2018.06.22

岐路に立つトルコ政治――「大統領制」はいかなるスタートを切るのか

岩坂将充 現代トルコ政治研究、比較政治学

国際

トルコでは、昨年4月に実施された国民投票で、議院内閣制から大統領制への移行を主眼とする改憲が51.4%の賛成で承認された。そして、同時実施の次期大統領選挙・議会選挙によって、大統領制が本格的に導入されることとなっていた(注1)。この大統領・議会のダブル選挙は、国民投票実施時には2019年11月3日が予定されていたが、今年4月に急遽大幅な前倒しが決まり、予定よりも1年半以上早い6月24日に実施されることとなった。

これによって、トルコ共和国史上初となる執政制度の大転換(注2)が間もなく実現する見通しとなった。だが、準備期間が2か月程度しかない状況で、各候補・各政党、そして有権者はどのような動きを見せているのだろうか。

本稿では、「大統領制時代」の幕開けをもたらすダブル選挙の背景と動向、そして「大統領制時代」がどのようなかたちで始まるのか、さまざまな可能性について検討したい。

通りにかかる大統領候補者たちのバナー(イズミルにて2018年6月撮影。提供:Ozan Örmeci)。奥からインジェ、エルドアン、アクシェネル。

ダブル選挙の前倒しにいたる経緯

トルコでは2002年11月以来、2015年6月~11月を除いて(注3)、エルドアン現大統領(Recep Tayyip Erdoğan、2003年3月~2014年8月は首相)の率いる公正発展党(Adalet ve Kalkınma Partisi, AKP)が一院制議会の過半数を占め、単独政権を担ってきた。

AKPは高い経済成長率に支えられて長期政権を築き、かつて強かった軍の政治的影響力の減退や、国内のクルド問題解決に向けた「解決プロセス」の推進に取り組んできた。だが、2015年6月総選挙の前後から人民民主党(Halkların Demokratik Partisi, HDP)などクルド系勢力との対話路線を破棄し、トルコ民族主義を掲げる民族主義者行動党(Milliyetçi Hareket Partisi, MHP)に接近、昨年の国民投票以降は事実上の連立状況にある。

こうしたなか、今年4月17日にMHPからの早期選挙の提案(8月26日実施案)を受け、翌日にエルドアン大統領がMHP党首と会談、即日、6月24日のダブル選挙実施が発表された。ボズダー副首相(Bekir Bozdağ)によると、政府による選挙前倒しの理由は従来からの大統領制導入の主張と変わらない。

すなわち、国内外の危機に対応できる、安定した政治システム=大統領制の必要性である。国民投票によってすでに大統領制導入という「国民の意思」が示されている以上、問題を抱える(と彼らが考える)議院内閣制を維持する道理はない、というのがボズダーによる説明であった(注4)。そのため、4月の時点でもっとも早く選挙を実施できる日として、6月24日が定められた(注5)。

大統領制の導入で、執政権の大統領への明確な帰属など執政制度を中心に大きな変化が予定されている。大統領の権限としてあらたに認められるもののうち、とくに重要と思われるものは、(1)副大統領・内閣の任免、(2)大統領令・規則の発令、(3)予算案の提出、(4)議会の解散、である。このほか、司法機関における多くの裁判官の選出なども可能となることから、誰が「大統領制時代」初の大統領に就任したとしても、トルコ共和国史上もっとも強力な権限を持つ大統領が誕生することになる。

大統領選挙の焦点と動向

この「大統領制時代」における最初の大統領となる候補は6名。現職のエルドアン(現AKP党首)のほか、野党第一党である共和人民党(Cumhuriyet Halk Partisi, CHP)の元会派副代表のインジェ(Muharrem İnce)、MHPから分離した新設の善良党(İYİ Parti)党首のアクシェネル(Meral Akşener)、クルド系に基盤を持ちマイノリティの権利擁護を掲げるHDPの前共同党首で現在は勾留されているデミルタシュ(Selahattin Demirtaş)、そして親イスラーム的な至福党(Saadet Partisi, SP)党首のカラモッラオール(Temel Karamollaoğlu)と左派ナショナリズムを掲げる愛国党(Vatan Partisi, VP)党首のペリンチェキ(Doğu Perinçek)である(注6)。

