覆されたインド政治の常識――与野党逆転を果たしたモディBJP政権の展望

2014年5月26日、インド人民党(BJP)のナレンドラ・モディ氏が第15代インド首相に就任した。

 

BJPは総選挙で単独過半数を超える議席を手にし、国民会議派が過去10年間担っていた政権を奪還した。インドでは過去四半世紀にわたり過半数を制する政党がなく、連立政権が常態化していただけに、今回の結果は驚きをもって受け止められている。

 

66.4%というインド史上最高の投票率を記録し有権者の高い関心が示された今回の選挙では、最近の同国の政治で当然視されてきた「常識」の多くが覆される結果が示された。その背景にあるのはインドに起きた経済・社会における変化と有権者のニーズの変化であり、BJPはこの状況に適応することで大勝した一方、与党・国民会議派は新たな潮流から取り残されてしまった。本稿では、この点について掘り下げるとともに、新たに発足したモディ政権の展望についても考察を行っていく。

 

 

新たにインド首相に就任したナレンドラ・モディ氏(インド首相公式ウェブサイトより)

新たにインド首相に就任したナレンドラ・モディ氏(インド首相公式ウェブサイトより)

 

 

インド政治の「常識」を塗り替えた選挙結果

 

総選挙の獲得議席は543議席中、BJPが282議席、同党主導の政党連合「国民民主連合(NDA)」では337議席。一方、与党の国民会議派の獲得議席はわずか44議席で、与党連合「統一進歩同盟(UPA)」でも60議席にとどまった。

 

筆者の前回の論考(「12億人の民主主義――政権交代の可能性が注目されるインド総選挙の見取り図」)において、筆者もBJPが第1党になるシナリオが最も可能性が高いと指摘していたが、ここまで同党が大勝することは予想できなかった。今回の総選挙はそれほどにインド政治で当然視されていた「常識」の多くを覆す結果となったのである。

 

 

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第一に、政党が単独で過半数(272議席)を超えるのは困難という「常識」があった。インドでは1984年の総選挙で国民会議派が414議席を獲得したのを最後に過半数以上の勢力を確保した政党は現れておらず、地域政党、特定の宗教ないしカーストを支持基盤とする政党と連立を組むことが常態化していた。その結果、不安定な状態に陥る政権も少なくなく、政策の遂行に支障を来すケースや、なかには1998~99年のBJP政権[*1]のように、協力政党の連立離脱によって政権が短期間で崩壊するケースもあった。

 

[*1] BJPは1998年の総選挙で第1党となり連立政権を発足させたが、約1年後にタミル・ナードゥ州を地盤とする地域政党の離脱により議会で多数を維持できなくなった。ヴァジパイ首相は国民の信を問うため下院を解散、99年の総選挙で再度第1党となり続けて政権を担当することとなった。

 

2009年の前回総選挙では、会議派が単独で久々に200議席の大台を突破したことが注目を集めたが、それでも過半数には66議席足りず、同党を中心とする第二次UPA政権は投資誘致促進等の重要課題をめぐり迅速な意思決定を下しにくい状況が続いた。

 

今回、選挙戦時から「ミッション272+」という過半数超の議席獲得を目標に掲げていたBJPは、同党が州政権を握るグジャラート、ラジャスタン、マディヤ・プラデーシュといった西部の州では全議席独占かそれに近い大勝を収めた。また、インド最大州で最重要拠点と位置づけていた北部のウッタル・プラデーシュ(UP)州で80議席中71議席、東部のビハール州では40議席中22議席を獲得したことは、全国レベルでのBJPの大躍進を決定づけた。さらに、地盤が弱いと言われてきた南部及び東部でも小規模ながら議席を地道に積み増すことに成功した。この結果、目標議席数を越える成果を挙げる。前回比で166議席増(2.4倍)、過去最多だった1998年及び99年の182議席を100上回る大勝がもたらされたのである。

 

 

 

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