2010.08.18

少子高齢化は経済にどのような影響を及ぼすのか 

片岡剛士 応用計量経済学 / マクロ経済学 / 経済政策論

経済 #少子高齢化

先日公表された2010年4-6月期GDP一次速報値からも明らかなように、我が国の景気動向は芳しいとはいえない状況だ。1990年代以降の長期停滞は「失われた20年」ともいわれるが、この現象に少子高齢化がどのような影響を与えたのだろうか。また、少子高齢化は日本経済の今後にどのような影響を及ぼすのだろうか。

少子高齢化の意味

まず少子高齢化について整理しよう。少子高齢化とは「少子化」と「高齢化」の同時進行を意味している。少子化とは人口に占める年少人口(0~14歳人口)の割合が低下することを意味し、出生率の低下がつづくことが影響する。

高齢化とは人口に占める老年人口(65歳以上人口)の割合が上昇することだ。そして「少子化」と「高齢化」は独立した概念ではなく、定義から少子化が進めば高齢化も進む。経済成長に関していえば、総人口に占める生産年齢人口(15~64歳人口)の割合が低下すれば、中長期的な成長力にもマイナスの影響が及ぶ。

つまり、少子化と高齢化は総人口に占める年齢階層別人口の構成を変化させることで、実体経済に悪影響を及ぼすのである。

「失われた20年」と人口指標との関係

では、総人口に占める生産年齢人口の割合は1990年代、2000年代においてどうだったのか。

以下の図表をみると、1990年における生産年齢人口の割合は69.7であり、1995年69.5、2000年68.1、2005年66.1、2007年65.0と低下している。一方で我が国の実質GDP成長率は、80年代平均(年率)で4.6%、90年代平均 (年率)は1.2%、2000年から2008年の平均(年率)で1.2%である。

大雑把にいえば、少子高齢化が過去20年の経済停滞に与えた影響は一様ではなく、むしろ違う要因が影響しているといえる。

もちろん、実質GDPは潜在GDPとは異なるため、供給サイドの成長力とは異なるという指摘もあるだろう。

供給サイドの成長力という視点で考えれば、 90年代後半から我が国はデフレに陥っているため、実質GDP成長率が潜在GDP成長率よりも平均して高いということはない。

とすれば、2000年代の潜在成長率は実質成長率よりも平均して高いことが予想される。そうすると、2000年代は総人口に対する生産年齢人口の割合は低下がつづく一方で、1990年代と比較して成長力が高まったことになる。

いずれにしても、結局、少子化・高齢化がもたらす人口構成の変化が、過去20年間の長期停滞に大きな影響 を与えたと考えるのは難しい。

少子高齢化と今後の経済成長との関係

少子高齢化の影響が顕著になるのは、今後数十年間のタームにおいてだ。

従属人口指数[従属人口の生産年齢人口に対する比]((0~14歳人口+65歳以上人口)÷15~64歳人口)をみると、2008年は55.2%だが、将来人口推計の姿から、2055年にはこの割合が90%を超える局面が生じると予想されている。

ちなみに図表で取り上げた従属人口指数では、1920年の71.6%が最大であり、2030年台に70%台に到達することが予想されている。

ただし1920年の71.6%と いう数値は、年少人口の増加によるところが大であり、老年人口は少なかった。一方で今後予想されるのは老年人口指数の拡大と年少人口指数の減少という局面である。この意味で問題はより深刻だ。

1960年から2008年までの従属人口指数の動きは50%半ばを上限として推移しているため、本当に90%を超えるような状況が生じれば、我が国 への成長力に大きな影響をもたらすのは避けられないだろう。

たしかに、将来の懸念が現在の経済活動に及ぼす影響もあるのかもしれない。

しかしながら、人口が経済に与える影響は、今後数年間というタームで生じるものではない。問題の性格と対応策を正しく認識し、適切な対策を行えば改善への道はあるはずだ。

少子高齢化・人口減少とインフレ・デフレとの関係

総需要の停滞とデフレがつづく現在の状況とは、問題の種類が異なるという点も認識すべきだ。

デフレは、総需要が総供給を下回る、もしくは支出のスピードが供給のスピードを下回ることから生じる。人口減少は先に述べたように、中長期的な成長力(供給力)を低下させるため、インフレ要因であってデフレ要因ではない。

