被差別部落と結婚差別

シノドス国際社会動向研究所(シノドス・ラボ)ではシリーズ「来たるべき市民社会のための研究紹介」にて、社会調査分析、市民社会の歴史と理論、政治動向分析、市民運動分析、地方自治の動向、高校生向け主権者教育、などの各領域において、「新しい市民社会」を築くためのヒントを提供してくれる研究を紹介していきます。

 

今回は、被差別部落出身者との恋愛や結婚を、出自を理由に反対する「結婚差別」の実態を明らかにした、『結婚差別の社会学』著者の齋藤直子氏にインタビューしました。(聞き手・構成/山本菜々子)

 

 

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ちゃんと差別のことを語ろう

 

――齋藤さんが被差別部落の結婚差別に興味をもったきっかけを教えてください。

 

私は死ぬことや葬式が怖い子どもでした。でもそうやって怖がることが、死に携わる人の差別につながるんじゃないか、だから乗り越えようと思ったんです。大学時代の卒論では地域で葬式をやっていた時代のことや、葬儀屋さんに聞き取り調査をしました。

 

大学院ではもう少し差別の問題を掘り下げようと、部落問題を研究することになります。結婚差別の研究をするきっかけは、2000年に大阪府が行った「同和問題の解決に向けた実態等調査」に参加したことです。どんな差別を受けたのか40人ほどに聞き取りすると、話された被差別体験の多くが結婚差別でした。

 

当時は、「差別」を中心に聞き取る従来の方法に批判的な生活史調査が流行っていた時代です。2002年には同和対策事業特別措置法を後継した法律の終了も決まっていて、部落問題はもう店じまいだと思われていました。いまさら差別を扱うなんて古いんじゃないかという空気もあって。でも実際に話を聞くと、差別はある。世の中の潮流からは離れてしまうけれど、ちゃんと差別のことを語ろうと思いました。

 

 

――部落差別の状況は改善しているのでしょうか。

 

難しい質問ですね。「良くはなってきている。しかし、新しい形になっている」と答えます。運動や行政の努力によって、明治時代のようなひどい状況はなくなってきています。かといって「なくなった」わけではありません。

 

また、「根強い」と言ってしまうことで、「そんなに差別が厳しいのであれば避けよう」と若い人たちが思ってしまうんじゃないかと危惧しています。冷静に事例をあげ、現状を伝えることが一番だと思っています。

 

では、何が新しいのか。結婚差別を例にとってみると、時代とともに、お見合い結婚から恋愛結婚へシフトしています。簡単に比較できるものではありませんが、ある程度の信頼関係がある恋人との縁談が破談になる場合、よりつらい思いをする人も出てくると考えられます。

 

またインターネットによって、相手の住所や、それに基づく「身元調べ」が比較的簡単にできるようになりました。今まで部落と無関係だと思って生きてきた人も、じつは親が部落出身者であることが、結婚のタイミングでわかることもあります。Q&A形式の掲示板では、部落の所在地を問うものが後を絶ちません。

 

 

部落差別はもうないのか?

 

――なぜ結婚のときに差別があらわれるのでしょうか。

 

結婚は、自分たちのメンバーに迎え入れるものだと日本では考えられています。部落出身でない人がはじめて部落差別問題の当事者になるのが結婚なんです。「差別していますか」と聞いて、していると正直に答える人はいませんが、被差別部落の人と結婚しようとしたときに、その相手や親がなんと言うのか。差別する側の行動が浮き彫りになります。

 

しばしば私たちは、差別される側の人たちは「なぜ差別されているの?」と問いかけてしまいます。しかし「なぜ差別しているの?」と問うた方が差別の構造がわかるのです。差別の主体は差別している側なんですから。

 

 

――では、なぜ「差別している」のでしょうか?

 

その理由は重層的になっています。

 

たとえば、近代身分制に基づく差別です。身分制度なんてとっくに無いのに、「身分が違う」と近代以前の身分制度を持ち出して差別します。貧しいことへの差別もあります。身分制度が無くなったのち、仕事を失った部落は窮乏化するのですが、その時のイメージから差別するのです。今は同和対策や戦後の経済成長の結果、生活は向上しています。

 

同和対策が行われると、「部落だけずるい」「あいつらは特権を得ている」とねたみ意識も生まれました。これは高史明さんが『レイシズムを解剖する』で言及していた「新しいレイシズム」(注)です。

 

(注)「あいつらは劣っている」と差別する「古いレイシズム」と区別される。「新しいレイシズム」では、「差別はすでに存在していないにも関わらず、差別に対する抗議を行うことで、不当な特権を得ている」と考え、むしろマジョリティの側が「逆差別」されていると主張する。

 

さらに、「理由はわからない」差別もあります。みんなが避けているから避けようと考えるのです。そうなると、もう部落問題の範疇とはいえないのですが、しかし、部落差別のひとつの大きな根拠になっているともいえます。

 

 

――以前、部落問題を扱った記事(東京に部落差別はない?――見えない差別を可視化するBURAKU HERITAGEの挑戦)をSYNODOSで掲載した際、「そのまま放っておけば差別はなくなるのに」という意見がありましたがどう思われますか。