これらの候補の支持率は、6月17日時点までの各種調査会社による世論調査によると、おおむねエルドアンが約47%、インジェが約28%、アクシェネルが約12%、デミルタシュが約10%、カラモッラオールが約2%、ペリンチェキが1%未満となっている(注7)。このおおまかな予測をそのまま受け入れると、第一回投票で50%を超えて獲得する候補がいないことから、第二回投票(決選投票;7月8日実施予定)に進むこととなるが、ここではインジェとアクシェネルといういずれの野党系候補もエルドアンに数ポイント及ばないと予想されており、エルドアン再選の可能性が比較的高いとされている。

しかし、エルドアンもそれほど安泰なわけではない。「エルドアン‐反エルドアン」の構図のもとで展開されている選挙戦では、候補は分立しているものの「反エルドアン」も一定以上の勢力となっている。

たとえば、一時期、「反エルドアン」の統一候補として、エルドアンとともにAKPを支えてきたギュル前大統領(Abdullah Gül)の擁立がCHP・İYİ Parti・SP間で検討された。その際には、ギュル自身が「幅広い合意がなかったため」という理由を述べて辞退するにいたったが、むしろ「反エルドアン」がAKPの一部にも広がっていることを示唆するものであるといえる。

また、候補者の政策面では、野党系候補(とくにインジェとアクシェネル)のあいだに所属政党間ほど大きな政策の差はみられないが、エルドアンとこれらの候補には違いが際立つ。たとえば、エルドアンは基本的に現政策の継続・推進をうたっているが、野党系候補は地域安定のための対話重視の対外政策や中央銀行の独立性の確保、非常事態宣言の解除、議会重視の政治制度への回帰などを主張している。

またクルド問題については、エルドアンが自身が2015年頃まで推進してきた「解決プロセス」の破棄を明言している一方、インジェやアクシェネルによる言及は少ない。デミルタシュは多元主義的な新憲法の制定や地方自治の拡張とともに、クルド問題の解決を掲げている。

エルドアンにとっての大きな懸念材料には、経済状況の悪化も挙げられる。今年3月以降に20%以上下落した急激なトルコ・リラ安とインフレ率の上昇は、現職にとっては不利にはたらきうる。エルドアンはかねてより低金利政策を強く主張しており、中央銀行への「介入」もほのめかすなど、さらなる格付けの引き下げにつながる要素も散見される。

現在の経済関連担当の閣僚が軒並みAKPの議員候補者名簿から外れ、6月初旬には金利の引き上げがおこなわれるなど、現政権は不安の払拭に取り組んでいるが、効果は限定的なものにとどまっている。経済はトルコでも投票行動においてきわめて重要なポイントであるため(注10)、いわゆる無党派層だけでなく、エルドアンやAKPの主要な支持層である低・中間所得者層にまでが経済悪化を実感するようになった場合には、再選への影響が出てくる可能性がある。

議会選挙の焦点と動向

議会選挙の状況も大統領選挙と重なる部分が多いが、選挙前倒しの決定前である今年3月の法改定であらたに認められるようになった「選挙連合(seçim ittifakı)」の存在は、きわめて重要である。

選挙連合とは、2つ以上の政党からなる枠組みで、比例代表制が採用されているトルコの議会選挙においては投票用紙の政党一覧にも明記される。投票用紙には選挙に参加する政党名がならび、有権者は政党名の下に押印することで投票先を示すことになるが、連合の得票率は連合に所属する政党への票の合計によって決定され、これに基づき連合への配分議席が決定される。

また、連合内の政党の議席は、各政党の獲得票の割合によって配分される。そしてもっとも重要なのは、選挙法によって定められた、議会に議席を得るために必要な最低得票率である10%(いわゆる「阻止条項」)は、連合に所属する政党ではなく連合の得票率に対して適用されるという点である(注11)。これにより、今回得票率が10%に満たないと思われる政党――MHPや大統一党(Büyük Birlik Partisi, BBP)、民主党(Demokrat Parti, DP)――は連合により「救済」される見通しとなった。

こうした選挙連合は、まず、与党AKPとMHPによって「人民連合(Cumhur İttifakı;以下、与党連合)」が、次いで野党第一党であるCHPとİYİ Parti、そしてSPによって「国民連合(Millet İttifakı;以下、野党連合)」が結成された。与党連合にはAKP候補者名簿に記載されるかたちでBBPが、同様に野党連合にはİYİ Partiの名簿に記載されるかたちでDPがそれぞれ加わり、連合を組まない政党としてHDP、VP、そして親イスラーム的クルド系政党として知られる自由ダウワ党(Hür Dava Partisi, HÜDA-PAR)(注12)が名乗りをあげたことで、今回の議会選挙には10政党(投票用紙への記載は8政党)が参加することとなった。

