が先鋭化しているのが、アフリカの国立公園である。

 

 

アフリカの国立公園制度と「住民参加型保全」

 

西欧近代的な野生動物保護政策は、19世紀末の植民地統治期にはじまる。当初は今のような野生動物保護のためではなく、統治者や現地のエリート層がおこなう狩猟(スポーツハンティング)のために野生動物が囲いこまれていた。象牙目当ての狩猟などが問題視されるようになると、統治国が主導して、アフリカの野生動物保護や国立公園制度の導入が議論されるようになった。

 

アフリカには野生動物が数多く生息し、土地が豊富にあるので国立公園の設立はスムーズにいくと思われるかもしれない。しかしアメリカにおいて国立公園設立時に先住民が迫害されたのと同様に、暮らしが顧みられることがなかった牧畜民や狩猟採集民がいた。アフリカの人々の生活と守るべき自然は物理的に切り離すという考えが当時は主流で、公園内での居住や放牧がみられる場合は、強制移住や利用の禁止措置がとられた。

 

しかし近年、このような方法は随分とあらためられるようになった。とくに、1980年代後半に国際社会に登場した「持続可能な開発」理念や、住民参加型開発についての議論の高まりは、野生動物保護分野においても「住民参加型」への転換を促した。

 

住民参加型保全を実施するためにもっとも期待されているのが、観光による経済的収益をコミュニティに分配し、環境保全への理解につなげようとする手法で、国立公園の観光地化、エコツーリズム、スポーツハンティングが活用されている。

 

サブサハラ以南アフリカの24カ国が現在スポーツハンティンングを許可していて、野生動物を消費することで外貨収入を得ているが、国連世界観光機関(UNWTO)が発表した報告資料によると、観光部門の年間売上高の80%は、サファリ、バードウォッチング、トレッキング、ダイビング、アドベンチャーなどの「非消費型」観光によるものである(UNWTO,2015)。アフリカに特徴的なのは、これらの観光が、国立公園内だけでなく周辺地域でもおこなわれており、地域社会に多くの経済的収益をもたらしている点である。

 

 

国立公園周辺における自然観光への地域住民のかかわり方――土地所有と資源管理が鍵になる

 

アフリカの自然観光が日本やアメリカと異なるのは、国立公園などの野生動物保護区が、国民のレクリエーションのための公共施設とは位置づけられておらず、最初から外国人観光客を前提とした国際観光を中心に成立している点である。

 

外資系企業が、欧米人観光客を意識した観光ロッジ経営やツアー商品の開発を独占しており、観光業のノウハウがない地域住民が参入するのを難しくしている。地域に暮らす人々は自然の一部として民族文化観光の対象になるか、土産物を細々と販売するか、ホテルの清掃業等の観光業の末端に位置づけられる仕事を低賃金でおこなうほかなかった。

 

 

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サファリカーの乗客にみやげものを売るマサイ(筆者撮影)

 

 

ところが、住民参加型の開発/保全/観光が導入され、コミュニティに注目が集まることで状況は大きく変わる。

 

たとえば、国立公園などの保全地域外にも野生動物が数多く生息する南部アフリカ諸国や東アフリカの一部の国では、コミュニティが所有する共有地でも野生動物がみられ、コミュニティと契約を結んだ民間の観光業者がホテル経営などの観光業をおこなう。コミュニティには民間の業者から土地の貸借料が支払われ、コミュニティがその収益の使途を決める。

 

鍵となるのは、組織をつくり、委託先の企業を決め、収益の使途を決める権限がコミュニティに付与されていることである。近年では、外国政府の援助スキームとして、貧困削減と環境保全の両立を目指す総合的地域開発の一環で保全地域周辺において人材育成事業(みやげものづくり指導やガイド育成など)がおこなわれており、これまで観光業に無縁の住民が観光分野で起業するケースもでてきている。

 

もちろん、地域住民がうまく観光業を利用しているケースばかりではない。独立以降も広大な土地をヨーロッパ人が所有している国では、土地の私有地化が急速に進み、共有地やコミュニティを単位としたとりくみが難しくなってきていたり、国立公園に隣接する土地所有権を取得した白人地主が私設野生動物保護区を経営することで観光客の獲得競争が激しくなったりすることもある。汚職が蔓延し、義務づけられているはずのコミュニティへの収益の分配が機能していないこともすくなくない。また、住民が狩猟をおこなう権利はまったく認められていないなどの問題もある。

 

このように、成功だけでなく失敗事例や課題も含まれているが、国立公園周辺の地域社会がおこなう「環境保全と観光」をくみあわせたとりくみは、植民地期に野生動物を利用することが禁じられてきた住民に資源利用(とくに土地に関する)の権利を付与しているという点で、希望を見いだすことができる。将来的に地域開発と国立公園の保全を一体的にとらえることができれば、生物多様性保全の観点からも期待はできる。

 

次に紹介するのは、国立公園そのものの管理運営を国際環境NGOに委託するエチオピアの事例である。【次ページにつづく】

 

 

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