 

これは、「寝た子を起こすな論」と言って、部落問題では昔から散々議論されてきました。差別があるにも関わらず、声をあげさせない。「マイノリティは黙っておけ」と言っているのと同じです。明治や大正の時代には部落や部落出身者が襲撃されたる事件がありましたし、戦後も例えば未就学の児童が多いといった状況がありましたが、そのような時代から考えるとかなり改善していますが、それは当事者運動が声をあげてきた成果ではないでしょうか。

 

しかし差別は続いています。2003年には100人以上の被害者がでた「差別はがき」事件がありました。部落出身者やその人の自宅周辺に差別的な内容のはがきを送り付けたり、名前を偽って高額な書籍や教材などを注文したり、その人の名前を騙ってハンセン病療養所に非常に差別的な内容のはがきを送りつけたりしたのです。

 

自宅周辺ではがきを受け取った人の中には、部落問題のことはよくわからないけれども、このような気味の悪い事件が起こるのは迷惑なので、被害者の方にこの町から出て行ってほしいと言った人もいます。現在も類似の事件は続いています。2011年には身元調査のために戸籍謄本が大量に不正取得された「プライム事件」も起こります。部落出身者の住所や、部落の地名がインターネットにさらされる事件が現在、問題になっています。

 

このような状態の中で、被害者が黙っても、差別だけが続いていくのではないでしょうか。「自然になくなる」というのは、自分が無関心でいたい気持ちへの言い訳です。当事者の側が「もう放っておいて」と思う気持ちと、関係ない人が「放っておけ」と言うのは意味が違います。

 

 

「夢を見るな」と言いたくない

 

――具体的にどのような結婚差別を受けているのでしょうか。

 

本の中から、実際の事例を紹介できればと思います。

 

 

【大阪 20代部落出身者 男性2000年】

良平さんは結婚前に、彼女に出自をうちあけた。彼女は良平さんが部落出身であることを「全然OK」だと思っていた。交際中はなにも言わなかった両親であったが、結婚の意志を親に告げたところ、反対を受ける。

 

 

このとき、彼女の両親は「私たちは反対しないけれども、妹の彼氏の母親が反対するんじゃないか」と言うんですね。

 

 

――妹の彼氏の母親……遠い関係ですね。

 

そうです。この「妹の彼氏の母親」が実際に反対しているわけではなく、憶測で言っています。そこには反論することができませんよね。説得する側が熱意をもっていても、誰に向かって言えばいいのかわからなくなります。

 

さらに、「妹に迷惑がかかる」と言われているわけです。そのことについて、「責任は取れない」と言えば「妹はどうでもいいのか、自分のことしか考えない」と言われ、「責任を取る」と言えば今度は「できもしないことを引き受けて、いい加減な奴だ」と言われてしまう。どちらにしても責められるのです。

 

私はいつも思うのですが、差別をする側の言い方ってすごく巧妙なんですよね。たぶん、この親が生み出したというよりも、どこからか学んでくると思うです。事例はそれぞれバラバラですが、社会構造の中で起こっているので、似たような反対の仕方が出てくるのだと思います。

 

 

――『結婚差別の社会学』を読むと、社会人になって自立していたとしても、親に反対されるのはすごく消耗することなんだと感じました。先ほどの良平さんの事例では、彼女が抑うつ状態に陥ってしまいますよね。

 

自分の親が自分の好きな人を差別しているわけですから、板ばさみになる人も、すごくつらいと思います。また、いきなり自分が当事者になってしまうことも、受け止めきれないという部分もあると思います。

 

 

――特に女性だと自分の結婚式に夢がある人もいます。

 

「結婚式なんかこだわるな」って言うのは簡単ですが、小さいころからの夢で人生のひとつの目標だと思っている人もいます。結婚や戸籍という制度の差別性もありますし、また結婚は内実が大切で、セレモニーにこだわる必要などないという意見もあると思います。しかし、結婚式に憧れてきた人や、親の祝福が子どもの幸せな結婚の条件だと考えている人もいるでしょう。

 

そんなときに「夢をみるな」ってアドバイスしたところで、それはアドバイスになっていないと思います。もちろん、いろいろ悩んだ末に、結婚式をしない、親の祝福は必要ないと、結果として本人が選択することもあります。でも、それは本人が決めることです。本人が望んでいないのに、結局マイノリティだけが我慢して諦めざるをえないなら、それも差別のひとつのかたちではないかと思います。

 

結婚制度や戸籍制度は、部落差別を含めたさまざまな差別を生み出しているということは確かです。ただ、それへの批判は、すべての人が取り組むべきことであるのに、いま結婚差別で悩んでいるマイノリティだけにそれを押し付けてしまいがちではないかと、釈然としない気持ちを持っています。私自身は、結婚制度に反対する取り組みと、結婚差別に反対する取り組みは、必ずしも対立するものではないと思っています。

 

聞き取りをしていると、「強くならなきゃしゃあない」という言葉を聞きます。差別に勝つためには、早く大人にならなきゃいけない部分がある。ふわふわと幸せでいることが許されない。それはすごくしんどいことです。【次ページにつづく】

 

 

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