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筋力トレーニングを

 

――社会学は就職の役に立ちますか。

 

役に立つと思います。大学を卒業すると「総合的」な仕事に多くつくことになりますよね。そうなると、特定の技術を身に付けるよりも、どこでもやれる能力が求められています。細かい仕事のやり方は、会社や上司によって違いますので、そこは大学で勉強しても仕方のないことです。

 

この「総合的な知的能力」って、面白いことに、逆に特定の学問の勉強を通じてしか身につかないんです。これって、たとえばアスリートになる方法と似ていると思うんです。まずアスリートになるには、特定のスポーツを極めることが必要になってくるでしょう。総合的な体力をつけようとするときでも、サッカーとか野球の修練を通してやるのがいちばん早い。

 

ですから、大学で学ぶ学問には、経済学や文学、工学など、いろいろなものがありますが、それらはすべて、「総合的な知的基礎体力」のために学んでいるんです。

 

そして、社会学というのは、特にその知的体力づくりの方法としてすごく適していると思うんです。

 

社会学では、いろいろな「社会問題」の勉強を通じて、いまの社会で生きていくうえで必要な、様々な知識を吸収することができます。特にフィールドワークは、現場に行っていろんなひとに会って、いろんな情報を持ち帰ってくる。仕事って、問題を立てて、現場で調査して、ひととあって、情報を持ってきて、それをまとめて分析して、ということが多い。これは、あらゆる仕事に共通する基礎体力でしょう。

 

社会に出るためには、パワーポイントの使い方やビジネス英語なんかより、こっちの方がずっと役に立つ基礎体力トレーニングです。だから、「かならず就職の役に立つよ」とぼくは学生に言っています。

 

そしてなによりも、この社会では、「普通」の枠にはまらない、多様な人びとがともに暮らしているのです。そして、人びとの人生そのものも、「当たり前」のコースには乗らないような人生が、たくさんあります。いまの社会で生きていくためには、こうした、「たくさんの様々な人びとが一緒に生きていて、そしてその生き方も、たくさんの選択肢がある」という知識と感覚は、ものすごく大事です。社会学はまさに、そういうことを学ぶ学問なんです。

 

 

本当はミュージシャンになりたかった

 

――岸先生はどういう高校生でしたか。

 

言いたくない(笑)。家に引きこもって本ばっかり読む子どもでしたね。飼っていた犬が唯一の友だちでした。高校では進学校に進みましたが、音楽にハマってロックバンドをして全然勉強しませんでした。実際に、3年間ずっと学年で最下位でした。

 

でも、すごく自由な校風で、成績が悪いからといってバカにされることも一切なく、ほんとうにのびのびと楽しく過ごしました。規則もユルかったし、先生もすばらしい方が多かったですね。当時はジャーナリストや社会学者の本を読んでいました。将来はミュージシャンになるか、社会学者になろうと思っていましたね。

 

 

――社会学の本を読もうと思ったのがすごいですよね。

 

ああ、でも読んでも分かんなかったですよ(笑)。ぜんぜん。でも、将来は学問をしようと思っていたんですよね。本を読むのも、自分で文章を書くのも好きでした。だから、そういうところに自分は行くんだろうな、っていう気持ちはありました。

 

 

――大学で社会学に進んだのはなぜでしょうか。

 

自分の中で、マイナーな方に、マイナーな方に行く力があるんです。東京と大阪があったら大阪に行きたくなってしまう。いろんな学問がある中で、社会学は法学や経済学と比べて権威が低いけど、そのぶん好き勝手なことができそうなイメージがありました。

 

ちなみに、大学はどこでもよかったので、受験勉強は一切しませんでした。そのせいで一浪することになります。一浪しているときもバンドばっかりやって受験勉強はまったくしなかったのですが、東京と大阪のいくつかの私大にまぐれで受かりました。そのとき、大阪の関西大学の入試で泊まったホテルの、すぐ横で発砲事件がありました。それで、不謹慎ですが、「ここは面白そうだ! ここに住みたい!」と、大阪への進学を決めます。そこから大阪が大好きで、いまも大阪に住んでいます。

 

 

――それから、大学では勉強三昧だったのでしょうか。

 

