パレスチナ統一内閣の光と影――ファタハ・ハマース連立に課された課題

統一の背景

 

それではハマースにとって、今回の統一政権の樹立はどんな意味があったのか。こちらはより深刻な協力の必要性が背景にあると考えられる。

 

エジプトでムルシー政権が崩壊した後、ムスリム同胞団を出身母体とするハマースはシーシー暫定政府から敵視されるようになった。ガザ地区とエジプトを結んでいた無数のトンネルは注水・破壊され、使用不可能となった。トンネルからの物資の搬入と、それに際して徴収していた「トンネル課税」による税収の激減は、ガザ地区の市民のみならずハマース自体をも経済的に困窮させることになった。またハマースのシリア事務所閉鎖と政治局長であるハーレド・ミシュアルのカタール脱出以降は、イランやシリアとの関係も悪化し、修復できていないという。

 

資金が不足する中、今年に入ってからはガザ地区の政府職員の給与も削減され、ハマースはファタハへの接近を余儀なくされていたものと考えられる。その意図はハマース側の発言からもうかがうことができる。ハマースの首相補佐バッサーム・ナイームは4月の和解宣言後、今回の内閣の使命は外交交渉ではなく、「パレスチナの組織を統一して、選挙の準備を行ない、ガザを立て直すこと」だと明言している。

 

和平交渉の傍らでイスラエル側が進める入植地の建設は、交渉の中断をファタハ側が正当化する口実を与えることになった。イスラエルの左派日刊紙ハアレツの4月28日付の報道によると、入植地拡大のための土地接収は近年、これまで以上のペースで進んでおり、2013年には2万8千ドナム(28平方キロメートル)の土地がイスラエルの国有地に併合された。うち3476ドナム(3.47平方キロメートル)は西岸地区中部のアリエル入植地に供されている。アッバース大統領はこうした状況を指して4月の和解宣言の後、パレスチナ解放機構(PLO)の中央評議会の席で「イスラエルが入植地の建設を凍結すると誓約し、約束された残りの囚人を解放するなら〔和平交渉の〕期限を延ばしてもよい」と発言している。

 

交渉の仲介役を務めてきたアメリカの特使マーティン・インディクも、交渉中断後の5月8日、入植地建設に対して改めて懸念を表明した。「このまま建設を続けると、イスラエルのユダヤ人国家としての性格を損ねることになる」との発言ではあったが、入植活動が和平交渉の障害になった事実を、慎重に指摘したものともいえるだろう。

 

アッバースの発言でも言及されたように、今回の和平交渉決裂の背景にはもう一つ、拘束されているパレスチナの囚人の問題もある。交渉が暗礁に乗り上げた直接のきっかけは、イスラエルが3月末に、約束していたパレスチナ人政治囚104人のうち最後の26人の釈放を見送ったことにあった。イスラエル側としては、解放のたびに国内で反対運動が盛り上がるパレスチナの囚人を、明確な交渉の成果もないままに引き渡すわけにはいかない、という立場がある。相手に譲歩しすぎると弱腰と見られ、国内の右派の支持を失うからだ。だがパレスチナ側としては、前提となる約束も果たされぬままに、次の約束を結ぶことなどできない。

 

囚人に関しては、この他に国際的にはあまり注目を浴びていない別の問題もある。それを顕著に示すのが、イスラエルの刑務所内で2年ほど前から断続的に行なわれているパレスチナ人服役囚によるハンガーストライキだ。

 

これはイスラエルが罪状を明らかにせず、裁判なしで何ヶ月も拘束する、行政拘禁に対する抗議で、ストライキの長期化のため囚人の生命に危機の及ぶ例も出ている。「怒りの日」と指定された今年の5月9日には、5千人以上がハンガーストライキに参加した。行政拘禁自体は、第一次インティファーダの起きた1980年代から既に頻繁に行なわれており、当時も人権団体から批判されてきた。6月初め現在では180人以上行政拘禁され、そのうち100名前後がハンガーストライキを行なっている。

 

こうした背景から、今回の内閣統一交渉で最後まで難航したのは、外相人事と、囚人担当省をめぐる調整だった。外相については、ファタハ側が西岸政府の現職リヤード・アル=マーリキーを推したのに対して、ハマース側は副首相のズィヤード・アブー・アムルを推した。マーリキーはハマースに対して否定的過ぎるというのがその理由だ。結局、外相にはマーリキーが選任され、二人の候補者はそれぞれ以前と同じ役職を継続することとなった。

 

囚人担当省は、対イスラエル抵抗運動で家族が拘留されることの多いパレスチナ人にとって、重要な役割をもつ部局である。しかしアッバースは今回の改組で、囚人担当省の廃止を提案した。囚人解放の問題が和平交渉のつまずきとなったため、今後はこの問題を大統領の直接裁量権の下に置きたいとの考えによるものと推察される。交渉の末、こちらでもやはりファタハ側の意見が通され、囚人担当相職は廃止されることとなった。

 

外相職は今後の中東和平交渉の復活如何では、対イスラエル交渉に関わる立場となり、また囚人の問題は、多くの国民に影響するとともに残された交渉の課題でもある。これらの重要な争点でいずれもハマースが譲歩せざるを得なかったことは、今回の統一交渉における力関係を示唆しているようにも思える。

 

 

ラーマッラーの時計広場で開かれた囚人連帯集会(2011年10月) 

ラーマッラーの時計広場で開かれた囚人連帯集会(2011年10月)

 

 

 

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