岐路に立つトルコ政治――「大統領制」はいかなるスタートを切るのか

トルコでは、昨年4月に実施された国民投票で、議院内閣制から大統領制への移行を主眼とする改憲が51.4%の賛成で承認された。そして、同時実施の次期大統領選挙・議会選挙によって、大統領制が本格的に導入されることとなっていた(注1)。この大統領・議会のダブル選挙は、国民投票実施時には2019年11月3日が予定されていたが、今年4月に急遽大幅な前倒しが決まり、予定よりも1年半以上早い6月24日に実施されることとなった。

 

これによって、トルコ共和国史上初となる執政制度の大転換(注2)が間もなく実現する見通しとなった。だが、準備期間が2か月程度しかない状況で、各候補・各政党、そして有権者はどのような動きを見せているのだろうか。

 

本稿では、「大統領制時代」の幕開けをもたらすダブル選挙の背景と動向、そして「大統領制時代」がどのようなかたちで始まるのか、さまざまな可能性について検討したい。

 

 

通りにかかる大統領候補者たちのバナー(イズミルにて2018年6月撮影。提供:Ozan Örmeci)。奥からインジェ、エルドアン、アクシェネル。

 

 

ダブル選挙の前倒しにいたる経緯

 

トルコでは2002年11月以来、2015年6月~11月を除いて(注3)、エルドアン現大統領(Recep Tayyip Erdoğan、2003年3月~2014年8月は首相)の率いる公正発展党(Adalet ve Kalkınma Partisi, AKP)が一院制議会の過半数を占め、単独政権を担ってきた。

 

AKPは高い経済成長率に支えられて長期政権を築き、かつて強かった軍の政治的影響力の減退や、国内のクルド問題解決に向けた「解決プロセス」の推進に取り組んできた。だが、2015年6月総選挙の前後から人民民主党(Halkların Demokratik Partisi, HDP)などクルド系勢力との対話路線を破棄し、トルコ民族主義を掲げる民族主義者行動党(Milliyetçi Hareket Partisi, MHP)に接近、昨年の国民投票以降は事実上の連立状況にある。

 

こうしたなか、今年4月17日にMHPからの早期選挙の提案(8月26日実施案)を受け、翌日にエルドアン大統領がMHP党首と会談、即日、6月24日のダブル選挙実施が発表された。ボズダー副首相(Bekir Bozdağ)によると、政府による選挙前倒しの理由は従来からの大統領制導入の主張と変わらない。

 

すなわち、国内外の危機に対応できる、安定した政治システム=大統領制の必要性である。国民投票によってすでに大統領制導入という「国民の意思」が示されている以上、問題を抱える(と彼らが考える)議院内閣制を維持する道理はない、というのがボズダーによる説明であった(注4)。そのため、4月の時点でもっとも早く選挙を実施できる日として、6月24日が定められた(注5)。

 

大統領制の導入で、執政権の大統領への明確な帰属など執政制度を中心に大きな変化が予定されている。大統領の権限としてあらたに認められるもののうち、とくに重要と思われるものは、(1)副大統領・内閣の任免、(2)大統領令・規則の発令、(3)予算案の提出、(4)議会の解散、である。このほか、司法機関における多くの裁判官の選出なども可能となることから、誰が「大統領制時代」初の大統領に就任したとしても、トルコ共和国史上もっとも強力な権限を持つ大統領が誕生することになる。

 

 

大統領選挙の焦点と動向

 

この「大統領制時代」における最初の大統領となる候補は6名。現職のエルドアン(現AKP党首)のほか、野党第一党である共和人民党(Cumhuriyet Halk Partisi, CHP)の元会派副代表のインジェ(Muharrem İnce)、MHPから分離した新設の善良党(İYİ Parti)党首のアクシェネル(Meral Akşener)、クルド系に基盤を持ちマイノリティの権利擁護を掲げるHDPの前共同党首で現在は勾留されているデミルタシュ(Selahattin Demirtaş)、そして親イスラーム的な至福党(Saadet Partisi, SP)党首のカラモッラオール(Temel Karamollaoğlu)と左派ナショナリズムを掲げる愛国党(Vatan Partisi, VP)党首のペリンチェキ(Doğu Perinçek)である(注6)。

 

これらの候補の支持率は、6月17日時点までの各種調査会社による世論調査によると、おおむねエルドアンが約47%、インジェが約28%、アクシェネルが約12%、デミルタシュが約10%、カラモッラオールが約2%、ペリンチェキが1%未満となっている(注7)。このおおまかな予測をそのまま受け入れると、第一回投票で50%を超えて獲得する候補がいないことから、第二回投票(決選投票;7月8日実施予定)に進むこととなるが、ここではインジェとアクシェネルといういずれの野党系候補もエルドアンに数ポイント及ばないと予想されており、エルドアン再選の可能性が比較的高いとされている。

 

しかし、エルドアンもそれほど安泰なわけではない。「エルドアン‐反エルドアン」の構図のもとで展開されている選挙戦では、候補は分立しているものの「反エルドアン」も一定以上の勢力となっている。

 

たとえば、一時期、「反エルドアン」の統一候補として、エルドアンとともにAKPを支えてきたギュル前大統領(Abdullah Gül)の擁立がCHP・İYİ Parti・SP間で検討された。その際には、ギュル自身が「幅広い合意がなかったため」という理由を述べて辞退するにいたったが、むしろ「反エルドアン」がAKPの一部にも広がっていることを示唆するものであるといえる。

 

また、候補者の政策面では、野党系候補(とくにインジェとアクシェネル)のあいだに所属政党間ほど大きな政策の差はみられないが、エルドアンとこれらの候補には違いが際立つ。たとえば、エルドアンは基本的に現政策の継続・推進をうたっているが、野党系候補は地域安定のための対話重視の対外政策や中央銀行の独立性の確保、非常事態宣言の解除、議会重視の政治制度への回帰などを主張している。

 

またクルド問題については、エルドアンが自身が2015年頃まで推進してきた「解決プロセス」の破棄を明言している一方、インジェやアクシェネルによる言及は少ない。デミルタシュは多元主義的な新憲法の制定や地方自治の拡張とともに、クルド問題の解決を掲げている。

 

エルドアンにとっての大きな懸念材料には、経済状況の悪化も挙げられる。今年3月以降に20%以上下落した急激なトルコ・リラ安とインフレ率の上昇は、現職にとっては不利にはたらきうる。エルドアンはかねてより低金利政策を強く主張しており、中央銀行への「介入」もほのめかすなど、さらなる格付けの引き下げにつながる要素も散見される。

 

現在の経済関連担当の閣僚が軒並みAKPの議員候補者名簿から外れ、6月初旬には金利の引き上げがおこなわれるなど、現政権は不安の払拭に取り組んでいるが、効果は限定的なものにとどまっている。経済はトルコでも投票行動においてきわめて重要なポイントであるため(注10)、いわゆる無党派層だけでなく、エルドアンやAKPの主要な支持層である低・中間所得者層にまでが経済悪化を実感するようになった場合には、再選への影響が出てくる可能性がある。【次ページにつづく】

 

 

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