帰ってきた統合失調症 ―― 100人に1人のよくある話

「ぼくはもうハウス加賀谷じゃないんですよ」

 

南部 再びメールを紹介します。「加賀谷さんに質問です。辛かったときに言ってほしかったこと、言われてほっとしたことはありますか?」

 

加賀谷 自分の場合はちょっと変わったケースだと思いまして。なまじテレビなどで取り上げられていた分、入院したとき、喫煙所を通りかかったら「あ、加賀谷だ!」って言われたんですよね。そのとき「ぼくはもうハウス加賀谷じゃないんですよ」って自分に向けてぼそっと言ったんですけど。職業柄なにも言われたくなかったです、そのときは。

 

荻上 話しかけられること自体、知られていること自体ストレスだったと。

 

加賀谷 そうですね、はい。

 

荻上 ただ、入院することになって芸人生活を一度ストップしたあと、しばらくしてからキックさんからの連絡は嬉しかったとお書きになっていましたね。

 

松本 仕事で症状を悪化させた部分もあったので、仕事に直結するぼくが頻繁に連絡すると焦らせると思って、3か月に1回、「どうしているんだ?」ってなんでもない話を電話でしていました。

 

加賀谷 キックさんから電話があったときは嬉しくて。副作用で苦しんでいたんですけど、「元気ですよー!」って。

 

松本 でも「まだ人と会うのが怖いんです」って言っていた時期もあったんですよ。本人は忘れていますけど。

 

加賀谷 入院中、心の中で大きくなったり小さくなったりしていたんですけど、必ずまたお笑い芸人に戻るんだって思っていたんです。だから唯一、何かやろうと思って小説を中心に週に3、4冊くらい読書していました。

 

松本 エンタメ性に触れていたかったんだよな。

 

加賀谷 そうです……ってあれ? これどういう質問でしたっけ?(笑)。

 

南部 どういう言葉に励まされたかです。

 

加賀谷 えっと、その、だからエンタメ性をすごく得ていたんですねー!

 

松本 なに無理やりまとめようとしてるんだよ(笑)。

 

 

100人に1人が罹る「よくある話」

 

南部 リスナーからのメールがぞくぞくときています。統合失調症の可能性の高いと思われる弟さんをお持ちの方からです。「病院で診断を受けることをすすめているのですが、『こんなに一生懸命やっているのに、病人扱いするのか!』と激怒して聞く耳をもちません。どう接したらよいのでしょうか?」

 

また医師に統合失調症と診断された方からのお便りも届いています。「高校3年の大学受験のときに、ほとんど知らない人に囲まれて大学に通うなんて無理だと思い引きこもりがちになり、それから1年くらいした後に統合失調症と診断されました。もう少し早く認識して病院に通っていたら、もうちょっと楽に学生生活が送れたのではないかと思います。中高生の精神病に早く気づいてあげる仕組みがあるといいのかもしれません」

 

功刀 ご本人の妄想などを否定しないほうがいいというのは一つの原則です。否定をすると、「自分はおかしいと思われている」ということで返って反発されてしまうんです。ですから食欲がないとか、眠れないとか、いらいらしているとかそういった症状をきっかけに病院に行ってみないかと話を持ちかけるのがいいと思います。二つ目のメールですが、早く治療することはその後の経過をよくするので、敷居を高くせずに、早めに受診できるようになることは大切なことだと思います。

 

松本 最初の質問って難しいことだと思うんですよね。ご本人が病気じゃないから行かないっていうのは。ぼくらもそういう相談を受けることもあります。どうすればいいんだろうって考えるんですけど、ぼくらの本を読んでもらうのが一番なんじゃないかなって。

 

加賀谷 ベストアンサー!

 

松本 半分冗談ですけど(笑)。やっぱり皆さんどこかしらに偏見があると思うんですよね。

 

加賀谷 本人にもね。

 

松本 精神病って悪いことだと思われがちですけど、全然悪いことじゃありません。100人に1人が罹るよくある病気です。加賀谷が最初にこの本に付けようとしていたタイトルが……。

 

加賀谷 「良くある話」。本当にそうなんですよ。だって100人に1人ですよ?

 

松本 メディアで取り上げられる精神疾患って極端なんですよね。犯罪であったり、綺麗なドラマであったり。本当に日常で起こっている話なんだって知ってもらいたいです。その認知が広がれば、精神科病院に行くことに抵抗を覚えなくなると思うんです。

 

 

薬を止めても調子が悪くならないことが怖い

 

荻上 先ほど少しお話に出ましたが、加賀谷さんの症状が悪化したきっかけはご自身で断薬したことなんですよね。

 

加賀谷 服薬コンプライアンスっていうんですけど、お医者さんから指示されている用法容量を守らなかったんですね。調子に乗って「このくらいの量でも大丈夫だろう」って自分で薬の量を減らしていたらだんだん具合が悪くなって。その状態で診察を受けると薬の量が増えるんですけど、それでも自分で飲む量を選んでいたんです。これは本当にやったらいけません。そんな簡単に飼いならせるようなものじゃないんです。

 

松本 そうこうしているうちに感情のコントロールができなくなって。

 

加賀谷 はい、狭い部屋にピンポン球を投げ入れたみたいに「ポポポポポポポンッ!」ってなっちゃって。仕事が終わって家に帰ると、なぜか涙がツツーッと流れて「なんでだろう?」って思ったり。

 

松本 しかも加賀谷の場合、絶対に他人に調子が悪いところを見せないようにしていたんで、入院が遅れちゃったんですよ。

 

加賀谷 入院する直前はあまりにもつらくて母親に電話したんです。そしたら最後の2か月は一緒に生活してくれました。そのときに「いまここで手を貸さないと取り返しのつかないことになると感じた」って言われました。

 

松本 最終的にはお母さんが説得をして入院することになったんです。

 

荻上 そのとき加賀谷さんはどんな様子だったんでしょうか?

 

松本 ぼくは悪化していることに気がつかなかったんです。本人も隠していたし、仕事も忙しかったので疲れているんだと思っていました。

 

荻上 薬を一回に200錠くらい摂取したと本に書かれていましたね。

 

加賀谷 OD(オーバードーズ)って言うんですけど、勝手な飲み方をしていたので薬が溜まっていくんですよね。それを一気に飲んで自殺未遂をしたことは何度かありました。普通たくさん薬を飲むと吐いちゃうらしいんですけど、ぼくは吐くこともなくそのまま昏倒してしまって。しかも次の朝、普通に目が覚めるんです。そのまま打ち合わせに行って、ネタを作って、帰る頃になって頭が異常に痛くなって。「このままじゃ死んじゃう!」って。

 

松本 死のうとしたんだろ?(笑)。

 

荻上 自傷行為ですからね。

 

松本 それだけコントロールができない状態だったんですよね。

 

功刀 怖いのは、薬を少しやめても調子が悪くならないことなんです。むしろ副作用がなくなって調子が良くなったような気がして、これなら薬を飲まなくたって大丈夫じゃないかと思う様になってしまう。しかしその間に、だんだん再発が起きてしまうんですね。【次ページにつづく】

 

 

 

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