2025.03.03
『これからの時代生き抜くための資本主義入門』(丸山俊一)
NHKを全く観ないという人は別として、「欲望の~」という番組や、その宣伝を目にしたことがある視聴者は多いはずだ。
本書は、「欲望の資本主義」や「欲望の経済史」、好評を博している「世界サブカルチャー史」など、多くのヒット番組を手掛けてきた名プロデューサーが、いわばその発想の源を明かすものだ(ちなみに評者もその昔「欲望の民主主義」という番組に携わったことがあったが、不評につき打ち止めになったと聴く)。
その根底にあるのは、ケインズやハイエク、シュンペーターなどの経済学者(彼らがいわゆる「経済学者」に留まる存在ではなかったことも本書を読めばわかるだろう)、あるいはボードリヤールといった思想家からのインスピレーションだ。
そこで突き止められる経済の正体は、利益でも価値でもない、欲望の体系としての姿である。欲望である限り、それは多面的に投射され、社会や国、歴史の境界線を越えていくものとなる。もちろん、欲望の解放が手放しに喜ばれているわけではない。欲望に引きずられれば、個々人は再現ない競争や徒労に苛まされることになるからだ。
欲望を正面から認め、それを飼いならしつつ、手玉に取るようにして主体的に楽しむこと――「教養」が主体性を立ち上げるための知識や理性だとすれば、これほど教養主義的な態度はないだろう。バブル時代の空気を吸って知的形成をした著者が、その時代精神を改めて意味付け、反省した思考の足跡でもある。多くの思想家の言葉の抜き書きは、それを追うだけで知的栄養にもなる。
プロフィール
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吉田徹
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学博士課程修了、博士(学術)。現在、同志社大学政策学部教授。主著として、『居場所なき革命』(みすず書房・2022年)、『くじ引き民主主義』(光文社新書・2021年)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書・2020)など。