ロシア政権が恐れる北コーカサス問題と民主化ドミノ

モスクワでふたたびテロ

 

世界に衝撃を与えた今年1月24日のロシア・モスクワ郊外のドモジェドボ国際航空テロ。その記憶もまだ新しい3月9日、ふたたびモスクワでテロを疑わせる事件が起きた。モスクワ南西部の大通り、バス停のゴミ箱に仕掛けられた爆発装置(TNT火薬400グラム相当)が爆発したのである。死傷者の情報は伝えられていないので、恐らくいないと思われるが、バス停や近くに停車していた車両数台が破損した。現場がロシア連邦保安局(FSB)の教育機関の向かいであったことから、当局はテロが企図されたとみている。

 

ドモジェドボ国際航空テロについては、拙稿「ロシア空港テロ事件~その背後にあるもの」を参照されたいが、拙稿がアップされた段階では犯行声明は出ていなかった。しかし、後日、チェチェン共和国の独立派武装勢力指導者ドク・ウマロフ司令官が犯行声明を出した。

 

当局は、ドモジェドボ国際空港テロはウマロフの息の根のかかった者による犯行とみて捜査をつづけ、最終的にテロを直接、指揮した容疑者を、ウマロフ司令官の部下であるアスラン・ビュトゥカエフ司令官だと断定した。ビュトゥカエフ司令官は、自爆テロで死亡した実行犯のマゴメド・エブロエフ容疑者を、イスラーム過激主義の思想によって洗脳するとともに、向精神薬を与えて服従させ、自爆を強要したとみられている。

 

 

北コーカサス情勢の悪化

 

北コーカサスでは最近、きわめて情勢が悪化している。2月17日にロシアの人権センター「メモリアル」は、北コーカサスにおけるロシアの法執行機関や軍などが、武装派によって受けた攻撃のデータを発表した。2010年には289名が死亡し、551人が負傷。また、2009年には273名が死亡し、562人が負傷していた。このデータによれば、ダゲスタン、チェチェン、イングーシ、カバルディノ・バルカルがとくに深刻な状況を呈していたが、2009年と2010年の違いとしては、チェチェンとイングーシの死傷者の減少と、ダゲスタンとカバルディノ・バルカルのその増加が指摘できる。

 

また、「Kavkazsky Uzel」のデータによれば、2010年にモスクワと北コーカサスで22回のテロ攻撃があり、108人が死亡、652人が負傷している。22回のテロのうち、16回は自爆テロである。その自爆テロのうち6回はダゲスタンで発生している。

 

このように北コーカサスのテロは頻発しており、枚挙にいとまがないが、最近の主要な事例を紹介しておこう。

 

 

ダゲスタンの騒乱拡大と国際化?

 

ダゲスタンの状況はきわめて悪化しており、もはや「内戦」状況だともいわれている。

 

たとえば、2月14日に、北コーカサスのダゲスタン共和国のグブデン村では相次いで自爆テロが発生し、警官2人が死亡、20人が負傷した。同日朝に女性が警察署に侵入しようとして自爆し、夕方には爆発物を積んだ車が警察の検問所に近づいたため、運転手と警官・内務省軍兵士が打ち合いを始めたところ爆発したのである。このテロにより、同村への電力供給は切断され、一般住民も被害を受けた。そして、このテロが北コーカサスの連続テロの口火を切ったとみられている。

 

ダゲスタンや周辺国で自爆テロが頻発するなか、ダゲスタンの公認されたイスラーム指導者は2月9日を「殉教者(シャヒード)の日」とするよう提案した。1998年以来、テロ攻撃で死亡したイスラーム指導者は24人に達しているという。イスラーム指導部は自爆テロによる死者と他の戦闘で死亡した殉教者を区別する準備を進めているが、その過程で彼らは公認されたイスラーム派の殉教者をより多くカウントしようとしており、非公認のイスラーム教徒とのあいだで亀裂が生じているという。そのことは、ダゲスタンの社会の分裂をより加速させており、「内戦」状態を強化しているという。

 

他方、ダゲスタンのテロは国際化しているともいわれている。2月10日にはカザフスタン出身の武装勢力2人がマハチカラの警察に投降したという情報が、11日には北コーカサスに4~5人のカザフスタンのテロリストが車で侵入したと報じられたのである。カザフスタン側は、カザフスタン人が北コーカサスのテロに関与しているという証拠がないとしてそれを否定したが、少なくともロシアは北コーカサスの騒乱が「国際化」していることを内外に示したいようである。

 

 

 

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