覆されたインド政治の常識――与野党逆転を果たしたモディBJP政権の展望

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インドの外交政策——高まる日本の存在感

 

モディ政権の成立は、インドの対外政策に変化をもたらすのだろうか。考えられるのは、経済外交をより強力な形で推進していくことである。そのために先ず必要なのは周辺国との関係を安定させることである。5月26日の就任宣誓式に南アジア地域協力連合(SAARC)の首脳を招待したのも関係改善に向けた意気込みの表れと言えるだろう。これに対し、パキスタンでは軍部等の対インド強硬派から慎重論があったものの、ナワズ・シャリフ首相は就任式への出席を決め、27日にはモディ首相との初会談も行った。

 

周辺国以外の二国間関係では、日本がインドにとってこれまで以上に重要な存在になるだろう。日本はモディ首相がグジャラート州首相時代に開始した投資誘致イベント「Vibrant Gujarat」にパートナー国として参加しているほか、製造業を中心に日系企業も同州に多数進出しており、官民ともに密接な関係を構築してきた。

 

モディ首相も日本への関心は高く、2007年と2012年の二回にわたり訪日した経験がある。特に、米国はモディ首相のグジャラート暴動時の対応を問題視して査証を発給しない姿勢をとっていたことから同首相との関係構築にやや出遅れているなかで、早くから良好な関係を積み上げてきた日本は有利な立場にある。モディ首相の初の外国訪問先として日本が最有力候補になっているとも言われ、日本としてもインドとのさらなる関係強化を図る絶好の機会が到来している。

 

加えてモディ政権の対中国政策にも関心が集まっている。モディ首相は選挙戦中、インド実効支配下にあるが中国も領有権を主張する北東部のアルナーチャル・プラデーシュを訪問した際、「中国は拡張主義的な考えを改めなくてはならない」「いかなる勢力もアルナーチャル・プラデーシュを奪うことはできない」と強硬な発言を行った。しかし、モディ政権の経済重視姿勢を踏まえれば最大の貿易相手国の一つである中国との関係を損なうことは得策でなく、是々非々の立場で臨むものと考えられる。

 

ただし、モディ首相は、東部の対中国境を含む地域を所管する北東部開発省の閣僚に元陸軍参謀長のV.K.シン下院議員――外務担当の閣外相も兼任――をあて、中国側と較べ遅れをとっていると言われる国境地域のインフラを整備する考えを示しており、備えを怠らない方針のようだ。

 

 

就任宣誓式でのモディ首相(右)とムカジー大統領(インド首相公式ウェブサイトより)

就任宣誓式でのモディ首相(右)とムカジー大統領(インド首相公式ウェブサイトより)

 

 

おわりに

 

本稿では、今回の総選挙でインド政治において当然視されてきた「常識」が覆される結果となり、その背景にはインドに起きた経済・社会における変化と有権者のニーズの変化があることを指摘した。それによってもたらされた新たな状況の下、BJPが効果的な選挙戦略を展開して有権者の支持を集めた一方、与党・国民会議派は新たな潮流を見極めることができず、同党史上最大の敗北を喫することとなったのである。

 

モディ政権が任期をまっとうする限り今後5年間国政レベルの選挙はない。しかし、州議会選挙は各地で順次行われる予定であり、そこでは本稿で指摘した様々な「変化」が定着して新たな「常識」となるのか、あるいは再び揺り戻しがあるのかが明らかになるだろう(2014年末までに、商都ムンバイを擁するマハーラーシュトラ州、首都デリーに隣接するハリヤナ州、北東部で中国と国境を接するアルナーチャル・プラデーシュ州で議会が任期満了を迎えるため、年内に選挙が行われる)。そこでは、経済再生をはじめとする諸課題に対するモディ政権の実績が評価される機会にもなる。対外関係は州議会選挙自体の争点になることはないものの、投資増加や大型開発案件への支援取り付け、周辺国との関係改善といった成果を挙げることができれば政権への追い風になる。有権者の期待を背負って発足したモディ政権の取り組みがいま、始まったのである。

 

 

 

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