2025.05.22
『民主主義はいつ成立するのか 時間と民意の政治学』鵜飼健史
「時間」が政治にどのような影響を与えるのかを考察する必要性は、これまで何度か唱えられてきたが、その理論的考察についてのマイル・ストーンとなる本が出た。
民主主義は人々による人々のための統治を意味するのであれば、その人と人は同じ時間と空間に共有していないとならない。しかし、民主的に何かを決定した時点で、すでに決定の対象は時間的にずれている可能性は高い。あるいは、民主的な決定を行うためには当然ながら内容を精査するための時間が必要となるが、決定することの緊急度が要する時間とズレる可能性が出てくる。
そもそも、日本は民主主義国家として戦後スタートしたが、その民主主義はその時の国民だけで成立するものなのか――確かに民主主義に「時間」という軸を挿入してみると、わからないことが多い。私たちは過去から来て未来に向かうなかで、他人たちと協働しながらも「いまここ」で決定しなければならない。その正当性や有効性は一体どこにあるというのだろうか?
評者なりの理解を踏まえて簡単にいえば、時間は様々な形で物事を偶然なものとする(本書でいうところの「カイロス」)と同時に、序列化させる力(本書でいうところの「クロノス」)を発揮する。民主主義も様々なものを偶然や場当たり的にする意思決定の仕組みであるため、その両者による相互作用によって、さらなる可能性が開くことになるはずだし、それこそが民主主義という政治のポテンシャルであるべきだということになる。
民主主義ってオワコンだよね、というのは簡単だ。しかしそんな認識こそが実はオワコンではないか、ということを広い地平を切り開くことで説得させてくれる本でもある。
プロフィール

吉田徹
東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学博士課程修了、博士(学術)。現在、同志社大学政策学部教授。主著として、『居場所なき革命』(みすず書房・2022年)、『くじ引き民主主義』(光文社新書・2021年)、『アフター・リベラル』(講談社現代新書・2020)など。