繊細で微妙な「地位の差」を捉える

「教室内カースト(スクールカースト)」という言葉を知っているだろうか。クラスのそれぞれの生徒がランク付けされた状態を、インドの身分制度になぞらえ表現したものだ。「いじめ」が複雑化する中で、その背後にある「地位の差」に注目するのは若手教育社会学者の鈴木翔氏だ。「なぜあのグループは“上”であのグループは“下”なのか」、同学年の子どもたちの中に存在する「カースト」について鈴木氏に話を聞いた。

 

 

どうして研究されていないのか

 

―― 「教室内カースト(スクールカースト)」が話題ですね。この本は鈴木さんの修士論文をベースにしていると伺いました。まずは、このテーマを研究しようとしたきっかけを教えて下さい。

 

そもそも、「スクールカースト」という言葉を知ったのは、後輩の卒論指導をするチューターをしていたことがきっかけです。その当時、担当している後輩が、「mixiの人間関係はなぜそんなに面倒なのか」というテーマで論文を書こうとしていたんです。

 

その子が行っていたインタビュー調査の中には、「中学校の友だち、高校の友だち、大学の友だちとバイトの友だち、それぞれで微妙にキャラが違うのに、同じコメント欄で相手にしなければいけないから」mixiの人間関係が面倒なんだという発言がありました。

 

別にいじめられていたというわけではなくても、「この発言を中学の友だちに読まれるのははばかられる」というような、そういう面倒くささってあると思うんです。ぼくもそれに納得し、そのような中学・高校における「微妙な人間関係の面倒くささ」って、だれか研究していないのかと一緒に資料を集めている中で、「スクールカースト」という言葉に出会いました。

 

「スクールカースト」というのは、定義ははっきりしていませんが、なぜだかわからないけど、同学年なのに、感じる階層や、地位の差のことです。

 

「今、言われると地位の差って意識していたよね」と、その後輩と話し合いました。その卒論では、スクールカースト自体には踏み込みませんでしたし、当時はぼく自身も違う研究をしていたので、そのときはそれで終わってしまいました。しばらくして、自分の研究に一段落がついたとき、ふと「スクールカースト」のことを思い出したんです。

 

実際に文献を調べてみると、「いじめ」についてはよく言及されているのに、スクールカースト的なことも、スクールカーストそれ自体も、研究されていませんでした。扱っていても、「心が汚れているからだ」とか、「学級を壊せば解決する」といった感じなんですよね。後者についてはもっともですが、政策上は難しそうです。

 

実際に、ネットの匿名掲示板などではスクールカーストについて熱い議論が交わされています。どうして皆が認識しているのにも関わらず、研究が進んでいないのか疑問に思い、誰も研究しないなら自分の手で研究してみようと思いました。

 

 

―― その前は、どのような研究をされていたんですか?

 

「障害者もののドラマはなぜ感動するのか?」という研究をしていました。また、計量分析を使って、恋愛の研究もおこなっていました。

 

「スクールカースト」にしても、「恋愛」にしても、居酒屋などでずっと話を続けられるような気になるテーマだけど、実際にはだれも検証していないことに、ぼくは非常に興味があって。自分の気になったことや、考えてもわからないことを知りたいんです。それについてすでに自分の納得できる答えが出ているならいいんですが、もし自分が納得しないなら、研究したいと感じますね。学術的に解明されていることって、その分野の主流なところに偏っていて、解明できていないことが多いと思うんです。

 

 

「スクールカースト」をあぶりだす

 

―― 「スクールカースト」を調査するに当たって、どのような研究方法を取ったのでしょうか?

 

最初の研究計画としては、フィールドワークのつもりだったんです。

 

実際に中一のクラスに入ってやりました。一緒に授業を受け、休み時間にちょっと話を聞いたりして。女子なんかは、この前まで仲がよかった子同士が、いきなりしゃべらなくなったりとかするので、「どうしてなのかな」と、話を色々聞いていました。

 

その学校は「いじめも不登校もゼロ」とうたっていました。でも、傍から見ても幅を利かせているグループとそうでないグループがいましたし、そういった様相が生徒からも聞かれました。

 

しかし、一週間くらいで学校から、「これ以上の調査は難しい」と言われてしまったんです。その頃は、フィールドワーク以外にもさまざまな研究方法を勉強していました。そこで、インタビューや計量分析の手法も使って、この二つを組み合わせて研究しようと思いました。

 

 

―― 研究をしていて苦労したことはありますか。

 

まずは、データの収集ですね。今回の質問紙調査では、分析に適した質問項目を数多く含んでいる神奈川県のデータを使いましたが、もっと多様な地域についてもデータを集める必要があります。

 

それと、先生に対するインタビューでは苦戦しましたね。当時は「スクールカースト」という言い方ではなく、「クラスの中で、だれが上で、だれが下っていう地位の差はありますか。」という聞き方をしました。口には出しませんが、表情から嫌そうな感じが読みとれたり、怒って帰られる先生もいらっしゃいました。

 

 

―― 先生というのは、「スクールカースト」をどう理解しているのでしょうか

 

今回インタビューした先生たちは、スクールカーストを「地位の差」ではなく、「能力の差」であると捉えています。たとえば、「コミュニケーション能力の低い人間はいくら成績がよくても社会でやっていけない」という言説ってよくありますよね。それと同じ感覚で捉えているのではないでしょうか。

 

教師と生徒の間で、スクールカーストの認識に齟齬があると感じます。生徒側は明らかにスクールカーストを感じているし、スクールカーストが上位の生徒たちは、「先生に権力をおすそ分けしているんだ」と思っています。一方、先生は「こいつ人づきあいが上手い生徒だな」と、コミュニケーション能力の高い生徒を使って授業を回しやすくしています。お互いwin‐winの関係なんです。だからスクールカーストが維持され、強化されているという可能性はありますね。

 

 

―― 学生へのインタビューも難しかったのではないですか?

 

この研究では、大学生にインタビューをおこないましたが、とてもやりやすかったです。スクールカーストからはもう卒業しているので、話したくなる話題なのかもしれません。長いと5時間以上しゃべっていた人もいます。夢中になりすぎて、敬語じゃなくなる子もいたくらいです。一緒に、なぞ解きをしている感覚でした。

 

 

―― 「スクールカーストを感じなかった」という学生はいたのですか?

 

インタビューをおこなった限りでは、学生の多くはその存在を認めていましたね。ですが、学会や大学の発表では「なんの話をしているのかわからない」という人はいました。

 

これは、ぼくの憶測なので、きちんと調査をしないとわかりませんが、東大や学会に来る方たちというのは、少し特殊だと思うんです。だいたい「わからない」と発言される方は、男子校や女子高で中高一貫のトップ校だった人が多かったんですね。そうなると、受験という明確な目標がある分、そうではない学校よりも、人間関係に目が向きにくいのかもしれません。

 

 

―― スクールカーストがどこで発生するのかは興味深いですね。

 

もしかしたら、異性の目がないと、ゆるくなる可能性はありますよね。でも、話を聞くと、全国どこでもある程度、普遍的な感覚になっているようです。どこの地域出身の人でも、実際にこのテーマで話が弾むことも多いわけですし。

 

 

suzuki

 

 

 

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