まったくそんなことありません。大学に入ってからジャズにはまって、ジャズミュージシャンを目指しました。実際に、当時はバブルで景気も良かったし、それである程度の金を稼ぐぐらいにはなりましたが、才能がなかったから泣く泣くあきらめました。今でもやっぱり、生まれ変わったら音楽家になりたいですね。本当は学者なんかなりたくなかった(笑)。

 

それで、学者を目指すんですが、大学院浪人したり、担当の教授が亡くなって博士課程に進めなかったりと、またさらにいろいろあって、博士課程に入った時にはもう29歳になっていました。その間は、日雇い労働者として建築現場で仕事をしていました。朝5時にドカタの仕事に行って一日中肉体労働をして、夜は遅くまで本を読んで、また朝早く仕事に行く……みたいな生活をしていましたね。同じ大学院の院生の女性と結婚したのもその頃ですが、当時はほんとうに辛かったです。塾の先生をしていたこともあります。

 

 

――岸先生のライフヒストリーの一端を聞いている気持ちになります。最後に、高校生へのメッセージをお願いします。

 

高校に入って、階層格差に気が付きました。ぼくがいたのは下町の町工場ばっかりの街で、貧しくて暴力的で、すさんだ地域でした。そこから一足飛びで進学校に入ったら、金持ちというか、もう貴族みたいに見えるわけです。

 

特権階級というか、優遇されているんだなと思いましたね。殴らない先生がいることにも驚きましたし。いまだに、自分のものの見方の中心に「格差」の問題はありますね。高校生の自分から続いていることを感じます。

 

そして、高校生の時を思い出すと、とにかく、自分の街から出たいという思いがありました。高校生に言いたいのは、お金に余裕があれば、都会の大学に出て欲しいと思います。ぼくの時代は大学の課題もなかったし、仕送りも多かったし、楽でしたが、最近の学生は大学の課題も多いし、バイトもしないといけません。下宿もお金がかかるんで、なかなか大変だとおもいますが、でも、どこでもいいから大学には行ってほしいと思います。

 

多様な価値観や多様な存在を認めることが社会学の根底にはあります。そのためには、共同体の中で暮らすよりも、いちど個人としてひとりで暮らした経験があった方が、より理解できると思うんです。

 

人間って、一度はひとりになったほうがいい。大学進学はその一つのきっかけでしょう。仕送りをもらって下宿するのでは本当の意味では一人とは言えないのかもしれませんが、一度自分の家族や地域から離れて暮らしてみて、色んなものから切り離されて、ようやく見えてくるものがあると思いますね。

 

 

ライフヒストリーがわかる!高校生におススメの3冊

 

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自分の本ですみません。南米から来たゲイの青年、「ニューハーフ」、摂食障害の当事者、シングルマザーの風俗嬢、元ホームレスのおっちゃんの5名の生活史を記録した本です。ふつう、社会学的な生活史調査では、語り手の語りは研究の目的のために分析や解釈をされるのですが、わたしはあえて、分析や解釈はおろか、編集さえもほとんどせずに、語りを語られたそのままのすがたで並べました。「生活史って、面白い」という、私がずっと思っていることを、ストレートに出した本です。ぜひお読みください。もうひとつ、『同化と他者化』(ナカニシヤ出版、2013)という本では、生活史を社会学的に分析しました。また、もうすぐ(2015年5月末)、次の本『断片的なものの社会学』(朝日出版社)も刊行されます。こちらもよろしくお願いします。

 

 

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『街の人生』のイメージのもとになったのがターケルの作品です。私は高校のときにターケルの本を読んで、「人びとの語りがずらりと並んでいるだけの本」というその発想そのものに深く感動し、いつか自分もこういう本を書いてみたいと思っていました。ほかにもいくつかの作品があります。扱われているテーマは深刻なものが多いですが、とにかく、ぜひ手にとって、人びとの語りにただ身を任せるという快楽を味わっていただきたいと思います。

 

 

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これは生活史の本ではありませんが、社会学的なフィールドワークの古典的名著です。1970年代の、イギリスの中学校での話ですが、現在の日本の中高生が読んでも全く違和感はないと思います。クラスのなかの、やんちゃな「ヤンキー」の子や、あるいはおとなしい「優等生」たちの生活と進路を詳細に描いた、「階層文化と若者文化」研究の決定版です。いま読んでもほんとうに震えるほど面白いです。高校生のみなさんにぜひ読んでいただきたいと思います。

 

 

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