これらのうち、VPとHÜDA-PARはそれぞれ得票率が10%に満たないと考えられることから、事実上、選挙は与党連合・野党連合・HDPの争いといえる。大統領選挙と同様、数社によって実施されている世論調査を比較してみると、6月17日現在、おおまかな予想得票率は、与党連合が約47%(AKP 40%強、MHP 7%弱)、野党連合が約40%(CHP 25%強、İYİ Parti 13%弱、SP 2%強)、HDPが約11%となっている(注13)。

仮にこれに基づいて議席が配分された場合には、今回から全600議席となった議会において、与党連合が270~300議席、野党連合が230~260議席、HDPがその残りの大半を獲得することとなる。もちろん、これらは仮の予測に基づいた仮の数字であるが、ここからある程度の傾向は読み取ることはできる。

こうした世論調査が示唆するものは、与党連合・野党連合ともに過半数を獲得することは困難ではないかということ、そしてその鍵はHDPが握っているということである。AKPが議会第一党を維持し、与党連合が野党連合を上回る議席を獲得する公算が大きいと思われるが、前述の予測によると過半数である300議席を超えられるかどうかは楽観視できない状況にある。

この場合、過半数を確保するためにいずれかの政党・連合と組む必要があるが、与党連合・野党連合の「大連立」は難しく、また、近年のAKPの姿勢やMHPの従来の理念から、与党連合とHDPが協力する可能性は低い。むしろ、CHPやİYİ Partiの最近の言動からは、野党連合とHDPが手を結ぶ可能性が残されているようにみえる。

このような事態になり、エルドアンが大統領に再選されたならば、トルコの「大統領制時代」は大統領と議会の「ねじれ」によってスタートすることとなる。しかし、仮にHDPが得票率10%に満たず議席を獲得できなかった場合には、与党連合が過半数を獲得する見込みとなり、同時にエルドアンの再選が果たされた際には、大統領は比較的安定した政権運営をおこなうことができる。いずれにせよ、「大統領制時代」の始まり方は、HDPの得票率と意向にかかっている部分が大きいといえるだろう。

「大統領制時代」の幕開けに向けて

仮にエルドアン大統領‐野党連合・HDPの「ねじれ」が発生した場合には、何が起きうるのだろうか。新大統領は大統領令の発令や予算案の提出に関する権限をもつが、議会を無視できるほどの制度ではないため、政権運営は容易ではない。また、こうした「ねじれ」の解消を目指し大統領が議会を解散することも考えられるが(注14)、その際にもやはりダブル選挙となることから、エルドアンが大統領に選出されない可能性や、1期5年・2期までという大統領の任期規定も考慮する必要がある。

そしてもし新たな議会選挙が実施されるとしても、選挙連合の組み替えや拡充も視野に入っていることから、必ずしもエルドアンやAKP、与党連合に有利になるわけではない。このほか、議会選挙をあらたに実施せず連合の組み替えをおこなうという方策も考えられるが、野党連合のİYİ PartiやSPは、それぞれMHPやAKPと対立し誕生した政党であることから、与党連合との協力は容易ではないだろう。むしろ、与野党どちらからも選挙結果に対する異議申し立てがなされる可能性すらある。

このように考えた場合、大統領選挙においても議会選挙においても、さらには予測される「その後」においても、現在「反エルドアン」とされる勢力が結束できるかがひとつの大きな焦点であることは間違いない。野党連合を形成するCHP・İYİ Parti・SP・DPは、それぞれ本来の志向には大きな違いがあり、とくに「その後」における政策面の調整は、比較的方向性が近い対外政策や経済政策の分野を除いては、困難が予想される。

エルドアンやAKPは「従来の体制(国家)‐国民」の構図を作り上げ、「国民」の側の代表として政権を担ってきたが(注15)、今回のダブル選挙では「エルドアン‐反エルドアン」の図式が与野党双方から提示されている。

経済の先行きが懸念される中、エルドアンやAKPの重要な支持層である低・中所得者層がどれだけ経済の悪化を実感し、「非エルドアン」を選択するのか(注16)、そしてそれによってどれだけ「反エルドアン」勢力が伸張するのか。限定的な金利引き上げ政策やクルド系組織への越境軍事作戦、そしてこれまでの実績で、エルドアンとAKPはどこまで支持をつなぎとめられるのか。

一方、「その後」の青写真をうまく提示できていない中、野党連合はどこまで積極的な支持を拡大できるのか。与野党ともに大きな課題を抱えている状況で、有権者の判断が注目される。