人口減少がデフレに繋がるという議論は、「人口減少により国内市場が縮小する」という認識によるのだろう。

だが、人口が減り国内市場が縮小するとの見通しが高まれば、企業は海外に進出して国内需要減少分を輸出で補おうとするはずだ。仮に輸出増で国内需要減少分が補えるとすれば、人口は減るのだから一人あたりGDPは増加する。そうすれば国内需要も増えるだろう。

つまり人口減で国内市場が縮小することはないのである。

さらにいえば、少子高齢化が進む未来にあっては、市場構造が現在とは異なるだろう。高齢者が増えれば、高齢者のニーズを反映した商品を供給しようと市場は変化するはずだ。

将来どのような市場が生じるかは不確実だが、産業構造は確実に変化していくため、現状の産業構造にもとづいて国内市場の縮小を論じることは意味がない。

そして、市場規模は量と質(単価)によって決まる。

人口減少は量の低下をもたらすが、逆に質が高まる可能性もある。公表統計からは高齢者は高級品を多く消費する傾向にある。高齢者の比率が高まれば、量は減るものの質は高まるため、市場規模の縮小は生じにくいのではないか。

以上、少子高齢化と経済との関係についてまとめてみた。人口変化は日本経済の将来像を考えるにあたりもっとも確実な変化のひとつであって、問題は深刻だ。だが、事実を認識し、対策を行えば、解決不可能な問題ではない。問題の正確な理解と対策の着実な実行こそが求められているといえるのだ。

図表:各種人口指標の推移 注:生産年齢人口/総人口=15~64歳人口/総人口、従属人口指数=(0~14歳人口+65歳以上人口)/15~64歳人口、老年人口指数=65歳以上人口/15~64歳人口、年少人口指数=0~14歳以上人口/15~64歳人口 出所:総務省統計局『日本の統計2010』(http://www.stat.go.jp/data/nihon/g0302.htm)より筆者作成。
図表:各種人口指標の推移
注:生産年齢人口/総人口=15~64歳人口/総人口、従属人口指数=(0~14歳人口+65歳以上人口)/15~64歳人口、老年人口指数=65歳以上人口/15~64歳人口、年少人口指数=0~14歳以上人口/15~64歳人口
出所:総務省統計局『日本の統計2010』(http://www.stat.go.jp/data/nihon/g0302.htm)より筆者作成。

推薦図書

われわれは不確実な未来に生きているが、そのなかでも比較的たしかに予測できる分野があり、それが人口問題である。本書は人口問題の何が「問題」なのか、人口変化が経済成長、産業構造、社会保障等に与える影響について、緻密な筆致と簡潔なまとめが同居した稀有な書籍である。人口問題は決して我が国のみの問題ではなく、アジア経済の問題でもある。日本のみならず世界経済の今後を考える際にも有用だ。是非一読をお薦めしたい書籍である。

プロフィール

片岡剛士応用計量経済学 / マクロ経済学 / 経済政策論

1972年愛知県生まれ。1996年三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。2001年慶應義塾大学大学院商学研究科修士課程(計量経済学専攻)修了。現在三菱UFJリサーチ&コンサルティング経済政策部上席主任研究員。早稲田大学経済学研究科非常勤講師(2012年度~)。専門は応用計量経済学、マクロ経済学、経済政策論。著作に、『日本の「失われた20年」-デフレを超える経済政策に向けて』(藤原書店、2010年2月、第4回河上肇賞本賞受賞、第2回政策分析ネットワークシンクタンク賞受賞、単著)、「日本経済はなぜ浮上しないのか アベノミクス第2ステージへの論点」(幻冬舎)などがある。

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