(注1)国民投票の詳細については、岩坂将充「トルコにおける国民投票――『大統領制』は何をもたらしうるのか」SYNODOS、2017年4月14日(https://synodos.jp/international/19487)を参照。

(注2)共和国最初期の1924年憲法においては、執政権は議会が自身が選出する大統領と大統領が任命する内閣を通じて行使するとされた。大統領は自身が議会から任命する首相、同様に首相が議会から選出し大統領が承認する内閣とともに政権運営を行う(第7条・第44条)。

(注3)2015年6月総選挙では、AKPは議会議席の過半数獲得に失敗した。その後、連立政権の樹立にいたらなかったことから同年11月に再度総選挙が実施され、ここでは過半数を確保した。

(注4)Yeni Şafak(電子版), 19 April 2018.

(注5)ただこれには、MHPのライバルであるİYİ Partiの選挙参加を妨げたいという思惑があったともいわれている。新しい政党であるİYİ Partiは、選挙法の規定のため、6月末以降でないと議会選挙に参加できないと考えられていた。

(注6)なお、大統領候補は同時に議会選挙に立候補することはできない。

(注7)ORC [Cumhuriyet(電子版), 4 June 2018]; SONAR [Cumhuriyet(電子版), 5 June 2018]; Mediar [Cumhuriyet(電子版), 12 June 2018]; Gezici [T24(電子版), 14 June 2018] など。また、REMRES, Erken Seçime Doğru: Haziran Rapor – 1 (http://www.remres.com.tr/erken-secime-dogru-haziran-rapor-1;最終閲覧日2018年6月17日); Erken Seçime Doğru: Haziran Rapor – 2 (http://www.remres.com.tr/erken-secime-dogru-haziran-rapor-2;最終閲覧日2018年6月17日)も参照。これらの調査会社には、現政権に批判的であるとされるものも含まれるため、注意が必要である。

(注8)Sözcü(電子版), 28 April 2018.

(注9)野党内、とくにCHP内部でギュル擁立に対する強い反対があったといわれている。また、いち早く立候補を表明していたアクシェネルも、自身の立候補の撤回に同意しなかった。

(注10)たとえば、MetroPoll社の調査によると、「あなたにとってトルコでもっとも重要な問題は何か」との問いに対する「経済」という回答は昨年から増加傾向にあり、2018年5月時点で51.5%となっている。一方、減少傾向にある「テロ」という回答は、同時点で13.4%であった。Cumhuriyet(電子版), 11 June 2018.

(注11)「選挙基本規定と有権者名簿に関する法およびその他の法の変更に関する法律」(法律第7102号、2018年3月13日承認)。

(注12)HÜDA-PARについては、今井宏平「トルコにおけるもう1つのクルド政党――フューダ・パルとはどのような政党か」SYNODOS、2016年11月8日(https://synodos.jp/international/18413)を参照。

(注13)Piar[Cumhuriyet(電子版), 5 June 2018]; SONAR, op.cit.; Mediar, op.cit. など。REMRES, op.cit. も参照。

(注14)2017年4月の改憲により、議会がみずから解散するには5分の3(360議席)以上の同意が必要となっている。「トルコ共和国憲法改定に関する法律」(法律第6771号、2017年1月21日承認)、第11条。

(注15)岩坂将充「世俗主義体制における新たな対立軸の表出――トルコ・公正発展党と『国民』の世俗主義」、高岡豊・溝渕正季編著『「アラブの春」以後のイスラーム主義運動』ミネルヴァ書房、2018年。

(注16)KONDA社の今年5月実施の調査によると、昨今のドル高(リラ安)の原因を「政府の誤った経済政策の結果」とした回答は46%であるのに対し、「外部勢力のトルコに対する策略である」とした回答は40%であった。このため、インフレ率の上昇などは現政権批判に必ずしも直結するわけではないといえる。KONDA, Mayıs ’18 Barometresi (http://konda.com.tr/tr/anasayfa/;最終閲覧日2018年6月17日).

プロフィール

岩坂将充現代トルコ政治研究、比較政治学

北海学園大学法学部教授。博士(地域研究)。ビルケント大学大学院経済社会科学研究科(トルコ)、および上智大学大学院外国語学研究科満期退学後、日本学術振興会特別研究員(PD)、同志社大学高等研究教育機構准教授を経て、現職。専門は現代トルコ政治研究(民主化・政軍関係・対外政策)、比較政治学、中東イスラーム地域研究。著作に『よくわかる比較政治学』(ミネルヴァ書房、2022年、岩崎正洋・松尾秀哉との共編著)など。

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